忘却

@TerabayasiYuko

第1話

俺は社会のゴミだ。騒々しい電車の中で目を瞑り人生を振り返る。そうしようと思ったが、何も出てこない。こんな薄い人生だったのさ。終電まで乗り、そのまま回送列車で反対の終点まで帰る。そこで電車から降り、いつも行っていた綺麗な夜景の見える浜へ行った。暗い空の下。月明かりはなくただ人工的な街灯でできた空虚な光で美しく輝っている海のそばに女性が座っていた。彼女は今日も涙を浮かべそこに座っている。彼女は俺を愛していた。俺も彼女を愛していた。1番の悲しいことはお互い愛し合えないことでも、かつての恋人を思い出す感覚でも、一方的な報われない愛でもなく。愛し合っていることだと俺は思う。彼女はレトロなカセットプレーヤーを聴いている。たった二つの曲を延々とループしている。ピーとカセットが巻き戻る音がして、彼女はやっと瞬きを一回した。曲が流れ始めると、俺は彼女に近づいた。俺の手は彼女に触れられない、それでも彼女の手に自分の手を重ねた。

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