第12話フラッシュバック

時間遅れで電車に乗った三名は、人が居ない所へ移動して、席に座ると今回の事件について話始めた。

火口君も舵から聞いている内容との擦り合わせも兼ねてだが、どうやら話としては齟齬がないようなので、そのまま突入作戦の方へ話を切り替える。

「作戦は僕が正面で応対する間に、火口君は裏口から被害者の確保。失敗して単独で逃亡した場合、灯は予想逃走経路に進路妨害のトラップを仕掛けて待機」

「裏口か正面ですね」

「そうなる。道中のホームセンターに途中で寄って必要な物を買う。他に質問は?」

灯はないようだが火口君が手を上げる。

「具体的な内容は分かりました。でもツバキさん、あまり言いたくはないですけど被害者が仏さんになった場合は自分はどうしますか?」

「……っ。その時は依頼者の許可云々に問わず、警察に連絡する。容疑者は拘束して到着まで待機、する」

ツバキの言葉に火口鏃が無言で頷く。隣では灯が目を細くして、ツバキの肩を軽く叩く。

「所長? 大丈夫です?」

「ぁぁ……ごめん。気を付ける」


─助けてツバキ!─

─お前のせいで彼女は死んだ!─


「っ……!」

顔を青ざめて口を押さえるツバキに、灯は困った顔でポケットから青いハンカチを渡す。

「ツバキさん、大丈夫ですか!?」

今にも倒れそうなほど額に脂汗があるツバキの様子に心配そうに見る火口君に。

「悪いね……火口君。本番前には直すから」

ハンカチを口に押さえて、俯いて吐き気を堪える。

逆流した胃液をそのまま飲み込むと力なく笑みがこぼれた。

この程度のことですら過剰に反応してしまうのだ。


─仏さん─


この言葉を引き金に昔のことがフラッシュバックして、こうなる。

火口君は知らなかっただろうから仕方ないけど、少しは耐性が出来たと思っていたのに情けない。

段々と落ち着いてきて、僕の唾液まみれになったハンカチを胸ポケットに入れる。

「灯、ごめん。新しく買うから」

震えてる手を合わせて謝ると、困った顔をしてお金が勿体ないので、洗ってくださいと言われる。

今更、気が付いたが灯がずっと背中をさすってくれたのだ。

居た堪れない気持ちになる。

「それじゃ僕の気が済まない、埋め合わせする」

「ん……。じゃあ美味しいラーメン屋に連れっていてください」

「分かった」

深呼吸を繰り返して、ここに居ることを自分に印象付ける。

過去と自分は違うのだと決定的な違いを思い出し、歪んでいた視界がクリアになった。

もう大丈夫そうだ。

[────]

アナウンスが入り、綾瀬駅に着くと3人は駅のホームから出る。

「ツバキさん。何か自分が話をしたことで気分が悪くなったみたいで申し訳ないです」

歩道を少し歩いて、サングラスを外して深々と頭を下げる火口。

「いいや、火口君はどうするのか聞いただけだから大丈夫。これは僕自身の失態だから気にしないで。それよりも予定通りに行こうか」










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