第7話

 翌日の昼休み、彼女らは確かに俺の教室へとやってきた。


「椎名先輩、一緒に食べましょう!」


「もちろん私も一緒ですよ、先輩!」


 やはり教室で食べるというのは許可するべきではなかったかもしれない。周りからの視線が痛い。

 特に男子からの視線が俺たちに集まっている。


 そうだよな、普段は教室の隅っこで前田と二人で静かに食事していた俺の所に突然後輩の美少女が二人もやってくるのだから。


 俺だって前田が突然超絶可愛い彼女を連れてきたら夢かと疑う自信がありまくる。だって前田だし…失礼なこと考えてたけどバレてないよな?


 隣に立っている前田を見てみると、石のように固まっていた。


「前田?どうした、せっかく誘ったんだから楽しむんだぞ」


 そういえば彼女らに彼氏とかはいないのだろうか。もし彼氏がいるのであれば俺たちと食べるのは止めておいた方がいい。

 もし仮に俺が彼氏だったら耐えられないと思う。


「すまん椎名、誘ってくれたのは嬉しかったんだがちょっと用事を思い出したわ」


「あ、そうなのか。残念だな。ごめんね二人ともせっかく了承してくれたのに」


「全然大丈夫ですよ。また機会があったらよろしくお願いします」


 少し聖人すぎないか二人とも。昨日俺が自分勝手にお願いしたことをドタキャンされたようなものと同じなのに何事もなかったかのように受け入れてくれるなんて。改めてモテそうだなと思った。


「ってことでじゃな椎名。どうぞお幸せに」


 それから前田は一瞬の間に教室から姿を消してしまった。何の用事だったのか後で聞いておこう。










 学校が終わり家へと帰ってくると珍しく妹が出迎えてくれた。いつもなら絶対に出迎えてくることなんてないし、ほとんど顔合わせないのになんの気まぐれだろう。


 兄としては嬉しい限りだけど。


 昔はこんなに妹との距離はなく、毎日のように共に遊んでいたのに。小学校低学年の頃までは一緒に風呂にも入ってたっけ。


 今になっては絶対にあり得ないことだなと苦笑してしまう。


「おかえり兄さん?」


「ただいま、どうしたんだ?」


「えっと、兄さんに確認したいことがあって」


 最近では考えられないくらい優しい声音の音暖。違和感が凄い。兄妹関係もここまで距離が開いてしまうとこんな風に感じてしまうことがあるんだな。

 また昔みたいに仲良くできたら絶対に楽しいだろう。


「なんだ?俺に答えれることが出来るやつならなんでも答えるよ」


「じゃあ、聞くよ?」


「お、おう?」


「兄さんってこの前突然引退した歌い手さんの颯さんであってる?」

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