夢見る蝶たち

島原大知

本編

## 第1章 風俗の日常


夜の帳が下りた歌舞伎町。ネオンサインが、雑多なビルの壁を鮮やかに染め上げている。人通りは絶えず、どこからともなく漂うアルコールと香水の匂い。


その喧騒の中を、一人の若い女性が歩いていた。三島柚希、22歳。黒のミニスカートから伸びる脚は細く、ハイヒールに足を酷使しているのが一目瞭然だ。


「今日も、頑張るしかないわね…」


小さくつぶやき、柚希は風俗店の入り口を潜った。


ロッカールームで着替えを済ませ、鏡の前に立つ。マスカラを丁寧にまつ毛に塗りたくり、赤いルージュを唇に乗せる。大きな瞳が、いつになく冴えない。


ふと、鏡越しに扉が開く音がした。


「柚希ちゃん、今日のお客さんは大物よ。サービス頑張ってね」


派手なメイクの女性店長が、柚希に話しかける。甘ったるい声音とは裏腹に、その目は笑っていない。


「…はい、わかりました」


ため息をついて、柚希は返事をした。


わずか三ヶ月前までは、柚希には夢があった。憧れのホストの男性、細川裕也との同棲生活。甘い日々は、まるで蜜のようだった。


けれど、その夢は儚くも崩れ去った。仕事に身が入らなくなった裕也は、次第に柚希に冷たくなっていったのだ。


「私…本当は、こんな仕事したくなかった…」


心の中でつぶやき、柚希は溜息をこぼした。専業主婦になることを夢見た母とは違い、自立した女性でいたかった。それなのに、いつの間にかこんな場所に立っている。


柚希を蝕んでいくのは、虚しさだった。愛する人に愛されたい。ただそれだけなのに、叶わない現実が、心を削っていく。


店内に流れるジャズが、妖しげに揺れている。ソファに腰を下ろし、柚希は目を閉じた。


…ガチャ。


重い扉の開く音に、はっと我に返る。


「柚希ちゃん、久しぶり」


聞き慣れた低い声。柚希が顔を上げると、そこには裕也が立っていた。スーツ姿の彼は、以前と変わらずハンサムだ。


「裕也さん…どうしてここに?」


「君に会いたくなったんだ。仕事は順調?」


まるで当たり前のように、裕也は柚希の隣に座る。漂う高級な香水の匂い。綺麗事を並べながら、その手は柚希の髪へと伸びてくる。


「こんなことされたら…」


「何言ってるんだよ。俺はお客様だろ?」


冗談めかして言う裕也に、柚希は黙って目を伏せた。過去の恋人を前に、どう反応していいのかわからない。胸の奥が、ズキズキと痛んだ。


「ね、柚希。俺と一緒に帰ろうよ」


裕也の指が、柚希の頬を撫でる。優しい仕草。けれどその瞳は、愛を感じさせない。


「帰れません…仕事が、あるから…」


涙を堪えて、柚希は答えた。甘い誘惑に負けてはいけない。今更、あの日々には戻れないのだ。


「…そうか。じゃあ、また今度な」


わずかに不機嫌な表情を見せ、裕也は立ち上がった。


ドアが閉まる音。再び、静寂が部屋を支配する。


柚希は両手で顔を覆い、震える吐息をこぼした。目の端が、熱くなる。


「私は…これでいいはずなのに…」


自問の声は、虚しく空気に溶けていく。心の迷いは、尽きない。


窓の外では、歓楽街の喧騒が続いている。たくさんの人が行きかい、めくるめく光が踊っている。けれどそれらは、まるで別世界のできごとのようだ。


柚希の世界は、すでにどこか遠くに置いてけぼりにされてしまったのかもしれない。


時計の針が、容赦なく明日を指し示している。逃れられない日常に、柚希はゆっくりと目を閉じた。


現実から逃避したいわけじゃない。ただ、自分を見失わないようにしたいだけ。


そう自分に言い聞かせ、柚希はまた新しい一日を始めるのだった。


## 第2章 出会いと気付き


深夜の街は、まだネオンに彩られていた。仕事を終えた柚希は、疲れた足取りで風俗店の裏口から外へと出る。


冷たい風が、上気した頬を撫でていく。空には月が浮かび、星屑が瞬いている。けれど、その美しさにも今の柚希は気づかない。ただひたすらに、この場から離れたかった。


コンビニの前を通り過ぎ、人気のない路地へと入る。誰もいない。ただ、自分の足音だけが虚しく響いている。


