顔出しNG歌手な俺、引退直後に顔出ししてみたら次の日学校に嵐直撃してた
ミナトノソラ
第1話 引退事変
顔出しNG者にとって顔出しとは恐怖そのものだと俺は思う。だってインターネットで活動はしたいけど、個人情報が世界に漏洩するのが嫌だ。
そんな人は少なからずいるだろう。数年前の俺もそれに当てはまる。そして実際に活動者、正しくは歌い手となった。
歌い手の活動は言わなくても分かるだろうが、他人の歌をカバーして投稿する人たちのことを言う。
もともと最初は自分で歌詞と曲を作ってMVも作ってみたいとは思っていたが、諦めた。
だって無名のどこの馬の骨かも分からない男が突然オリジナルソングを歌ったところで人に見てもらえるとは思えない。だから俺はまず歌い手になったわけだ。
歌い手として活動し始めてから一年ほど経った時、俺のチャンネル登録者数は十万人を突破していた。
そう、結構成功したのだ。
バズった理由は最近とても流行ったアニメの主題歌をカバーした動画だと思う。だってそれだけ200万再生を超えているからだ。
確かに我ながらあのカバー動画は俺の中でも最高傑作だと思っている。
多分あれだろうな。自分の大好きなアニメだったから気合が入った結果素晴らしい出来になったんだろう。
まああの動画以外はいずれも40万回再生くらいなのだが。
俺が活動し始めてから一度も怠っていないものがある。それはコメント欄確認である。コメント欄にはいろいろな意見が書き込まれる。
凄く褒めてくれる人もいれば酷評を残していく人もいる。その一言一言をみて一喜一憂し、加えて改善点を見つめていく。
ここまで成長できた理由はコメント欄の力もあると俺は信じている。
最近俺はオリジナルソングを投稿し始めた。もともと歌手志望だったので待望のオリジナル曲投稿である。
歌詞には俺の今までの楽しかった青春を気持ちに込めさせてもらった。
結構我ながらデビュー作にしては素晴らしい出来だとは思っていたのだが…再生回数は2万回。現実はそう甘く出来ていなかったらしい。
少し想像していなかったといえば嘘になってしまうが、こう数字という質を人気を正直に伝えてくれるものを見て少しがっかりしてしまった。
そんな日々が三か月ほど続いて俺は高2になったと同時に、チャンネル登録者数は五万人まで減少していた。コメント欄は歌い手の時の方が好きだった系の言葉が多く、オリジナル曲を投稿しだした時から登録者数が大幅に減ってしまった。
仕方ないとは思っている。自分の夢を追いかけた結果、こういう結果に行き着いたのだから受け入れるほかないだろう。
俺はこの結果を受けてある決意をした。
そう歌手活動を引退する決意である。投稿を始めて数年、俺はついに活動を引退することに決めたのである。
理由はそう多くない。
まず一つは活動に限界を感じたからである。歌い手から歌手にジョブチェンジしてから俺の活動は著しく滞った。チャンネル登録者数が万単位で減少するなんて普通なら何かしら炎上した人々が経験するくらいだろうに。
二つ目は高校二年生になったという理由がある。活動を始めたのは中学生の頃で色々と考えることはなかったのだが、高校二年生にでもなれば思考も大人に近づいてくる。
高校生という青春真っ只中を楽しみたいという気持ちもあるし、来年には受験が待っている。
活動が上手くいって、高校を卒業してから生活していけるのであれば活動は続けたのだろうが現実は…
ということもあり活動を引退することに決めて…今日はその発表をする日だ。
俺が引退するということはもちろん誰も知らない。高校の友達にもこの活動のことは誰にも話していない。
そしてSNSアカウントでも報告はしていない。
引退の仕方は決めてある。それは突然生配信を始めてほんの一瞬だけ顔出しをして、巻き戻しは出来ないように、加えてアーカイブを残さない。
何人が俺の顔を見ることになるかは分からないが最後までついてきてくれたファンへのお返しということにしよう。
既に配信の準備は整えている。
「カメラ大丈夫だな。マイクがいらないし」
パソコンに表示されている赤いボタンを押せば配信が始まる。生配信というのはチャット欄があるが見る予定はない。
最後は静かに現れて颯爽と去っていく。
なんだ、かっこいいじゃないか。
「じゃあ、配信開始っと」
配信が始まった。すると配信画面の下に視聴者数が表示される。表示されている数は200である。
まあ普段配信をしないチャンネルに通知を着けている人はあまりいないと思うし、まず時間的に人がいないだろうからな。
だって深夜の三時だもん。
「どうも
チャット欄はどうなっているんだろうか。
「突然の報告でびっくりしている方も多いと思いますがご了承ください。今まで本当に応援していただいてありがとうございました」
本当、最後まで熱烈に応援してくださった方々には可能であれば実際に会って感謝を伝えたいくらいだ。
「ほんのお詫びではありますが、ちょっとしたサプライズを行いたいと思います」
顔出しと言ってしまったらスクショされてしまうかもしれないからな。念のため、サプライズという言い方にしておく。
深呼吸して…
カメラを俺の方に向けた。
そしてすぐにずらした。
「では今までありがとうございました。この配信が終わったらチャンネルは閉鎖します。さようなら」
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