第5話 屋上でご飯①

 聞き間違いだろうか、清水さんという方から大ファンですという言葉が聞こえた気がするのだが俺の勘違いだろうか。


 俺は怪訝そうな顔を浮かべて清水さんの顔を見ると、目をキラキラと星にして俺のことを見つめていた。


 うん、たぶん聞き間違いじゃないみたいだ。大ファンというのは俺の学校の姿に対してというわけではないよな。そもそも同学年にも認知されているか分からない俺にファンなど出来るわけがないからな。


 ということは必然的にあのことが頭をよぎるわけでありまして…まさか同じ高校にあの生配信を見ていた奴がいるのか?夜中だぞ、夜中の三時にこんな美少女が俺の黒歴史生配信を見ていたというのか?


「ファンって…」


「はい、颯さんの大ファンです。活動し始めた時からずっと応援してました!」


 活動し始めた時からって、古参すぎないか?!無名だった俺が突然始めた歌い手活動。活動初期はまったく人気が出なくてやめてしまいたいと思うことが多々あった懐かしの日々。


 忘れもしない初めてのチャンネル登録者。名前は存じ上げないけど、その人ともし出会えることが出来たら全身全霊で感謝を伝えたい。


「あの配信を見てたってことか?」


「はい!たまたま目が覚めた時にふと颯さんのチャンネルを開いたら引退するとか言っていたので慌てて視聴してたら…」


「なるほど…」


 運がいいというべきか悪いというべきか。当の本人としましてはすごく複雑な気持ちでございます。


「えっと私も碧唯と同じで配信を見てました。経緯はほとんど碧唯と同じですが」


「そうなんだ。それでなんで俺がこの高校にいるの分かったんだ?同じ学年でもないのに」


 当然の疑問だと思う。だって先ほども言ったが同学年でも俺の顔を知っているのかさえ怪しいというのに他学年の女子だなんて知っているわけがないと思うのだが。


「えっとその疑問については私が説明します」


 名乗りをあげたのは俺を屋上に呼び出した本人である絹井さんである。滑らかな美髪腰まで伸ばした大人の女性って感じの雰囲気。


「実は私には先輩と同じ学年に姉がいまして。その姉が椎名先輩のことを知っていまして」


 姉か、と納得すると同時に新たな疑問がわく。俺は絹井という同学年の女子を把握していない。つまり今まで同じクラスになったことがないということだ。


「姉はとてもシャイでして。本気を出したら男の子から引っ張りだこになると思うんですけどね」


「そうだよね。桜花のお姉さんめっちゃ可愛いのに」


「なんで俺のことを知っているのかは分かるか?申し訳ないんだけど、俺は君のお姉さんのことは知らなくて」


「そうですよねー。知らなくて当たり前だと思います。私は理由を知っているのですけど、姉から口止めされているので今は言えません」


「そうか。分かった」


 それから俺たちは屋上へと入ると、影が出来ている隅っこの方へとやってきた。


「ここなら食べやすそうですね。椎名先輩のことたくさん知りたいのでいっぱい質問してもいいですか?」


 絹井さんが美しい笑みを浮かべて首を曲げる。うん、ご褒美だ。


「わ、私もたくさん質問したいです!そ、それと握手してもらえますか?」


「うん、別に構わないけど」


「うわぁ、私今しあわせ~~~」


 清水さんは本当に蕩けそうな勢いで顔を緩めて俺の手をにぎにぎと揉んでいる。対しまして俺は…、


(やばいやばい。柔らかすぎる)


 絶賛女子の手を味わっておりました。別に変な意味ではないからな?

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