第十二話 初めての回復魔法

「さて、実技の説明を行おう。一試合五分だ。我々は木剣を使うが、君たちは自前の武器で構わない。講師がそれぞれにあったアドバイスをするので、これからの役に立てて欲しい。武器の使い方などの質問はどんどんして欲しい。ここにいるメンバーでアドバイスをしよう」

「「「はい!」」」


 アクアさんとモヒカン頭が対峙している間に、ジェフさんが私たちに色々と説明をしてくれた。

 取り敢えず、ジェフさん達と対戦してアドバイスを貰えれば良いんだね。

 と、ここでギルドマスターが私に近づいてきた。

 えっ、なになに?


「うむ、君がマイだな。念の為に、回復魔法の準備をしてもらおう」

「あ、あのギルドマスター、私は回復魔法をまだ使った事がないのですが……」

「ははは、目の前に良い訓練台があるぞ。こういうのは、実践あるのみだ!」


 ギルドマスターが指さした先には、アクアさんと対峙しているモヒカン頭の姿があった。

 うん、ちょっとくらい失敗してもいいやって気持ちになった。

 グミちゃんもついていてくれるし、回復魔法をやってみましょうか。


「開始する、始め!」

「おらー! 死にさらせ!」


 ジェフさんが開始の声をかけると、モヒカン頭は背中に背負った剣を抜かずにアクアさんさんに殴りかかりました。

 でも、アクアさんの顔にただ殴りかかっているだけなので、モヒカン頭は技術もへったくれもありません。

 なので、アクアさんもかなり余裕を持ってモヒカン頭の拳を避けています。


「うん、酷い、酷すぎる。下手くそなダンスを見せられているようだなあ」

「俺もマイの意見に賛成だ。ありゃ、剣を持ったところで更にダンスが下手になるだけだ」


 私の意見に、グミちゃんだけでなくギルドマスターも賛成しています。

 ギルドマスターだけでなく、ブライアンさんもフレイさんも思わず溜息をついていました。

 威勢がいいだけなので、どこをどう指摘して良いか分からないレベルです。

 取り敢えず、拳を振るう度に体が流れるのは大きな改善点ですね。


「ぐっ、くそ! 何故当たらない!」

「ただ拳を振るのは、子どもでも出来るぞ」

「ちっくしょー、次は剣だ!」


 モヒカン頭は、背中に背負っていた大剣を抜きます。

 そして、上段に大剣を構えてアクアさん目掛けて振り下ろします。


 ブオン、ブオン。


 やっぱりというか、モヒカン頭は大剣を振り回すだけなのでアクアさんに当たる気配が全くありません。

 ここまでは直ぐに予想できたけど、私とグミちゃんは別の所に目がいっていました。


「あの大剣、キチンとメンテナンスしていない気がしますよ。全体的に汚れていて、傷も多いですね」

「あのモヒカン頭は、本格的に駄目だな。大剣を扱うすべもなく、メンテナンスもしない。子どもと一緒に、一から叩き直した方が早そうだ」


 ギルドマスターの言い分に、私もグミちゃんも深く頷きました。

 これ以上アクアさんと実技をしても、もう何も意味はないでしょう。

 そう思っていたら、予想外の事で実技は終了してしまいました。


 ブオン、ガキン、グキッ!


「あーーー!」


 何とモヒカン頭が大剣を振り下ろしたら、地面に剣先が刺さってその衝撃で手首や腕を痛めたみたいです。

 まさか自爆して怪我をするとは……


「これで終わりだが、どうやらギルドマスターが君に言いたい事があるそうだ。マイの治療を受けたら、大人しく話を聞くように」

「ぐっ、くそ……」


 モヒカン頭はかなり悔しそうな表情でアクアさんを見ていたけど、もうどうしょうもないので大剣を引きずりながら私の方に向かってきました。


「さて、残りの三人は纏めてかかってきて良いぞ。最初から剣を抜いて構わない」

「「「馬鹿にするな!」」」


 結局、残りの三人もアクアさんが纏めて対応する事になりました。

 というのも、モヒカン頭のあまりの酷い戦いぶりに、ギルドマスター達のやる気が削がれてしまったからです。

 さてさて、私はモヒカン頭の治療をしますか。


「はいはい、こっちにおいでね」

「ぐっ、俺様が何でこんな事に……」


 モヒカン頭が物凄く悔しそうに私の前にやってきたけど、それはあなたが弱すぎるからだと言ってやりたいです。

 ここからは、グミちゃん先生に色々と教わって治療をしましょう。


「まずは、相手の体に軽く魔力を流してどこが悪いかを確認するっと」


 私は地べたに座り込むモヒカン頭の左肩を触って、軽く魔力を流します。

 えーっと、これは何でしょうか。


「両手首と肘の損傷に加えて、肩も痛めてますね。背中と腰も痛めてるので、全身ボロボロですよ。内臓も悪いので、お酒の飲み過ぎですね」

「はっ、何で分かったんだよ!」

「「「はあ……」」」


 モヒカン頭がめちゃめちゃビックリした表情をみせていたけど、ギルドマスターを始めとする講師陣は思わず溜息をついていました。

 溜息をついたのは、私が魔法を使ったのではなく体中を痛めている事ですね。


「体の痛めてる箇所が治るイメージで、相手に回復魔法をかける、っと。こんな感じな?」


 ピカー。


 私は、モヒカン頭が痛めているところが治るイメージで魔法をかけます。

 新人冒険者も、目の前で行われている酷い実技を無視して、私がモヒカン頭を治すところに注目していました。

 というか胃や肝臓も悪いってことは、酒の飲み過ぎもあるぞ。

 悪いところだらけで、モヒカン頭を治すのに二分ほどかかってしまった。


「ふう、これで大丈夫ですよ。お酒の飲み過ぎで内臓が結構やられていたので、冗談抜きで死ぬ可能性がありましたよ」

「はっ、えっ? 俺が死ぬ?」


 私の言葉に、モヒカン頭は顔を真っ青にしていました。

 しかし、お酒の飲み過ぎとか思い当たる節があるので、モヒカン頭は固まったままですね。


「「「ごふっ……」」」

「はあ、ここまで弱いとは。先程の人と併せて、ギルドマスターからしっかりと話を聞くように」


 そして、治療が終わったタイミングで、残りの三人の実技も終わりました。

 今度はアクアさんに普通にやられたので、打撲プラス胃と肝臓の治療ですね。

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