第10話

 音暖に父さんからの伝言を伝えると、なにか興奮したようにわくわくしていた。ただ何か知っているのかと聞いてみると何も知らないらしく、なんとなくいい予感がするらしい。


 俺には全く分からない感覚だ。音暖だからこそ感じたものだということか。なんにしろ大事な話らしいから心して待っておくとしよう。最低限いい話だということを願っておくとしよう。







 九時過ぎになってすぐに父さんと母さんが一緒に帰ってきた。駅で待ち合わせしてから一緒に帰ってきたらしい。 

 二人は恋人つなぎをしていて、相変わらず仲が良さそうである。


 俺としては親のそういうところを見るのはいささか気分がいいとは言えないのでやめてほしいところだが。


「音暖ー、帰ってきたぞー」


 音暖が二階から駆け足で降りてきてそのまま家族四人でリビングのテーブルを加工用にして着席した。

 

「久しぶりだね。家族みんな揃ってこんな感じになるの」


「ごめんな。父さんも母さんも出来るだけ早く帰れるように頑張ってるんだが、どうにもならなくて」


「いいよ。俺たちは俺たちで楽しくやってるからさ」


 父さんたちの気遣いにはとても感謝しているが、案外俺は今の生活に満足しているのだ。

 音暖とのゆったりとした温かい日々。なんと形容すればいいか分からないが、一言で表現するのであればだな。


「そうか、それなら良かったよ」


「そういえば今度お母さんとお父さん同時に三連休を取ろうと思うの。その時に家族旅行に行こうと思うんだけど二人はどう?」


 俺たちは二人で目配せをして頷いた。


「二人で楽しんできてよ。俺たちは俺たちで毎日楽しいからこのままで大丈夫」


 俺も音暖も日常が大好きだった。朝起きて学校に行って、友達と遊んで、家に帰ってきて晩御飯を食べて…この日常の繰り返しが今最高に幸せだ。


「うん、そうだよ。音暖たちのことは気にしないで二人でゆっくりさ。いつも仕事ばっかりで本当にお疲れだろうし。感謝してるから」


「ふ、二人ともなんていい子なんだ。父さんは感動で涙が…」


 父さんの頬には涙がキラリ…なんていうことはなく、嬉しそうに笑っていた。きっと俺たちが成長しているのを目の当たりにして喜んでいるのだろう。


「それでそろそろ本題に入ってほしいんだけど」


「そうだな。今日集まってもらったのはそのためなんだし話さないとだな」


 父さんは再度姿勢を整えるように座りなおすと俺と音暖の瞳をまっすぐに見つめた。真面目さがじんじんと伝わってきて、適当に聞き流してはいけないことを意識する。


 母さんの方を見てみると、嬉しそうな、加えて不安そうな表情をしている。一体何を話すつもりなのか今の状況ではまったく想像つかない。


「まだ颯太も音暖も小さい頃で覚えてないと思うんだが、俺と母さんは再婚してるんだ」


「再婚?」


「本当、お父さん?!」


 唐突に音暖が声をあげたかと思うと、喜びの感情を含んでいそうな声音でそう言った。


「ああ、颯太が一歳の頃で音暖が生まれてすぐだったかな」


 一歳の頃のことなんて覚えているわけがない。物心ついたころにはこの三人が俺の家族なのだと認識していた。


「颯太が俺の連れ子で、音暖が母さんの連れ子だ」


 なるほど、だから俺と音暖は似ていなかったのか。たまに似てないなと思ったことがあったがまさか義妹だったなんて。

 まあそれなら納得だ。


「それで話は終わり?」


「ああ、そうだが?颯太はあんまりびっくりしてないみたいだな。音暖はびっくりしぎて止まっちゃってるけど」


 そう言われて恐る恐る隣の音暖を見てみると、案の定父さんの言った通り遠くを見ながら固まってしまっている。

 そんなにショックだったのか。


 それとも俺の方がおかしいのか。普通ならもっと驚くのかもしれない。


 今までこの四人でずっと暮らしてきたから今更義理でしたと言われたところで何も変わらないと思っているのが俺だ。

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