第四十話 野営訓練の開始
街の防壁を出て五分、街道沿いの野営訓練を行う地点に到着しました。
夜間帯は緊急時以外は防壁の門が閉まっているので、こうした野営を行うスペースがあるそうです。
確かにテントを建てられるスペースもあり、何回か焚き火をした跡もありました。
全員荷物をおろして、ジェフさんの話を聞きます。
因みに、三人組が二チーム、二人組が一チーム、ソロが二組あり、あのケイさんは三人組に含まれています。
「街道で野営をする場合、可能ならこういう野営用に作られた場所を利用する事を勧める。しかし、護衛などではそうもいかないだろう。できれば、開けた土地で野営するのがポイントだ」
野営もできない場所で一夜を明かすのは、この世界だと自殺行為でしょう。
可能なら、野営用に用意されたところに泊まった方が安全です。
「そして焚き火を行う事を推奨する。これは、動物避けや虫除けになるのもある。料理をする事もできるが、火災には気をつけなければならない。確実に火を消すことだ。また、森にある枝を使う場合は湿っている事が殆どなので、早めに集めて乾燥させておくと火がつきやすくなる」
前世でキャンプに行った時も、火起こしの準備は日が高いうちから行ったっけ。
今日もテントを建てる場所を確保したら、さっそく手分けして準備を行います。
私達は立場的に講師側になるので、ジェフさんとアクアさんのテントの隣に私たちのテントを建てます。
「じゃあ、タマちゃん宜しくね。グミちゃんもタマちゃんの事をよくみていてね」
「アオン!」
やる気満々のタマちゃんが焚き火に使う枝とかを探してくるそうなので、お守りのグミちゃんと共に森に入っていきました。
その間に、私はアクアさんと共にテントの設営状況を確認しにいきました。
「マイちゃんは、テント設営が素早くてとても良いわ。中には全く設営できないのもいるのよ」
「前にもテントを建てた事があるので、初めてではないんですよ。でも、本当に駄目な人もいますね」
「ええ、ちょっとこれは酷いわね……」
まず最初にやってきたのは、男性三人組のパーティのところです。
見た目はゴリゴリマッチョのヒゲが凄い男性で、貫禄だけならベテランです。
でも初めてテントを建てるのか、何をどうすれば良いのか迷っています。
普通に説明書を読めばすみそうなのだが、致命的な問題点を抱えていました。
「説明書が難しくて、良く分からない……」
三人組は、文字は読めるが中身を理解できていなかった。
実は冒険者あるあるで、文字を書けなかったりする人も普通にいます。
流石に野ざらしで一夜を過ごさせる訳にはいかないので、私が説明書の中身を説明しつつ三人組は何とかテント設営を終えました。
続いては、若い女性二人組です。
若いといっても、私より年上ですけど。
テント設営は終わり、焚き火で戸惑っています。
「火がつかないよ……」
「うーん、何でだろう……」
二人は枝とかを集め終わったのですが、いきなり太い枝に火をつけようとしています。
こういう時は細い枝や枯れ葉から段々と火を大きくしないとならないのですが、どうもそれを知らないみたいです。
ということで、ここも私が間に入って火のつけ方を教えます。
ライターみたいな簡易的な火起こし魔導具があるので、種火をつけるのはとても簡単です。
チラチラチラ。
「わっ、火がついた!」
「マイちゃん、ありがとう!」
無事に焚き火を起こす事ができて、ホッと一安心です。
できれば、こういう事は事前に調べて欲しいですよ。
失敗していた人たちにとって、良い経験になっているのは間違いないです。
「ほら、キビキビと準備をする! 実際の野営は、こんなに時間を取ることはできないんだぞ!」
「「はいい!」」
ケイさんのところは、なんというかケイさんのスパルタ教育もあって中々凄いことになっています。
野営のやり方としては間違っていないので、このままそっとしておきましょう。
こうしてテント設営から一時間以上経過して、私はようやく自分のテントに戻る事ができました。
「アオン!」
「グミちゃん、タマちゃん、ただいま。任せっきりにしちゃってごめんね」
「アン!」
既に焚き火用の木の枝を沢山集めて、任務完了のグミちゃんとタマちゃんがヘロヘロな私を出迎えてくれました。
水筒の水を一口飲んでから、私はジェフさんに話しかけます。
「ジェフさん、戻りました。何かする事はありますか?」
「いや、大丈夫だ。とても手際の良い指導だったよ、ゆっくり休んでくれ」
ジェフさんの許可も得たので、私は少し早いけど夕食の準備をします。
流石に凝った料理はできないので、ソーセージを焚き火であぶってからホットドッグにします。
事前に準備してあるので、調理時間は殆どかかりません。
「パンを軽くあぶって、レタスとチーズを挟んでいい感じになったソーセージを入れます。トマトソースをかけて、完成!」
「アン!」
僅か数分の調理時間で出来たホットドッグを、グミちゃんとタマちゃんにも配ります。
うーん、もうちょっと胡椒を効かせても良かったかな。
次回野営した時に活かせる様にしておこう。
「はふはふはふ」
「タマちゃん、ホットドッグ美味しい?」
「オン!」
グミちゃんもタマちゃんも、ホットドッグを味わってくれています。
一安心しつつ、同じく夕食を始めた他の冒険者を見回します。
えーっと、これはもしかして……
「ジェフさん、アクアさん。まさか全員乾パンと干し肉ってオチですか?」
「どうやらそうみたいだな。一晩だけってのもあって、料理しないで済むものを持ってきているみたいだ」
「流石に、私達も簡単な料理はするわよ。乾パンと干し肉だけじゃ、野営とはいえ味気ないもの」
ケイさんのところは意図して乾パンと干し肉にしているみたいだけど、他の人達は大真面目にその二つだけだった。
もしかして料理スキルが全く無いのではと、そんな疑念にも駆られてしまいました。
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