第16話 転生後で二度目の死
ーー魔法さえ使えたら
私は部屋の中で父を待ちながら魔法の練習をする。今後の戦いで私が魔法が使えれば結果は全く変わる。
そうしてアイナの応援とともに魔法の練習を重ねたが、成果は全くのゼロだった。発動の気配すらない。何か根本的に間違えているのだろうか。
あるいは、私がこの世界の人間ではないからか。
時間だけが無駄に過ぎて、約束の一時間後となる。
「ロザリア、行くぞ!」
その言葉とともに父が入ってきたのだが、父の脇には二人の屈強な男がいた。用心棒か、と思っていると、その男達は私の両腕を掴んで拘束した。
「お父様、これはどういうこと!?」
「私とミアはロザリアに少しばかりの休養が必要だと判断した。自然溢れる療養施設でーーたったの一ヶ月でいいんだ、過ごしてほしい」
あ、これ精神病棟行きコースだ。この世界には精神病棟はないだろうから、それに似た何らかの施設。
私は男達に引きずられるようにして連行される。
「ロザリア、楽しんできてね」
扉の前にいた母はハンカチで涙を拭きながらそう言った。なんて薄情な親達なんだ!!
屋敷の外まで、私はまるで木材を引きずるかのようにして男達によって持ち運ばれた。
「待って、アイナも連れていかせて!」
馬車に詰められる寸前に私はそう叫ぶと、
「もちろん構わないよ、ロザリア」
父と母は最後には笑顔で私は見送った。弟の姿はなかった。ドナドナである。
馬車で私は屈強な男二人に挟まれ、向かいにはアイナとなんとも言えない状況になっている。とてもではないが逃げ出せそうにない。男二人と腕組みされていないだけましだけど。
「アイナ、私についてきて嫌じゃない?」
「そんなことはありません」
そうは言ったものの、思案顔をするアイナ。
「どうしたの?」
「御当主様が私まで簡単に送り出したじゃないですか」
「それは……」
私は言い淀んだ。ブラッドレイン家でアイナを必要としないから私と一緒に送り出した。その可能性もある。
それをアイナが察したのか、
「私のことじゃないんです。もしかしたら、御当主様も奥様もロザリア様を信じたんじゃないかと思って」
「信じた?」
信じてるのなら、娘を精神病棟にはぶち込まないだろ!
「ロザリア様だけでしたら、治療目的かなと思ったのです。これから私達が向かうのは北西、ウォールから西に位置するロック療養院です。ロザリア様が思うように、精神病患者の療養を目的とする山の中の病院みたいなものです。介助する人間も完備されているので、そこに私をお供に連れて行く意味は全くないのです」
「アイナも連れて行く意味ーー」
私にもわかった。私を信じた、というアイナの言葉がどういうことなのか。
「はい。私達を逃がすためです。でなければ、私を二つ返事で療養院には送りません」
「お父様とお母様は二人で戦う気!?」
「おそらくは。メイドやアッシュ様も逃がしているかもしれませんね」
馬車から降りようと少し身を起こしたところで、二人の屈強な男の屈強な視線が私を捉える。あと少しでも逃げる素振りをしたら、両腕にマッチョを抱えるモテモテ女子になるだろう。それだけは避けたい。
私は座り直し、馬車からの脱出を諦める。
4時間ほど馬車で過ごし、やがてロック療養院にたどり着いた。山の中、とアイナは言ったけれど、山の上が正しかった。なかなか険しい山道を登ってようやくたどり着いた。あまりの揺れに私もアイナも吐きそうになった。
周りは崖。後ろは開けた崖沿いの一本道の山道。野盗が来るとして、昼であれば一本道のため一目瞭然、夜であれば危険な道のため明かりは必須でこれもバレバレ。ここは地理的に堅牢だ。
私達は個室に案内される。精神病患者の療養施設だけあってイカれた患者ばかりだったが、病院側が交流がないように図ってくれている。個室内で食事を摂り、そのまま就寝。たまに聞こえる叫び声を除けば、非常に快適。
「ブラッドレイン様!」
焦った声で目覚めると、悲痛な顔をした看護婦が近くに立っていた。私はもうわかっている。これはーー訃報だ。
「お父様とお母様がお亡くなりになりました。怨恨なのか、野盗なのか、それはわかりません。犯人はまだ捕まっていないそうです」
それを聞いてわっとアイナが泣き出す。私は泣けなかった。
「メイド達が殺されたか、聞いてる?」
「逃げたのか、たまたまなのかはわかりませんが、被害に遭ったのはブラッドレイン様の御両親だけと伺っております」
私は両親が事前に弟とメイドを逃がしたのだと確信する。
「これから私達はどうすればいいの?」
「一ヶ月はいかなる理由があってもここから出してはならない、と申しつかっております。料金の方も一ヶ月分貰い受けております。申し訳ありません。御両親の葬儀にロザリア・ブラッドレイン様が向かうことはできません」
「そう……それなら仕方ないわね。ありがとう。もう大丈夫だから」
そう言うと看護婦が出ていった。
私はアイナのベッドに腰掛け、彼女に寄り添って頭を撫でる。一時間してアイナが泣き止んだ。
気分転換に院内を歩くことにする。それくらいの自由はあるようだった。院の外に出ることは叶わないが、中庭へは出ても良い。中庭には日差しが差し込んでいて、花壇に咲く花は日差しを受けてきらめていた。
中庭にも何人か患者がいたが、みんな日を浴びながら座り込んでいる。大人しい患者ばかりだった。
私とアイナは少し散歩をする。日差しが暖かい。アイナも私も、ほんのわずかな時間だけ父と母の死について忘れることができた。
突然、吐血。
音もなく、私の胸元に短剣の柄ーーもう刺さっているので刃は見えないが短剣だろうーーが現れる。
「ロザリア様!」
「アイナ、離れて!」
私はアイナを突き飛ばしつつ、前に倒れ込んだ。
「あにゃしの流儀は『確殺』にゃ。それにしても、もう崖登りはこりごりにゃ〜」
透明化の魔法を使う暗殺者、ニャリ・ロゴナス。彼女が来たのだ。最後の力を振り絞って周りを見渡すが、彼女の姿はない。透明化を維持し続けているのだろう。
アイナの悲鳴はまだ聞こえない。ターゲットが私だけならアイナを殺す必要はない。少しだけ安心した。
にゃはははという笑い声とともに、私の意識は切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます