第10話蜘蛛

ガパオライスがテーブルに置かれ、灯が美味そうに食べるのを横目で見ながら、考えていた。

灯は一部を除いて普通の少女だ。

護身術も使えるし、普通の手合いなら倒してしまうだろう。

だが。だからと言って、彼女は子供だ。

大人の汚れたものを見過ぎたあまり子供らしくないが、今それを止める大人は僕なのだと自覚している。

助手としては活動することは合意の上とはいえ、危ないことをさせる気はない。

特に今回みたいなのは最悪の場合もある。

「所長、何を考えてるのか少ししか分かりませんけど、除け者は嫌っすよ?」

「……」

「そんなに葛藤することじゃないっす。ボクは好き好んで所長の補佐をしているっすから……」

「でも危ないだろ、今回は特に」

まるでクズる幼い子供のように口先をとんがらせて言う灯。

そこへスマホから某時代劇の着メロが鳴る。

まだ納得していない灯との口論を止めて、電話に出る。

「こちらスパイダー。大佐、頼まれてた件、特定しました」

スニーキングミッションでもないのに緊迫感漂う言葉で、早口に電子音で言う人物こそ、寿探偵事務所の一人、蜘蛛だ。

まぁ……元ネトゲ廃人で大学をギリギリで卒業した現在引きこもり、だが。

「でかしたぞ、スパイダー! やはり君は最高のエージェントだ───これ毎回やらないと駄目?」

この一連の流れは定番ではあるものの、人前で話すのは小っ恥ずかしい。

灯なんて今、凄い冷めた目で見てるぞ!

「勿論、強制ではありません。でもでも? 私のモチベーションを上げれば依頼を円滑に進められるのも加味して頂きたい」

これだけでテンション爆上がりなら、やむを得ないが、本心からこれを止めさせたい。

無の境地だと自分に言い聞かせながら目的に移る。

「了解だ、スパイダー。そんで場所は?」

「足立区綾瀬の元本屋だった場所。地図アプリに座標を入れたのをスクショで送りますから」

早速、メールには目的地に赤いピンが刺さった地図アプリの画像が届く。

素早い仕事に流石だと褒めたい気持ちになる。

「仕事が早くて助かる。今度、ケーキとモンスター買ってくる」

「うわー、ありがとうございます。 じゃあ依頼の方、さっさと片付けてください!」

「後、ついでにさっき頼んでいた容疑者の詳細な情報も」

「はい、それは今メールで送信しました。長文と過去の事件記事を添付しているので確認してください。それでは待ってますよー!」

ケーキとモンスターだけでご機嫌な蜘蛛はそう言うなり一方的に電話を切った。

まぁ、これが蜘蛛だから良いが。

スマホがまた鳴り、メールを開くと成程なと納得する。

赤沢かと。

「蜘蛛さんも相変わらずっすね」

追加で頼んだアイスティーをストローでズズズと飲みながら唸る灯。

「スネークごっこ好きだからな。それより場所が特定した。やっぱり彼だ」

「犯人、見つかったってことは今日突撃するつもりなんっすよね?」

18時を告げる喫茶店の鳩時計が鳴る。

それを合図にじゃないが、客が次々と来店してくるのを見ながら僕は頷く。

鈴が鳴り、眼鏡を掛けた灯。

「ツバキ所長、僕も行きます」

「本気か?」

「冷静に考えて1人で行くのは効率が悪いです。犯人が単独で逃げたり、人質に取られたら困りますよね?」

「癪だが、舵から人を一人呼ぼうとしていた」

本当に嫌そうに顔をしかめるツバキ。

その言葉に身を乗り出して灯は言う。

「一緒に乗り込むのは止めます。それ以外で協力させてください、お願いします」

頭を下げられ、参った様子でツバキは降参のポーズをすると伝票を取って会計へ。

「ツバキだから端数はサービスで、8000円でござる」

「は、は、8000円!?」

放置してたら会計がとんでもないことに、ドカ食い女子高生恐るべし。







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