第三十九話 少し面倒くさい冒険者
予定通り三日後の午後、私達は準備を整えてから冒険者ギルドに向かいました。
魔法袋が使えるけど、他の参加者が荷物を背負っているのであえてリュックサックに必要な物を詰め込みました。
タマちゃんも、小さなリュックサックに自分の寝袋やパンなどの食料を詰め込んでいます。
一泊二日だけど、テントもあるので中々の重さですね。
「ジェフさん、アクアさん。お待たせしました」
「おお、来たか。こっちだ」
既に冒険者ギルドでは、準備万端のジェフさんとアクアさんが受付の直ぐ近くに立っていました。
私達も、受付を済ませてから直ぐにジェフさんとアクアさんに合流しました。
ジェフさんとアクアさんも、年季の入った荷物を背負っています。
「タマちゃんもリュックサックを背負っているのね。とっても可愛いわよ」
「アオン!」
アクアさんはタマちゃんの頭をとても良い笑顔で撫でていて、タマちゃんも尻尾をブンブンとご機嫌に尻尾を振っています。
グミちゃんもちゃっかりとタマちゃんの頭の上に乗っていて、アクアさんに撫でられていました。
その間に、私はジェフさんに今日の予定を確認します。
「ジェフさん、本日は何人参加予定ですか?」
「全部で十人だ。パーティを組んでいる者もいれば、ソロで参加している者もいる」
おお、思ったよりも人数が多いなあ。
人数が多い分、トラブルも起きやすいだろう。
そんな事を思っていたら、アクアさんが少し不吉な事を話してきた。
「一人、気をつけないといけないのがいるのよ。昔からジェフに熱を上げていて、前からトラブルを起こしているのよ」
「そ、それは中々凄い人ですね。でも、それなら講習の参加を断れば良かったのではないでしょうか?」
「それも一つの手なんだけど、その子はパーティで参加しているのよ。一人だったら断るんだけどね」
うーん、中々悩ましい事情があるみたいです。
トラブルメーカーには巻き込まれたくないけど、あっちから近づいてくる事もある。
いつでも自己防衛できる様にしておこう。
そして、段々と野営訓練の参加者が集まってきたのだが、男女三人組の一人が明らかにジェフさんをジロジロと見ていた。
ピンク色のボブカットのシーフタイプのスタイルの良い女性だけど、チューブトップにジャケットを羽織ってホットパンツスタイルの体型を強調している装備をしている。
まるで、ジェフさんに自分のスタイルを見せつけている感じだ。
当のジェフさんはアクアさんと一緒に参加者の確認をしていて、忙しいので全く女性の方を見ていなかった。
私も、アクアさんと一緒に参加者の確認を手伝っています。
このタイミングでジェフさんに話しかけて、シーフの女性に何かされたらたまったもんじゃないよ。
と、思ったらトラブルメーカーの方から私に話しかけてきた。
「そこのあなた!」
「えっ、私ですか?」
「あなたに決まっているでしょう?」
何だろう、この上から目線の話し方は。
私が年下だから、そんな威圧的な話し方をしているのだろうか。
私だけでなく、隣にいるアクアさんやグミちゃん、タマちゃんも一気に警戒モードに突入した。
「あなた、一体ジェフ様の何なの?」
「えっ? ジェフさんは私が新人冒険者講習に出た時の講師で、その後は何回か一緒に講師の補助をしています」
「じゃなくて、あなたはジェフ様とどういう関係なの! ジェフ様は、あなたみたいなちんちくりんな女とは釣り合わないのよ!」
なんだろう、この人は……
ジェフさんを異常に美化していて、かなりの存在じゃないと釣り合わないって勝手に決めつけている。
非常に危険な感じしかしないよ。
と、ここでアクアさんが私とこの女性の間に割って入った。
「はいはい、そこまでよ。ケイ、人に突っかかるのもいい加減にしなさい。マイさんは魔法も使える優秀な新人冒険者で、珍しくジェフにも熱をあげない冷静な女性よ」
「アクア、また私の邪魔をして! うん? 魔法が使える新人冒険者って、あの『ブラッディグローブ』か! くそ、ギルマスのお気に入りかよ」
アクアさんがケイと呼んだ人まで、私の呪われた二つ名の事を知っていた。
というか、私はギルドマスターにこき使われているだけで、決してお気に入りではないんですけど。
しかし私の呪われた二つ名の効果が絶大だったのか、ケイさんはすごすごと引き下がっていった。
「マイちゃん、ケイが近づいているのに気が付かなくてごめんなさいね。あれでもケイは優秀な冒険者だから、実力が上のマイちゃんに喧嘩を売るような事はしないはずよ」
アクアさんが私に謝ってきたけど、私個人的にはあの呪われた二つ名のお陰で余計なトラブルを回避できたのが納得できなかった。
ともあれ、参加者も揃ったので全員で郊外の森に移動します。
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