8/20 はは

とても落ち込んでいる。


職場であまりに図星だが、しっかり人間性を否定されてしまったからである。

とっても大雑把に言えば、職務上もっと明るくなりなさいみたいなことなんだが、自分は自分の穏やかな部分の方が好きだから、いわゆるチャラっとしなきゃいけないのは辛い。

ここまでは愚痴である。


こんな愚痴をここに書き記す必要は今まではなかった。


もともと弱音をパカスカと吐くタイプでもない。どちらかといえば怒りに変えて吐き出すタイプである。

でも弱音にしろ怒りにしろ聞いてくれる人がいなくなってしまった。


母が亡くなった。


先月、突然のことだった。


よくピンピンコロリとか言うけれど、実際にピンピンコロリされるのは堪らない。

そもそも50代であった母は長寿ではないだろうけれども。


業務を終えてそろそろ帰ろうかと職場に居た時、母が息をしていないという電話が来た。


連絡が来た瞬間は冷静だった。

動転した祖母は何故か救急車より先に私に電話をかけてきていたから、とりあえず早く呼んでくれと頼んだ。


それから職場の人に事情を説明して、帰路に着く。

職場を出て、兄に電話をかけて事情を伝えると急に起きた出来事が現実なのだと感じられて涙が溢れてきた。


連絡が来た段階で、きっともう一度会うことが難しいことはぼんやりと頭で理解していた。


やはり、母は亡くなってしまった。


保険証を探しに家によると、救急隊が母を運び出すための動線確保のために、荒れに荒れていた。まあ元々決して綺麗な家ではなかったのだけども。


それから病院で、温度の無い母に触れた。

突然死のため、いわゆる事件性があるかの調査のため警察に引き渡さなければならなかった。


家に帰ると、警察が証拠の写真などを撮っていった。


次の日はちょうど仕事休みだった。

葬式の段取りを決める話し合いに参加する。

母は向日葵が好きだという新情報を父から聞く。ただ偶然、生前母に向日葵の話をする機会があったが、その際好きな素振りは一切なかったが……。まあ父を、父の思い出を信じた方が良いだろうと。

式場の方は花は選べないので色味だけとのことだった。


そう、兄は理性に生きているので、母が頑張ってる間は自分が帰ってこようが変わらないだろうけど、死んだらすぐに帰ってくると言って、すぐに帰ってきた。

なんてやつだ、と思うが、それでこそ兄である。


母は大きなひとであった。


身体が。


生活の中で膨らんでいた。


そのため、結婚指輪が外れなくなっていた。

しかし、やはり形見にしたかった。

式場の人に無理を承知で頼んだ。

自分でもネットで調べて、タコ糸を買った。


それからは色々と部屋を片付けたり棺桶に入れるものを調達したりした。


母と観に行った舞台のチケット、母が好きだった物に関する書籍、好きだった物たち、好きだった食べ物、新しい洋服、マスカラタイプの白髪染め、マニキュア。


当日は入れたいものをめいっぱい入れて、白髪を染めて、マニキュアを塗った。


白く包まれていく母はなんだかとっても幼く見えた。


式場では入り口から向日葵が出迎えてくれた。

喪主の花の向日葵の推しっぷりには笑ってしまうほどだった。


それから結婚指輪も外してくれていた。

母の指はかなり指輪の食い込んでいた跡が残っていて、いったいどのようにしたら外れたのか、七不思議が残った。


病院で会った時から、火葬場まで、母に声を言葉に出してかけることはできなかった。

一言言葉を漏らせば、自分が立ってはいられなくなると分かっていたから。


一連の儀式を終えて、やはり死者のためのものではなく、生者、のこされたもののためのものなんだなぁと感じた。


母の指輪は今私の人差し指にある。


それからの日々、意外とメンタルは元気だった。落ちる時もあったが、仕事もあったし比較的安定していた。

趣味もちょうど色々と開催されている時期だったので、それも元気の源だった。


でもあの日から母が帰ってきてくれたらなって願わない日はない。

ずっと寂しい。


そんな中で今日は結構普通に凹んだんだけど、凹んだらセットでああ、こんな時に話を聞いてくれる母はいないのだと実感する。


家に帰れば、いつも母は私が帰る時間まで起きていたけど、今は暗い家に帰らないといけない。そんな日々が毎日が自分の心を刺してくるけど、刺さっていることに気づくと泣いてしまうから違うことに気を向けるようにしていた。


でも今日は逃れようもなく、ただ落ち込んでしまった。


逃げ込むように鳥貴族へ。


ひとりカウンターでボロボロ泣く。


そんな時でも焼き鳥は美味しいから笑っちゃう。


母が生前ずっと「私より早く死んではダメよ」も言っていた。


その母の願いは叶ったのである。それは私の小さな慰めになっている。


仕事向いてないんだろうなぁと突きつけられてぐうの音も出ない。

まあそれでも仕事がなくなれば、本当に自分と世界を繋ぎ止めてるものがなくなってしまう。


心の自分を殺してでも変わらないといけない時なのだと思う。


そんなわけでここへ吐き出した。

このことも前は最後まで書ききれなかった。徐々に向き合えていくこともさらに別れを加速させるようにも感じるが。


ピンピンコロリもそんなうまくいかない。


ピンピンコロガタガタドーンバタバタシーン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る