第14話逃げたけど

流石にこのまま、被害者を連れ歩く訳も行かず、近場の公園で待機していた火口、灯と合流。

火口の話では迎えのハイエースが来るそうだ。

「罠無駄になりましたね」

灯が持っていたのは防犯ブザーが複数個。

容疑者が逃げた時に鳴るよう、先端をナイロンロープで固定。

犯人が足で引っ掛けるように電柱に括りつけていたのだ。幸いにも2人に怪我はないようで安心したツバキの心情を狙ったようにスマホが鳴る。

「非通知?」

嫌な予想は僕の場合はおおよそ当たる。

「こんばんわ、ツバキ」

「はぁ……。まだ終わってないぞ、月花」

「私の大事な左腕を貸した、私に対して随分なご挨拶だわね。まぁ、ツバキらしくていいわ──本題に入る」

言葉を一旦区切り、先程までの軽薄さが真剣味を帯びた口調になる。

「被害者を確保したと報告を私の方で受けて一台向かわせてるところなんだけどね? 彼、容疑者のことについてまとめた資料が出来たけど必要かしら?」

ツバキは苦虫を噛み潰したような顔をして無言になる。

蜘蛛がかき集めた情報は良かったが、確かに情報屋からの資料は喉から手が出るほど欲しい。それが月花でなければ。

「因みに依頼人に問い詰めたら、知っていたわよ?」

知っていたが何処までを指すのかは分からないが、動悸が治まらない。

まるで底なし沼にでも足を取られるような、鈍重感は。

だが、火口君以外で月花を頼るのはしたくない。

安いプライド? いやあの女に借りを作りたくないだけだ。

月花は僕を絶対に裏切らない。

だが、僕は月花を頼らない。

月花は僕にとって、関連した間接的な仇のようなものだから。

彼女の贖罪に、僕は関与しないことこそが復讐となるのだから。

「いら──」

否定しようとした僕は、僕自身の意志とは無関係に前倒しに倒れる。

痛みよりも先に感じたのは腰あたりに感じた熱さだった。

刺されたのだ。



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