第6話

「はい、あーん」






 なんてされてみたいものである。人生で一度くらいは経験できればいいななんて思う今この頃。

 俺たちは屋上の端っこに腰を下ろした後、三人で面白おかしなお話をしながら昼食を食べた。

 主に俺に対する質問ばかりだったがつまらないと思う時間はなかった。


 それも彼女らの話の広げ方が上手だったからであろう。


「美味しかったですね椎名先輩!」


「そうだな。楽しかったよ」


「私たちも楽しかったです。また良かったら明日も一緒に食べませんか?」


「私もまた一緒に食べたいです」


 それはありがたい申し出だと思う。だがそれだと前田のことをずっと放置することになってしまうし…あいつも一緒に食べることが出来るのであれば可能だろうが。


 たぶん彼女たちにお願いしたら許可してくれるはずだ。


 だけど問題がなぁ…。


 前田という男。口ではああいうものの、実は女子がとても苦手なのである。朝のホームルーム前の彼女たちが訪ねてきたとき。

 あいつは自信満々に話を聞きに行っていたが、昼食の会話中で前田が挙動不審だったという話を聞いた。


 ちょっと笑ってしまったのは内緒。


 まああいつには幸せになってもらいたいし、これはチャンスかもしれない。俺は歌い手としての知名度で彼女らと知り合うことが出来たわけで人柄が気に入られて仲良くなったわけではない。そこらへんは思いあがらないように気を付けている。


「俺からもお願いしたいな。本当に楽しかったし」


「わぁ、本当ですか!?」


「だけど一つお願いがあるんだけど、いいかな?」


 もちろん前田のことだ。


「なんですか?」


「朝に絹井さんに話しかけた男いたでしょ?」


「あ、前田先輩のことですね」


 前田のことはさっきも言ったが、会話中に登場人物として出てきているから二人はすぐに分かったらしい。

 いい意味でも悪い意味でもあいつは印象に残るから助かる。


「そうそう、俺いつもあいつと飯食ってたからさ。明日からはあいつも連れてきてもいいかなって」


 そう言うと二人は少し考える素振りをして答えが決まったのかこちらを向いた。


「もちろん構いませんよ。前田先輩もぜひ」


 良かった、やはりこの子たちは優しいな。これで前田のことを心配しなくてもよくなるな。


「でも先輩、私たちから一つお願い聞いてもらってもいいですか?」


「もちろん!」


 俺のお願いを聞いてもらっているのだからこちらもお願いを聞くのは当たり前だ。


「なにかな?」


「明日から食べる場所は屋上じゃなくて先輩の教室に変更してもいいでしょうか?」

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