第11話

 次の日の朝、目が覚めて一階へと降りてみるとまだ音暖が朝食を準備している途中だった。 

 卵焼とみそ汁のいい匂いが部屋中を満たしていて食欲をそそられる。


 特に音暖が作るみそ汁は丁度よい濃さをしていて実に美味しい。みそ汁だけで言えば音暖の腕に敵う者は一人もいまい。


「おはよう音暖」


「おはよう颯太」


「おう、おはようって…え?!」


 今俺のことを名前で呼ばなかっただろうか。俺の聞き間違いじゃなければ確実に下の名前で、しかも呼び捨てで呼ばれた気がするのだが。


 まあ呼び捨てのことは別にいい。音暖とは一つしか離れていないのだから特別気になることもない。世の中には呼び捨てで呼び合う兄妹なんて数えきれないほどいるだろうし。


「あ、呼び方のこと?」


 俺が思っていることが分かったのか音暖はそう言うと理由を話し始めた。


「昨日颯太と私が義妹ってわかってちょっと心変わりがあったんだ。颯太にはまだ分からないと思うけど、すぐに気づくと思うから楽しみにしててね」


 どうやら音暖はなにかを企んでいるらしかった。それも俺には極秘ということだ。気にならないと言えば嘘になってしまう。


 正直言えばめっちゃ知りたい…けど、秘密なのであれば仕方ない。兄妹間でもプライベートは必要である。


「分かった」


「あとちょっとでご飯できるから颯太は学校に行く準備でもしててよ」


「おう」


 音暖にそう言われたので準備をしに行こうとリビングを出たと同時に家のチャイムが鳴った。


 こんな時間に誰だろう。父さんと母さんは既に出かけているだろうし…今まで朝に尋ねてきた人なんて回覧板以外はない。


 でもついこの間回覧板を回したばかりだしあり得ない。


「颯太ー、出て―」


 なんかもう颯太呼びが型にはまってるな。


「了解」


 俺は玄関の扉の前に立つとドアアイを覗く。


「誰だ?」


 どうやら外には女子高生が立っているらしい。それもうちの高校の制服だ。

 俺に女の子の友人はいないから音暖も友人だろうな。なら俺が出るのは間違ってると思うのだが…今は朝食の準備中だし俺が応対するとしよう。


 カギを開けて扉を開ける。


「おはようございまーす!」


 うわ、すごく元気な人だ。音暖の友人らしい。


 髪を肩下まで伸ばしており、目はパッチリ二重。顔立ちは音暖と同じ(それ以上かも?)くらい整っており一目見るだけでモテるだろうなと思った。


「久しぶりだねー、颯太!」


「ひ、久しぶり?」


 目の前の美少女は俺の瞳を見据えながら、可愛らしい笑みを浮かべて久しぶりという。俺に向かって言ってるんだよな?


 音暖はこの場にいないし、絶対俺だな。


「うん、私だよ悠李。橋本悠李だよ!」


「橋本ゆう…り?」


「もしかして覚えてないとか?幼稚園の頃に毎日のように遊んだじゃん!」


 響きに覚えがあるような…幼稚園の頃のことなんてほとんど覚えていない。ただ唯一覚えていることは、遠い昔に引っ越していってしまった幼馴染と音暖と毎日のように遊んでいたという思い出だけだ。


 だがあの幼馴染の名前は『ユウ』で男だったはず。目の前にいる女の子とはあった記憶がない。


「本当に覚えてないんだね」


 少女は少し悲しそうな顔をして、すぐに笑みを取り戻した。


「そうだ、こうすれば思い出すよね!」


「?」


「ソウちゃん!」


「!?もしかして…ユウなのか?」


「うん、そうだよ。昔結婚の約束をしたユウだよ!」

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