9/1 ゆずサイダー

冷蔵庫の中にずっとあるままであった。


家族内でなんとなく誰が飲むものか食べるものか、よくわからなくなるものが時々ある。

お土産でもらって入れてあるような、そんな。


優しい水色の瓶に入ったゆずサイダーもそんな存在だった。


私は、母が柚が好きであったから母が飲むものだと思っていたが、おそらく母は私が飲むものだと思っていたような気がする。


賞味期限は8月に切れてしまっていたが、気にするタチではないので、なんとなくいつ飲むか見計らっていた。


母が亡くなり一月経った。

少し、泣かない日が増えた。


なんだか暑いなぁと冷蔵庫を開けたら目が合った。


瓶のまま口に付ける。

ゆずの柔らかな味、澄んだ色のサイダー。


炭酸が妙に辛口に感じる。


うっすら涙が浮かぶ。

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何者にもなれない 初桜 光 @ruriiro01

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