第三十六話 守備隊での治療、のはず……

 翌朝、私達は冒険者ギルドの受付を済ませてから守備隊の詰め所に向かいました。

 思い返せば、この街に来る途中に魔法を暴発させて守備隊の人にいきなり迷惑をかけちゃったっけ。

 ある意味お詫びもしなければと思いつつ、防壁の門の近くにある守備隊の詰め所に到着しました。


「おはようございます、冒険者ギルドからやってきましたマイです」

「待っていたよ。中に入ってくれ」


 詰め所の警備をしていた人に促されて、私達は詰め所の中に入っていきました。

 詰め所は思ったよりも広く、馬を飼育する厩舎に武器置き場、更に留置施設もあります。

 何箇所か守備隊の詰め所があるそうで、今日は防壁の門の詰め所からの依頼です。


「やあ、マイちゃん。よく来たね」


 私に気軽に声をかけてきたのは、まさに私が街道で魔法を暴発させた時に駆けつけていた人だった。

 うん、改めて謝った方が良さそうだ。


「改めて、先日はご迷惑をおかけしました」

「マイちゃんは、本当に礼儀正しいね。守備隊の連中にも、是非とも見習って欲しいものだ」


 私が深々と頭を下げると、私の肩にいるグミちゃんとそばにいるタマちゃんも深々と頭を下げていました。

 今まで接した冒険者は礼儀ができる人とできない人にはっきりと分かれていたけど、私はどんな時でも礼儀正しくいきたいです。

 さっそく治療をするそうなので、私達は訓練場の一角に移動しました。


「おーい、治癒士を連れてきたぞ」

「おっ、きたきた。やっぱり、ブラッディグローブだったか」


 あの、私の事を見つけた大柄なスキンヘッドの守備隊が、不吉な事を言ったのは気の所為でしょうか。

 ここは、大柄なスキンヘッドの人に改めて聞いてみましょう。


「あの、そのブラッディグローブって、一体何ですか?」

「ああ、嬢ちゃんが不良冒険者に容赦無い姿から、その赤いグローブを血塗られたグローブと連想した二つ名だ。主に酒場の連中が言っているぞ」


 何ですか、その血塗られたグローブって表現は。

 流石に私も乙女なんで、そんな不吉な二つ名はいりません。

 グミちゃんはとても強そうな二つ名だと気に入っているけど、この二つ名は却下です。


「私もか弱い乙女なんで、できればもっと綺麗な可愛い二つ名が欲しいですよ」

「がはは、冒険者をぶん投げていてか弱い乙女はねえよな。屈強な嬢ちゃんにピッタリの二つ名だ」


 ぷちっ。

 ブオン、ドサッ。


 私は、思わずからかってきている大柄なスキンヘッドの人をぶん投げちゃいました。

 スキンヘッドの人は、まともに受け身を取れずに地面に叩きつけられていました。

 いくらなんでも、デリカシーがなさすぎです。


「あががが……」

「さあ、他の人の治療をしちゃいましょう。その人は、おねんねしたいらしいですね」

「ははは、マイちゃんの前では大の大人も型なしだな」


 脇でのびている人を放っておきながら、私は守備隊の人の治療を始めました。

 治療に訪れた人が口を揃えて、こいつはデリカシーが足りないとのびている人を嘆いていました。

 特に女性の守備隊員からけちょんけちょんに言われていて、普段からそういう人なんだなと感じてしまいました。


「あててて。いやあ、久々に良いのを貰っちまったぞ」

「回復魔法も使っていないのに、恐ろしいほど頑丈ですね……」

「がはは、体の頑丈さは俺の売りだからな」


 ある程度治療が終わったところで、スキンヘッドの大柄な守備隊員がむくりと起き上がりました。

 どうやら、体に栄養がいった分、頭に栄養がいかなかったみたいです。


「よっしゃ! 嬢ちゃんの最初の手合わせは俺だ」

「えっと、全力の魔法をぶち込んでも良いですか?」

「流石に俺でも死んじまうぞ。まあ、多少の魔法は大丈夫だ」


 ということで、私の最初の手合わせの相手が決まりました。

 念の為に、魔法の強さを調整する事に。

 私は、弱めのホーリーバレットをスキンヘッドの守備隊員に放ちました。


 シュイーン、ドン、ドン。


「このくらいで良いですか?」

「最初はこのくらいで良いだろう。じゃあ、やるか」


 若干バトルジャンキーの気質があるのか、スキンヘッドの守備隊員はニヤリとして木剣を構えました。

 因みに、審判は他の守備隊員がしてくれます。


「では、始め」

「うおおお!」


 ブオン。


 開始の合図と共に、スキンヘッドの守備隊員が勢いよく突っ込んできました。

 体が大きいのに、中々の素早さです。

 私は木剣をかわすと、一気に懐に入り込みました。


「せい!」


 ドカッ。


「ぐふっ。流石にやるな」


 みぞおちに綺麗に突きが入り、流石のスキンヘッドも一旦後ろに距離を取りました。


 シュイーン、ドンドンドン!


「せやっ!」

「ぐっ、複数の魔法を放ちながら突っ込んでくるのかよ」


 相手が体制を整えないうちに、ホーリーバレットを打ち込みながら再び懐に潜り込みます。

 ホーリーバレットは牽制なのでスキンヘッドも木剣で弾くが、その隙に顔面めがけて飛び膝蹴りをくらわします。

 しかし相手もさることながら、片手一本で私の飛び膝蹴りを防ぎました。

 でも、この飛び膝蹴りも牽制です。


 ドーン!


「がっ、何だ?」


 私は、スキンヘッドの背後に一発のホーリーバレットを飛ばしていました。

 突然の背後からの攻撃に、流石のスキンヘッドも狼狽していました。

 相手の一瞬の隙を、私は逃しませんを


 シュッ、ドン!


「てや!」

「がっ、こいつの布石かよ」


 私は、再び懐に潜り込むと腰の回転も加えた肘鉄をスキンヘッドにぶち込みました。

 たまらずスキンヘッドも、私から大きく距離を取りました。

 というか、今ので倒れないなんて、スキンヘッドは物凄く頑丈だ。

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