ACT 8

 翌日、ドアが閉まる音でセイは目を覚ました。


 慌てて起き上がり、寝室の窓から外を見ると、リューが海に向かって歩いていた。


 セイは慌てて着替えた。


 リウロニュウム手袋と長靴付きオーバーオールを収納室から引っ張り出してきて、海水に触れられる支度を整えると、彼女の後を追った。



 長と長から少し離れたところに控えた従者は、すでに海中でリューを待っていた。


「来るでしょうか?」


「もちろん来る。わしらはもう膨らみ過ぎた風船だ。爆発したいのに、皮が硬すぎて割れないでいるんだ。その風船を破るのがあの子だ。しかし、あの子を爆発させるきっかけがない。今のままのあの子では、我々を解放できない。なんとしてでもあの力を、臨界点まで上昇させなければならない」


 長は苦虫を噛み潰したように、苛立った声を出した。


「長。あの子が来ました」


 従者は長の視界に入っているリューの姿を捕らえて、まだ気がつかずにいた長に伝えた。


「おや? 後から追いかけてくるのは、あの子を育てている陸棲人じゃないか?」


 長はセイの姿を捕らえて呟いた。


「どうしますか? 接触を取りやめますか?」


 従者が眉をひそめた。


「まさか! 今接触しなかったら、あの子は陸棲人に捕らえられてしまう。二度と海には近づかせてもらえなくなるだろう。……ふむ……。あの陸棲人……」


 長はセイの姿を見ながら、何かを画策しているようだった。


 長は、波打ち際に近づいてきたリューに語りかけた。


「思い出したかい? リュー」


「ええ。私は海の中にいたことがあるわ」


「そう。おまえは我々と同じ水棲人なのだよ。わしらは仲間だ」


 長の声が、リューとセイの頭の中に直接響いた。


「うそだ! 信じるな! リュー!」


 セイは必死に走ってリューの隣りに立ち、彼女の肩を握った。


「リューは陸棲人だ。この子は水の中では呼吸ができない。おまえら水棲人のような身体でもない!」


「それでもこの子は、水棲人なんだよ。われらの子だ。陸棲人」


 穏やかな声が、セイの頭に響いた。


「違う! 陸棲人だ。リューは陸棲人なんだ!」


 セイは繰り返し叫ぶしかできなかった。


「リュー。海の中へおいで。君は自分の周りに、酸素をとどめておくことができるだろう? 酸素の循環は、君のその力があれば簡単なことなんだ。わしら水棲人の子供なんだから、海に還っておいで。海が好きなら来るんだ」


 水棲人の声が優しく響いていた。天使の声に誘惑されたかのように、リューはゆっくりと海に向かって歩き出した。

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