ふと、目に涙が滲んだ。理由もなく、ただ溢れ出してくるのを止められない。


「私…こんな生活、もういやだ…」


つぶやきは、冷たい夜風に飲み込まれる。行き場のない思いが、胸の奥で渦巻いている。


「…柚希ちゃん?」


不意に、背後から声がした。


振り返ると、そこには見慣れない女性が立っていた。


金髪に、スラリとした長い脚。印象的な外見をしているが、顔立ちは幼い。どこかで見たような気がする。


「あなたは…?」


「莉子よ。この前、店で会ったでしょ?」


そう言われて、柚希は思い出した。この女性も、同じ風俗店で働いているのだ。


「ごめんなさい、気づかなくて…」


「いいのよ。それより、どうしたの?めちゃくちゃ落ち込んでるみたいだけど」


優しく微笑みかける莉子。その瞳に宿る温かな光に、柚希は思わず心を開いていた。


「私…この仕事、辞めたいの。でも、他にやりたいこともわからなくて…」


涙混じりに、柚希は本音をこぼした。誰にも言えなかった悩み。けれど莉子になら、打ち明けられる気がしたのだ。


「柚希ちゃん…」


莉子は、そっと柚希の手を握った。


「私も、同じ気持ちよ。この生活から抜け出したいって、ずっと思ってた」


「莉子ちゃんも…?」


「そう。私たち、一緒に新しい人生を探しましょう。二人なら、きっと何かが見つかるわ」


莉子の言葉に、柚希の胸に灯りが灯ったような気がした。


同じ境遇の者同士、支え合っていけるのかもしれない。


「…うん、そうだね。ありがとう、莉子ちゃん」


微笑みを返し、柚希は頷いた。涙が、頬をゆっくりと伝っていく。


二人で路地を歩きながら、柚希は空を見上げた。


暗闇の向こうに、かすかな光明が見えた気がした。希望の予感。


新しい一日が、もうすぐそこまで来ている。


…翌日。


いつもと変わらない風俗店の一室で、柚希はぼんやりと鏡を見つめていた。


派手なメイクを施し、露出度の高い服に身を包む。もうすっかり、この生活に馴染んでしまったかのようだ。


ノックの音が、柚希を現実に引き戻す。


「はい、どうぞ」


ドアが開き、一人の女性が入ってきた。


小柄で、あどけない顔立ち。初々しい雰囲気を纏っている。


「あの…はじめまして。今日から働かせていただくことになりました、沙織です」


おずおずと自己紹介する彼女に、柚希は微笑んだ。


「沙織ちゃんね。私は柚希。よろしくね」


「は、はい…!よろしくお願いします」


ぎこちなく頭を下げる沙織。その純真な佇まいに、柚希は自分の姿を重ねていた。


「緊張してるの?大丈夫よ。最初はみんなそうなんだから」


「そ、そうなんですね…」


「そうよ。この世界は、生易しくないから。でも、自分を見失わないことが大事なの」


真摯な眼差しで、柚希は沙織に語りかける。


「自分を、見失わない…」


沙織の瞳に、かすかな光が宿る。


その姿を見て、柚希は不思議な感覚に襲われた。


まるで、過去の自分に教えているような。迷いながらも、前を向こうとしていた頃の自分に。


「私、沙織ちゃんのこと、サポートするから。一緒に頑張ろうね」


力強く告げ、柚希は沙織の肩に手を置いた。


「…!はい、ありがとうございます!」


瞳を輝かせ、沙織は柚希に頷く。初々しい表情が、眩しくて愛おしい。


この出会いは、偶然ではないような気がした。


自分を変えるきっかけを、神様が与えてくれたのかもしれない。


そんな想いを胸に、柚希は新たな一歩を踏み出すのだった。


鏡に映る自分。いつもと変わらない姿だけれど、何かが違っている。


瞳の奥に、かすかな輝きが宿っているようだ。


自分らしく生きること。新しい世界への扉を、開ける勇気。


柚希の心に、確かな手応えを感じた。


## 第3章 真実と決別


週末の夜。歌舞伎町は、いつになく賑わっていた。大音量の音楽が通りに溢れ、人々の笑い声が絶えない。


けれど柚希の心は、その喧騒から遠く離れたところにあった。


ぼんやりと街を歩きながら、彼女は自分の人生について考えていた。


