第11話 狐男との出会い4
破壊の賢者と破壊神。それらに関連が全くないとは私には到底思えなかった。
「破壊神? なんやそれは」
「聞いたことないの?」
「ないで」
「私もありません」
キキリだけでなくアイナも知らないと言う。ゲームでは破壊神の復活が噂されている、というような設定あったと思うのだけど。
「ロザリア嬢はどこで破壊神なんて言葉知ったん」
どう答えたものか。ゲームのラスボスでした、なんて言えない。そもそも、賢者の設定がゲーム内にない時点でここが本当にゲームの世界なのか、わからなくなってくる。地名や登場人物は合っているのだけど、この狐男であるキキリもゲーム内には出てきてないし。
「私はええと、いずれ世界が破壊神によって滅ぼされると聞いているのだけど。キキリはそれを占いで見たりしたことはないの?」
私は彼の能力に疑念を向けるような言葉を発することで、どうやって知ったのかという部分をうまく逸らすことができた。
「見たことあらへん。僕の占いでわかるのはせいぜい一週間から一ヶ月くらいの範囲や。もし、破壊神とやらが現れるのがまだまだ先なら僕にはわからへん。しかし、神というのが引っかかるな。賢者は神ではあらへん。賢者はこの世界のルールであり、明確に神とは違う。神はあんたら人間も信仰しとるやろ? たしか一神教やったっけ。こんなこと言うのもあれやけど、神は実在せえへん。少なくともこの時代においては。昔いたとかいなかったとかは知らへんけどな」
設定資料によると、バレス国では魔法をこの世界にもたらしたと言われるマギドという神を信仰している。各地にマギドを象った石像が作られているし教会もある。
「僕達獣人は神を信じてはおらへん。けど、賢者は信じとる」
「そっか、私達に賢者信仰がないのはマギド信仰があるからか。一神教としては、賢者信仰はちょっと不都合だもんね」
「だろうな。うーん、賢者と神を取り違えることがあるはずないんやからかなり引っかかるなぁ。まあわからんこと考えてもしょうがないか」
「ところで」
声色を改めて私は切り出した。
「私のことは占えないの?」
「あー、そやったそやった。ロザリア嬢の因果の糸、なんか見えへんのや。存在してへんのかな。普通の人はみんなあるんやで。見えへんのはこれで二人目や。因果の糸から僕は未来を読む。読むちゅうても漠然とわかるくらいなんやけど。ただ、ロザリア嬢、糸が見えへんと言うても大きな流れは見える。これがおもろいから話したかったんや。あんた、死に取り憑かれとるで。何度も死ぬことにーーいや、おかしいな。そんなわけあらへん」
私は転生前に聞いた、女神のような声ーー「死に続けて」を思い出した。
「今のは忘れてくれや。僕はもちろん、5000エル分の働きはするで。ロザリア嬢は無理でも、このちっちゃい嬢ちゃんなら見れる」
「私、ちっちゃくないです」
アイナは頬を膨らませて反発した。
たしかアイナは中学生くらいだったはずだ。その年齢にしては小さくて小学生感がある。
「払った分だけ働くと言うならそれでいいよ」
「よし! じゃあちっちゃい嬢ちゃんならぬ、ビックな嬢ちゃんを占うとするか!」
「ビッグでもないです」
「わがままやなぁ。そんなんじゃあ大きくなれへんで。まずは心から大きくなりぃや。さーて、占っていくで」
キキリはかがんでアイナと目線を合わせる。見えない糸をたぐるように、手を上下する。それを十数秒したかと思うと、見えない糸を指で巻き取るかのように人差し指を回し、
「よし、見えたで! 残念なお知らせや、おじょーちゃんは今日死ぬで」
そう朗らかに言ってのけるのだから、やはりこの男、全くわからない。
「ちょっとあんた!!」
私はキキリの首元を掴み、近くの壁に押しやった。しゃがんでいたキキリは尻餅をつく形となった。
「ぼ、暴力反対や。僕は仕事してるだけなんやから」
キキリは両手を上げて降参の意思表示をする。アイナは、このやりとりを見てなのか、死ぬと言われてなのか、ともかく不安そうな表情をしている。両方かもしれない。
「その占いは確定なの?」
「あくまで占いやで。未来予知とはちゃう、確定なわけがない。ただ、因果というのは困ったもので、おっと、因果と困るをジャレにしてるわけやないで、怒らんでくれ、僕は真面目や。因果には収束力っちゅーんかな、修正力っちゅーんかな。わからんけど、そういうものがある。変えようとしても、元の結果に収束しがちなんや」
SFのタイムマシンものにはそういう傾向がたしかにある。死んだ妻を救おうとするが、どうやっても救えない、そんな映画があった。シュタインズ・ゲートもそれに近い。
バタフライ・エフェクトーー風が吹けば桶屋が儲かるという諺のような、小さな行動が関係のないところで大きな影響を与えるーーとは真逆のSF的思想。
「変える方法は、ある」
私は自分に言い聞かせるように言った。
「そうや、方法はあるんや。難しいのはちょっとやそっとの試みじゃ元の結果に戻ってしまうことやな。小川を因果のイメージとしてくれ。そんで一つの行動を小石とする。小川ゆうても流れを変えるには小石一つじゃ無理やろ。小石を敷き詰めてせき止めるとか、大きな岩を置くとか、そういうことが必要やろ」
「その結果を回避する方法はある?」
「因の方ーーつまり原因をなくしてしまえば、収束も何も因果自体消えるから簡単やけど。今日死ぬと出たからまあ無理やろね。もう原因は走っとる。あとは無慈悲な結果がついてくる。因が何なのか、僕には見えへん。見える時もあるけど、今回は見えへんかった」
私は彼を胸元を掴んでいた手を離し、立ち上がった。キキリも立ち上がり、臀部についた土を払う。
「すまんなぁ、僕も力になりたかったんやけど」
申し訳無さそうな声色と表情をしているが、どうもそんなこと思ってなさそうな感がある。
「いいわ。この情報だけでも、本当であるなら貴重だから。行こう、アイナ」
私はアイナと手を繋ぎ直した。アイナが強く手を握ってくる。
私達はキキリに背を向ける。
「必ず私が守るから」
私もアイナの手を強く握った。
「いいえ、私がロザリア様をお守りすべきなのです」
アイナは震えた声でそう言うのだが、小学生くらいの背丈の彼女では全く説得力がない。それに、主人とは言え、メイドに命までかけてもらいたくはない。そんな関係はいびつだ。王と家臣ではないのだから。
「毎度〜! 5000エルくれればいつでも誰でも占い大歓迎やで〜、またよろしゅう!」
去り際、キキリは背を向けている私達に言った。
「誰が利用するか!」
私は振り返って大声でキキリに悪態をついた。
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