第6話依頼人

何が間違いで何が正しいのか、それは個人の観測でしかない。

確かに聞き込みにも限界がある。

依頼人の話にも偏りが出るのは当たり前だ。

即金で前金は頂いているものの、あまりにも進展がない。

だからこそ灯を連れてきたのもある。

彼女の目を当てにしていた。

「で、どうしたい?」

決まっている答えを知っていてもあえて聞く。

予定調和。

「聞きに行くっす。それでも駄目なら当たりを探しに行くしかないっすね」

行き当たりばったりはお手の物。

こうして二人は依頼人宅へ行くことにした。



「依然、有力な情報は掴めておりません。ですから話をお伺いしようと──」

「それは困ります。今は難しい時期なのです」

依頼人の言葉に灯は隣で拳を握り締めてる。

一応我慢はしろとは言ったが、眼鏡を付けていても不機嫌そうだ。

「……」

「それは重々承知してます。ですが私達としてもこのままでは行き詰まってしまいます。数日……。いやもう時間がないとだけはお伝えします。性犯罪者のことです、傷物になってることも含めて、飽きたら殺される可能性もあります」

「お、脅しているのですか!」

「いえ、そのつもりはありません。ですが引き受けた以上、五体満足で助けたい。そのつもりで行動しております」

テーブルに出された珈琲の湯気が無くなる頃、依頼人の口から重いため息が溢れる。

そして渋々と言った感じで了承を得た。

「分かりました。ですがあまり刺激しないようにお願いします」

「ありがとうございます。心得ます」

深々と頭を下げ、まだ何も解決していないのに肩の荷が降りた感覚がする。

所長としてはどうかと想うが、とりあえずは助手の気分を害さずに済んだのだ。

「灯、頼んだ」

「分かりました」

まさか僕じゃなくて紹介した助手が聞きに行くと思わなかったのか、依頼人の顔が厳しくなるのを見逃さなかった。

だよなと思いつつも、いつもの常套句をここで言うことにした。

「私の助手とネネさんの歳が近いのもあって、男の私よりも女性の方が刺激を与えないと判断しました」

「しかし、本業の方ではないのでしょ?」

「とんでもない。私よりも若輩者に見えますが助手は優秀です。下手な探偵よりも」

僕の言葉に気を良くしたのか、後ろでソワソワし始める灯。

普段褒めないからって他所でこんな風に反応されるとこっちが恥ずかしくなる。

「ですので問題ありません。お願いします」

さっきから頭を下げてばかりだが、しょうがない。

依頼人の方もそれならと納得してくれたので、後は灯に任せることに決まった。

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