風俗の仕事を辞めると決めたけれど、その先に何が待っているのかわからない。


不安と期待が、胸の内で渦巻いている。


「…柚希?」


背後から、聞き慣れた声が響いた。


振り返ると、そこには裕也が立っていた。相変わらずのハンサムな容姿。けれどその瞳は、嘘の感情で満ちている。


「裕也さん…どうしたの、こんな所で」


「君を探してたんだ。話があるんだけど、いいかな?」


優しげな口調。けれど柚希は、もう騙されない。


「…ごめんなさい。私、もう戻るつもりはないの」


冷たく告げ、柚希は踵を返した。


「待ってよ、柚希!」


裕也が、柚希の腕を掴む。その瞬間、柚希の中で何かが切れた。


「放して!私は、もうあなたのモノじゃない!」


激しく腕を振り払い、柚希は裕也を睨みつける。


「柚希…お前、何を勘違いしてるんだ。俺はお前のためを思って…」


「嘘つき!あなたが私を愛してたなんて、最初から嘘だったんでしょ!?」


怒りに震える声。柚希の瞳には、憎しみの炎が灯っている。


「違う、俺はお前を…」


「もういい!私には、もう聞こえない」


そう言い放ち、柚希は裕也から離れた。


もう二度と、あの甘い嘘に踊らされたりしない。


自分の人生は、自分で決めると心に誓ったのだ。


足早に歩きながら、柚希は空を見上げた。


冷たい風が、上気した頬を撫でていく。月明かりが、街を優しく照らしている。


遠くの方で、かすかに花火の音が聞こえた。


きっと、誰かの大切な日なのだろう。幸せな笑顔が、脳裏に浮かんだ。


いつか私にも、そんな日が来るのだろうか。


胸に、かすかな希望が芽生える。


「柚希ちゃん!」


にぎやかな声が、柚希の耳に飛び込んできた。


見れば、莉子と沙織が、柚希に手を振っている。


「二人とも…」


「ねえ柚希ちゃん、一緒に行こ?花火大会、始まるみたいなの!」


莉子が、はしゃぐように言う。


「私、花火って見たことないんです…一緒に見に行きましょう!」


沙織も、目を輝かせている。


思わず、柚希の口元が緩んだ。


「うん、行こう!せっかくの機会だもんね」


柚希は、二人の手を取った。温かい体温が、心地よい。


こんな風に、誰かと手を繋ぐのは、いつぶりだろう。


一緒に夢を追いかけられる仲間。かけがえのない、大切な存在。


「私、前を向いて生きていくから。二人のためにも、ちゃんと生きるんだ」


心の中で、柚希は誓った。


涙が、あふれそうになる。けれど、それは悲しみの涙ではない。


新しい人生への、希望の涙。


「さあ、行こう!花火、楽しみだね!」


莉子に背中を押され、柚希は走り出す。


沙織の手を引いて、人混みの中を駆け抜ける。


風が、髪を揺らしていく。


「わあ、綺麗…!」


会場に着くと、大輪の花が夜空に咲いていた。


色とりどりの光が、瞬く間に散っていく。儚くて、美しい。


「本当だ…!初めて見る…!」


沙織が、感動に目を潤ませる。


その姿を見て、柚希の胸が熱くなった。


「私たち、一緒にいれば、乗り越えられる。必ず、幸せを掴んでみせるんだ」


強く心に誓い、柚希は夜空を見上げた。


無数の光が、希望のメッセージのように降り注いでいる。


苦難の日々を乗り越え、新しい人生を歩み始める。


悲しい過去を乗り越えた先に、きっと輝く未来が待っているはずだ。


柚希は、大きく息を吸い込んだ。


胸いっぱいに、夜の空気を取り込む。


生きている実感が、全身に広がっていく。


これから先、どんな困難が待ち受けていようと、負けないと誓った。


仲間と一緒なら、必ず乗り越えられる。


「さあ、帰ろう。明日からまた、新しい毎日が始まるんだから」


莉子の言葉に、三人は笑顔で頷いた。


手を取り合い、ゆっくりと会場を後にする。


煌めく夜の帳が、優しく三人を包み込んでいた。


## 第4章 新しい一歩


朝日が、ビルの谷間から差し込んでくる。まばゆい光が、柚希の瞼を撫でた。


「ん…もう朝…?」


まどろみから覚め、ベッドの上に起き上がる。


