第8話

「ああ、あってるぞ」


 別に隠す必要はないと判断した俺はあっさりとその質問に答えた。だって仲が悪いとは言っても家族だからな。

 隠し事は良くないと思う。ある程度隠さないといけないこともあるにはあるのだが、その件について妹が訪ねてくることはないはずだ。


「やっぱりそうなんだ…」


 家族とはいえ俺の活動を知らなかったのは仕方ないことだと思う。我ながら歌い手としてそれなりに成功していたが、だからといって妹が『颯』の存在を知っているとは限らない。


「配信を見てたのか?」


「うん、たまたま目が覚めたときに見たんだ」


 みんな同じ理由だなと思ったが口にはせず、靴を脱いでリビングに入る。そういえば冷蔵庫にデザートがあったはずだ。


「一緒にプリン食べないか?」


「いいの?」


「もちろん、逆にこっちが聞きたいくらいだ」


「それってどういう意味?」


 急に妹の声音が低くなった。もしかして嫌なことを言ってしまったかもしれない…なんて危惧していると音暖がこう言った。


「あ、もしかして私が兄さんに冷たく接してたから?」


 よく分かってるじゃないか。分かっていたということは意図的にそういう態度を取っていたということか。

 大好きだった音暖に意図的にされていたってのは結構…心にくるところがあるな。


 今は語彙力ないがいい感じに接してくれているので心配も減ってくるかもしれない。 

 でも理由は知りたいな。


 聞いたら教えてくれるだろうか。


 俺は冷蔵庫を開けてプリンを取り出す。あれおかしいな。なんで一つしかないんだろう。昨日買ってきたはずなんだけど、俺は絶対食べていないし。


 ってことは音暖が食べたのか?


「なあ、音暖。もしかしてプリン食った?」


「ぎくっ」


 口で、ぎく、なんていう人がどこにいるんだ。俺の目の前にいるわけだが。そんなあからさまに反応したらお前が犯人だって一発で分かるぞ。


「食べていいよ。俺は別に食べなくてもいいから」


「いいの?」


 音暖は先ほどの態度はどこへやら。目を星のようにキラキラさせて俺のことを…俺の手元にあるプリンを見つめていた。


 いやそこは俺の瞳を見ろよ。


 なんだこのイケメンが言ったらこの世の女性、全てを一瞬で虜にしそうな言葉は。だが残念ながら俺というフツメンでしか男である。口にもしてないし。


 そうだ、音暖は血のつながった妹だし言ったところで別に問題じゃないのではなかろうか。


 最初はキモがられるかもしれないけど、最後は笑ってくれるはずだ。


 ふぅ~、ちょっと緊張するな。妹とはいえ異性。俺のなんとなくな感覚ではあるが、音暖とはまったく似ていないということもあって緊張度が増す。


「そこはプリンじゃなくて、俺の瞳を見ろよ」


 ついでに笑顔を着けておいた。

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