第5話喫茶店
翌朝に聞き込みを開始したツバキと灯は途中、馴染みの喫茶店に入るとメモとボイスレコーダーを置き珈琲とココアを注文する。
「今回の聞き込みで補足するも何も、伝言ゲームのように疎らで繋がりはない感じでした。時間は経ってないのに目撃者が極端に少ない。時間帯、事件報道の有無も一因だと思います」
「だなー。聞き込みの内容も同じ内容ばかりだ。それにあの近辺に長く居ると職質されそう」
珈琲を飲み、メモを見下ろすツバキと両手にマグカップを包み飲む眼鏡モード灯。
示し合わせたかのようにため息を吐く。
「依頼人、お母さんなんですよね?」
「そう、赤沢ヤヤさんだ。家族構成は父親の赤沢道夫さん、妹の赤沢ネネさんの四人家族。でもなーネネさんとはあまり話せてない」
「どうして?」
身を乗り出した状態で問い詰めてくる灯に、言い辛そうにツバキは言う。
「彼女は今年で高校三年、受験生だ。下手に刺激しないで欲しいと頼まれた」
その返答に眼鏡を小刻みに動かして微笑む灯は、無言でココアを飲み干すと席を立ってしまう。
やっぱりなと顔を引き攣らせてツバキは会計をタッチ決済で済ませると灯の後ろを追い掛ける。
「依頼人の事情に沿うようにするのも僕達の仕事だ」
「でも、死ぬかもしれない家族の命と自分の人生。それを天秤に掛ける人間にボクが遠慮すると?」
眼鏡の奥底から垣間見得る侮蔑な視線と怒りに、ツバキは参った顔で頷く。
失策だった。
この手の話題は灯にとってタブーだ。
カランカランと鈴を鳴らし、眼鏡を外した灯は頬を膨らませて怒ってるアピールしてる。
「ツバキ所長は爪が甘いんっすよ。僕達にあまり猶予はないんっすから」
「事件から2日経過してる。それは分かってる。だとしても無闇に気を急いでもしょうがないだろ?」
「確かに。でも同時にそれは被害者の被害が深刻な問題になるのと同義っす。所長、ボクは使える物は全部使って何も出来なかったと後悔したい。ボクにとって妹の受験よりもお姉ちゃんの人命を最優先事項にしたいことは、間違ってると思うっすか?」
灯は真面目に問う。
その問いに僕は明確な答えを出せなかった。
だってそうじゃないか、兄弟なんて血の繋がった他人だと思っている僕なんかが、極端に間違ってるのだから。
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