カーテン越しに、東京の街が広がっていた。高層ビル、車の往来、そして人の波。


いつもの景色だけれど、今日はどこか違って見える。


新しい人生の一歩を踏み出す日。


胸の奥に、期待と緊張が入り混じっている。


「よし、頑張ろう!」


両手を叩いて、柚希は気合を入れた。


鏡の前に立ち、念入りに身支度を整える。


地味なシャツにジーンズ。昨日までとは打って変わって、飾り気のない恰好だ。


けれどこれが、新しい自分。偽りのない、等身大の柚希。


「…柚希、準備はどう?」


ドアの向こうから、莉子の声が聞こえた。


「うん、もう大丈夫!今行くね」


返事をして、柚希は部屋を出る。


リビングには、莉子と沙織の姿があった。


「おはよう。二人とも、今日からお世話になります」


笑顔で挨拶をすると、二人も嬉しそうに頷いた。


「こちらこそよろしく。一緒に、頑張りましょう!」


「私、ちゃんとお仕事できるか心配です…」


「大丈夫よ沙織ちゃん。最初は誰だって不安なもの。一緒に乗り越えていこう」


柚希の言葉に、沙織は安心したように微笑んだ。


三人は、希望に満ちた面持ちで部屋を出た。


外は、清々しい朝の空気に包まれている。


「いい天気ね。幸先がいいわ」


莉子が、大きく伸びをする。


「そうだね。今日は、私たちの新しいスタートの日だもん」


柚希も、深呼吸をした。胸いっぱいに、新鮮な空気を吸い込む。


「あ、バス来た!急がないと!」


沙織が、声を上げた。


三人は顔を見合わせ、笑顔になる。


そして駆け出した。風が、髪を揺らしていく。


希望に向かって、全力で走り出す。


バスに揺られ、三人は会社へと向かう。


車窓の外には、東京の街並みが流れていく。


通勤ラッシュの人混み。誰もが、それぞれの目的地に向かって歩いている。


「緊張してきた…」


沙織が、不安そうに呟く。


「私も、ドキドキしてるわ。でも、きっと大丈夫よ」


莉子が、沙織の手を握る。


「そうだね。三人一緒なら、乗り越えられる」


柚希も、二人の手に自分の手を重ねた。


温かな繋がりが、不安を和らげてくれる。


バスを降り、オフィス街を歩く。


ビルが立ち並ぶ景色は、新鮮だった。


「ここが、私たちの新しい職場…」


目的のビルの前で、柚希は立ち止まる。


「…行こっか。新しい自分に、会いに」


莉子が、背中を押すように言った。


三人は、大きく息を吸い込み、一歩を踏み出す。


ビルのドアを潜り、エレベーターに乗り込む。


「緊張で、手が震えてる…」


「私も…心臓が飛び出しそう」


「でも、このドキドキは悪くないよね。新しい世界への期待の証なんだもん」


会話を交わしながら、エレベーターは上昇していく。


静寂の中、三人の鼓動だけが響いている。


「さあ、着いたわよ!」


ドアが開き、オフィスの景色が広がった。


「お、お邪魔します…!」


沙織が、おずおずと入っていく。


莉子と柚希も、彼女の後に続いた。


広々とした空間。窓からは、東京の街を一望できる。


そこには、新しい仲間たちの笑顔があった。


「みなさん、よろしくお願いします!私たちは…」


柚希が、大きな声で挨拶をする。


これから始まる新生活。期待と希望に胸を膨らませながら。


過去を乗り越え、新しい一歩を踏み出した。


辛く苦しい日々も、今となっては遠い記憶。


仲間と共に歩む未来に、柚希は希望を感じていた。


きっと、素晴らしい毎日が待っているはず。


そう信じて、柚希は笑顔を絶やさない。


さあ、新しい自分に会いに行こう。


輝かしい未来を、この手でつかみ取るために。


## 第5章 新たな人生


「お疲れ様でした!」


一日の仕事を終え、柚希は同僚たちと一緒に事務所を出た。


初めての仕事に緊張したけれど、みんなの優しさに助けられた。


「柚希ちゃん、今日は大変だったね。でも、よく頑張ったわ」


莉子が、柚希の肩を抱く。


「莉子ちゃんも沙織ちゃんも、本当にありがとう。二人のおかげで、乗り越えられた」


感謝の言葉を口にすると、沙織も嬉しそうに頷いた。


