第十三話 ジェフさんとの手合わせ

 結局残りの三人の治療も、予想通り一人数分かかってしまった。

 一人は性病の疑いまであったが、今の私は十二歳の乙女なので余計な事は言わないでおきます。

 そして私は、モヒカン頭達の実技を見て気になった事が。


「もしかして、四人ともかなり体が固くて柔軟性がない?」

「「「「ビクッ」」」」


 うん、正解を聞くまでもなくとても分かりやすいリアクションを見せていた。

 すると、ギルドマスターが四人に説教を始めた。


「お前ら! まともに座学を聞くわけでもなく、実技もへっぽこだ。そんないい加減な態度で、お前らは冒険者をやるつもりなのか!」

「「「「す、す、すみません!」」」」

「見掛け倒しの筋肉なんて、邪魔な存在そのものだ! お前らは、柔軟性をつけて走り込むことが優先だな。必ず明日の特別講座を受けるように!」

「「「「は、は、は、はいー!」」」」


 まるでヤクザみたいなギルドマスターの気迫に、モヒカン頭たちは完全にビビっています。

 とはいえ、現時点では武器を選ぶ云々以前の問題が山積しているので、モヒカン頭達は相当頑張らないといけない。

 そして、ジェフさん、副ギルドマスター、ブライアンさんが訓練場に散らばっていきます。


「よし。では、実技を再開する。マイ以外は、指導を受けたい講師のところに行くように。武器の扱いが初めてだったり慣れていない場合は、ギルドマスターのところにいくこと。怪我をした者は、マイのところに行き治療を受けるように」


 結局私とグミちゃんは、実技が全員終わるまで治療役に専念する事に。

 他の人の実技が見れるので、中々楽しいけどね。

 モヒカン頭達のへっぽこダンスを見るよりも、とても勉強になる。


「おらあ! お前ら四人は邪魔だから、端っこに移動して他人の実技を見ていろ!」

「「「「はっ、はい!」」」」


 そして、モヒカン頭はギルドマスターの迫力に完全にビビっていて、直ぐに訓練場の隅に移動していた。

 ジェフさんに見せていたあの傲慢な態度は、一体何だったのだろうか。

 まあ深く考えても意味がないので、私は実技を終えて怪我をした人の治療に専念します。


「いやあ、マイがいて良かったぞ。いつも怪我人用のポーションが馬鹿にならないからなあ。ああ、ギルドからの指名依頼って事で、キチンと金は払うぞ」


 ある程度実技が終わってきたところで、ギルドマスターが私に話しかけてきた。

 タダ働きにならないのは、私としてもとてもありがたい。

 でも、よく考えたら異世界に来て初めての仕事がモヒカン頭の治療だったんだ……


「よし、全員終わったな。じゃあ、最後にジェフとマイだ」


 怪我をした人の治療を終えたところで、ギルドマスターが私に声をかけました。

 治療しながらジェフさんの動きを見ていたけど、かなりできる人だというのは間違いない。

 最初から全力でいないとと思いながら、私はジェフさんのところに向かいました。

 グミちゃんは、引き上げてきたアクアさんの腕の中に飛び込んでいきました。


「マイ、怪我人の治療をしてくれてありがとう。治療で疲れていないかい?」

「魔法を使っただけですので、全然大丈夫です。ジェフさんこそ連戦になりますけど、体力は大丈夫ですか?」

「ははは、心配無用だ。準備運動みたいだったからな。それに、実力的にみてもマイに指導は不要だろう」


 すっ、とジェフさんの目が鋭くなります。

 私が格闘タイプなので、ジェフさんも剣は使いません。

 お互いに距離をとって構えます。

 周りの人も、固唾をのんで私とジェフさんを見守っています。


「それでは、始め!」

「「はっ!」」


 シュッ、バシン、バシン!


 アクアさんの開始の合図で、私とジェフさんは一気に距離を詰めて打ち合います。

 やはりジェフさんは格闘戦もとても上手いので、私もやはり全力を出さないと押されてしまいます。


「すげー、物凄い闘いだ……」

「あのポニーテールの嬢ちゃん、あんなに強かったのか……」

「ほらほら、二人の動きをよく見なさい。あなた達が目指すべきレベルなのよ」


 私達の周囲にいる新人冒険者が、唖然としながら私とジェフさんの手合わせを見ています。

 副ギルドマスターが新人冒険者に話をしているけど、私なんかまだまだだと思うよ。


「ふっ、はあ!」

「せい、えい!」


 バシン、バシン。


 お互いに拳を放っては受け止めたりかわしたり、蹴りを放っては受け止めたりかわしたりと目まぐるしく攻防が入れ替わります。

 やはりジェフさんはとても強くて、身長差もあるので中々良い一撃が入れられません。

 ジェフさんも私と身長差があるので、少しやりにくそうですね。

 そんな激しい攻防も、あっという間に終わりました。


「時間です、それまで」

「「はあはあはあ」」


 五分が経過し、アクアさんの声がかかりました。

 私とジェフさんはお互いに息を整えながら近づきます。

 そして、握手をしました。


「やっぱり、ジェフさんはとても強かったです」

「いやいや、マイもとても強かった。久々に全力でやったよ」


 パチパチパチ。


 握手をする私とジェフさんを見て、周りにいた新人冒険者が拍手をしていました。

 いずれにせよ、いい手合わせだったのは間違いない。


 ぴょーん。


 審判をしていたアクアさんが近づいてきて、アクアさんの肩に乗っていたグミちゃんが私の頭の上に飛び乗ってきました。


「マイちゃんって、とても強いのね。何となく強いのは分かっていたけど、これ程までとは思わなかったわ」

「でも、まだまだです。ジェフさんも私の身長が低いのを気にしていましたし、私も身長差があってやりにくかったです」

「まあ、それはしょうがないわ。そのハンデを考慮しても、良い手合わせだったわよ。周りにいた人は、そんな点なんて分かっていないだろうしね」


 アクアさんも私の頭の上に乗っているグミちゃんも、私とジェフさんの手合わせを褒めてくれました。

 因みに、お互いに怪我はしていないので回復魔法は不要です。

 こうして初心者冒険者向けの講習は終わったのですが、まだ少し続きがありました。

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