第2話 バレ事変①
配信を終えて数時間眠り、目が覚めた時ふと俺は思った。
「案外あっけなかったな」
引退というものはそう、もう少し名残惜しいものだと考えていたのだ。だが終わってみれば特別なんの感情もわかない。
俺が思っていたよりも音楽に対する気持ちは薄かったのかもしれない。
「起きるか」
想い身体を無理やり起こしながらベッドを下りる。今日の朝食当番は妹だったか。
実は俺と妹、
妹がまだ中学に上がってすぐだったころまでは俺にべったりな可愛らしい妹うだったのだ。
ただなんのきっかけか妹はいつの間にか俺に対して冷たく接するようになっていた。
当時は悲しい気持ちに襲われた記憶があるが、今になっては過去の話。そこまであの頃が恋しいわけじゃない。
もし可能なら戻ってほしいという気持ちがないこともないのだが。
制服に着替えて登校の準備を終わるとため息を吐きながら一階へと降りた。母さんと父さんは既に仕事に出かけているようだった。
「おはよう」
リビングに入り、いざ挨拶をしてみるも挨拶が返ってくる気配はない。だが美味しそうな匂いが部屋中に漂っていた。
「部屋に戻ってるのか?」
おかしいな、普段なら無視はするけどリビングでテレビを見てるのに。まあ、俺が気にすることでもないか。
準備されていた朝食は至って普通のもの…ではなかった。
「は?とんかつ?」
なんとテーブルの上には普段の質素な料理の姿はなく、豪華な品々が並べられていた。
これは一体どういう風の吹き回しだ。いつもなら白ご飯とインスタントのみそ汁、加えて卵焼きだというのに。
「なんだ、肉の消費期限が切れそうだったのか?」
いやそれは違うな。だってとんかつ用の肉は昨日俺がスーパーで購入してきたはずだからだ。買ったばかりの肉の消費期限が次の日だなんてそんなことはないだろう。
だとしたらとんかつ自体に意味があるのか。とんかつには名前に「かつ」が入っているから「勝つ」にかけて勝負事のある前日に食べることがあったりするが、残念ながら近日中にそんな用事が訪れることはない。
とりあえず用意されたからには食べるしかないよな。朝からとんかつなんて正直いえば重い以外感想が出てこないが仕方ない。
音暖が作ったのだ。美味しくないわけがない。だって音暖の作った料理は俺が今まで食べてきた全ての料理よりもおいしいからな。そこだけは嘘をつけない。
「ふぅ、ご馳走様でした」
やっぱり朝からとんかつは少し重いな。満腹感が凄い。どうしよう、午前中に体育あるんだけどな。
その時、玄関の扉が開かれる音がした。誰だろう、音暖が出て行ったのか。それとも母さんか父さんが忘れ物を取りに帰ってきたのか。
その興味本位で玄関へと向かうと、そこには音暖がビニール袋を持って立っていた。
「おかえり、だけどなんで外から?」
「…知らない(やっぱり…)」
相変わらず冷たいな。
その時妹が思っていたことを俺が知る由はない。
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