「私も、二人に支えられました。一緒に働けて、本当に良かったです」


三人の絆は、確かなものになっていた。


仲間と共に歩む喜び。支え合う温かさ。


風俗の世界では、味わえなかった感情だ。


オレンジ色の夕日が、ビルの合間から差し込んでくる。


東京の街は、夕焼けに染まっていた。


「綺麗ね、この景色」


莉子が、空を見上げる。


「そうだね。この街も、私たちを歓迎してくれてるみたい」


柚希も、夕焼けに見とれた。


希望に満ちた光。新しい人生の始まりを告げるかのようだ。


「柚希ちゃん、ちょっと寄り道しない?」


「寄り道?」


「うん。ほら、あそこ」


莉子が指差した先には、小さな公園があった。


「いいね。沙織ちゃんも行こう」


三人で、公園に向かう。


緑に囲まれたベンチに腰を下ろし、ゆっくりと夕日を眺める。


「今日から、私たち、新しい人生が始まったのね」


莉子が、しみじみと呟く。


「ええ。辛い過去も、全部乗り越えられた気がします」


柚希も、心の内を語った。


風俗の日々。裕也との別れ。


全てが、遠い記憶のようだ。


「私、夢があるんです」


沙織が、ポツリと呟いた。


「夢?」


「私、いつか保育士になりたいんです。子供が大好きで…でも、まだまだ勉強が必要で」


恥ずかしそうに、沙織は頬を赤らめる。


「いい夢じゃない。沙織ちゃんなら、きっと素敵な保育士さんになれるわ」


「そうだね。夢に向かって頑張る沙織ちゃんを、私たちは応援する」


二人の言葉に、沙織は涙を浮かべた。


「ありがとうございます…!私、頑張ります!」


力強く宣言する沙織。


その瞳には、希望の光が灯っている。


「私も、夢を見つけたい」


莉子が、空を見上げた。


「人を助ける仕事がしたいの。だから、いつかは福祉の勉強をしようと思ってる」


「莉子ちゃん…」


莉子の新たな一面に、柚希は驚きを隠せない。


「私、決めたの。過去の自分に、さよならしようって」


風に髪を揺らし、莉子は微笑む。


「莉子ちゃんの夢、私が全力で応援する。絶対に叶えてね」


柚希は、莉子の手を握った。


「ありがとう、柚希ちゃん。私も、柚希ちゃんの夢を応援するわ」


見つめ合い、微笑み合う二人。


心の奥に、新しい絆が芽生えるのを感じた。


「夢か…」


柚希は、遠くを見つめる。


過去の自分は、夢なんて持つ資格がないと思っていた。


けれど今は違う。


新しい自分なら、夢を持っていい。


「私は…」


ふと、ある思いが心をよぎる。


「私は、誰かの支えになりたい。困っている人たちの、道しるべになりたいの」


言葉にすると、胸の奥が熱くなった。


「柚希ちゃん…」


「それ、すてきな夢だわ。きっと叶うわよ」


二人が、柚希の肩に手を置く。


「二人とも…ありがとう」


柚希は、涙を浮かべて微笑んだ。


夢を口にすることで、それは現実味を帯びてくる。


きっと、いつか叶うときが来る。


そう信じて、柚希は空を見上げた。


夕焼けは、希望の色に輝いている。


明日も、また新しい一日が始まる。


つまずいたって、挫けたっていい。


仲間と共に、乗り越えていける。


「さあ、帰ろう。明日も頑張ろう!」


莉子が立ち上がり、二人の手を引く。


「そうだね。私たち、これからが本番だ」


柚希も沙織も、力強く頷いた。


手を繋ぎ、歩き出す三人。


夕日に照らされたその表情は、希望に満ちている。


苦しみの日々を乗り越え、新しい人生を歩み始める。


輝かしい未来が、三人を待っている。


それを信じて、柚希は歩みを止めない。


新しい自分と、大切な仲間たちと共に。


希望に向かって、また一歩を踏み出すのだ。

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夢見る蝶たち 島原大知 @SHIMAHARA_DAICHI

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