第15話火口鏃

「所長……っ!!!!」

それが分かったのは自分で熱い場所を手で触ったからだ。

血で汚れた手を見て、起き上がろうとするが力が入らない。

そして痛みが後から来て、呻く。

顔を上げる。そこには先程喋っていた容疑者が異常に手を震わせて、僕を睨みつけてる。

「じ、邪魔するから、こうなるんだよっ!!」

充血した目。視線が定まらない様子。

異常な震えと興奮。

初めて人を刺したのだろう男は、口元をニチャァとさせる。

「そうだ。お前とこいつらさえ居なくなれば!」

市販で売られている牛刀を片手に、男は動揺する灯と無表情の火口君、そして赤沢ミミを見る。

「蛇嶺さん……。彼女、預けてもいいですか」

「え、ええ……。で、も火口さんは?」

無理矢理、赤沢ミミを預けてきた火口に灯が疑問を口にする。

「勿論、こうなる場合の俺なんで」

頭に血管を浮き上がらせ、サングラスの巨人は容疑者と向き合う。

「あなたはそこに居る男性を刺した。そして自分とそこの少女を殺すつもりなんですか?」

「人を刺したんだ!殺人未遂でまた豚箱に入るなんて、刑期が長くなるのはヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダっ! 目撃者は殺すしかないんだよ!」

「保身で他者を害する、腐れ外道めっ!!」

包丁をぶん回しながら火口君に向かう男だった。

が、男の腕を火口は豪速球のような速さで横から裏拳で殴る。

鈍い音がして、手から包丁がこぼれ落ちた。

「ひっ!!」

「オラッ!!」

痛みで呻いて手を抑えて泣き叫ぶ男に、怒りの形相で火口の凶悪なラリアットが今度は男の腹から身体を吹き飛ばす。

火口鏃は口から泡を噴いて気絶する男の両手をナイロンロープで固定すると、急いでツバキの方へ走る。

ツバキのスマホからは大声で狼狽している月花の声が聞こえて、火口は急いで拾う。

「社長!! 火口です!! はい、ツバキさんが背後から腹部を刺されたようです。はい、はい……分かりました。自分でも対処出来る範囲で対応します。今回の不祥事は後程。失礼します」

電話を切り、火口は自分のワイシャツの袖を力技で破くとツバキの傷口に当ててナイロンロープで固定。

動かさないよう楽な姿勢にさせていると視界が虚ろなツバキに灯と火口が声を掛ける。

「所長……死なないでっ!!」

「ツバキさん、もうすぐ迎えが来ます!」

ツバキの手を掴み、泣き叫ぶ蛇嶺灯に

「わ、るい、迷惑を掛けた。後、死ぬか馬鹿、野郎──」と灯の手を力なく握り返しながら言い、気絶する。

「い、や……。ボクを独りにしないって、僕とずっと一緒に……いや、いや……っ!!」

火口が慌てて灯に語り掛けるも、灯は虚ろな目で聴こえていないのか、ツバキの手を抱き締めて泣き叫ぶ。

一通り泣き叫ぶと「なんで」と言い、唐突に糸が切れたように灯も気を失ってしまう。

火口は、現状に頭を抱たい気分で痛む腹を撫でる。

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