第十話 新人冒険者向け講習の始まり(座学)

 全員席についたところで、ジェフさんが私達新人冒険者に向けて話し始めます。

 うん?

 となると、あのやられ役も新人冒険者なはず。

 うん、気にしないことにしよう。


「今回の講習を担当するジェフだ。それと、サポートにアクアがつく。この後の流れだが、座学で冒険者の心得を教える。簡単な薬草採取の仕方も教えるつもりだ。その後、場所を移して実技を行う。冒険者は常に危険と隣り合わせだ。自分の実力を把握するのも、大切な事だ」


 ジェフさんが話し始めると、直ぐにみんなが一斉にジェフさんを見ます。

 私もグミちゃんも、真剣にジェフさんの事を見ています。


「では、まずは簡単に冒険者関連のルールを説明する。一番大きなルールは、依頼に関するルールだ。ランク制度が無い分、どの依頼が自分に合うのか慎重に調べる必要がある。受付にいる者に相談するのもありだし、信頼する冒険者に相談するのもありだ。話を聞くのは恥ではないし、逆に自分勝手な行動をして多くの人に迷惑をかけるのも駄目だ」


 うん、この辺は特に日常的に気をつけておけば良い事だ。

 そういえば、大学の時にも自分の実力に合わない授業をとって単位を落としていた人がいたなあ。

 自信過剰は禁物ってところだね。


「人として当たり前の事を守る、これも当然の事だ。約束を守る、犯罪を犯さない、特に金銭関係でのトラブルが非常に多い。他人の依頼成果を盗まない、依頼の横取りをしないなど、考えれば常識的な事ばかりだ。犯罪を犯して強制労働になる者もいる。冒険者は自己責任とも言われているが、とにかく当たり前の事を守る事を徹底して欲しい」


 うわー、ジェフさんが熱く語る度にアクアさんがうんうんと頷いている。

 トラブルを起こす冒険者が後を絶たないんだなあ。

 とはいえ、あのモヒカン頭みたいなのがいるからトラブルが起きるんだな。

 他にも少し人格とかに問題がありそうな人がいるし、十分に気をつけないとね。


「後は、冒険者登録時に配られた冊子をとにかく読む事だ。今は分からないと思うが、後々で必ず差が出てくる」


 確かに冒険者登録時に配られた冊子は常識的な事ばかりだったけど、依頼関係とかで結構重要な事も書いてあったんだよね。

 宿に戻ったら、もう一回読んだ方が良さそうだ。


「依頼関係で必要なのは、とにかく調べるということだ。その依頼はどんな内容でどんな事に気をつけなければならないとか、どんな装備が必要かを確認しなければならない。事前準備や装備を怠って死ぬケースもある。命を落とす危険性のある依頼なら尚更だ」


 私は魔法袋があるからとにかく入れれば良いけど、普通の人は持てる荷物の量も決まっている。

 遠征とかだと沢山の荷物が必要だし、食料や水も必要だ。

 そう考えると、事前準備ってとっても大切だね。


「あと、意外と重宝するのが家事スキルだ。料理、洗濯、覚えておいて損はないぞ。一週間、水と乾パンと干し肉だけだと本当に辛いぞ」


 ジェフさんの経験談もあり、ちょっとした笑いが起きている。

 でも、確かに一週間乾パンと干し肉だけは嫌だなあ。

 私は幸いにして料理が出来るし、魔法袋の中にパンや作った物を入れておけばいいね。


「武器に関しては、人によって適性が違うのでここでは言及しない。だが、必ずナイフは持っておく様に。解体や料理にも使えるし、火起こしの為に木を細く削る事もできる。できればダガーもあれば良いが、街中で受ける依頼なら必要としないだろう」


 そういえば、魔法袋の中にナイフはあったけどダガーはなかったなあ。

 私は格闘タイプだけど、ダガーはあった方が良さそうだね。

 ナイフもだけど、料理用に包丁とかもあった方が良いね。


「では、薬草採取について簡単に話をしよう。というのも、この街の直ぐ側に森があり、そこで沢山の薬草が採れる。動物や魔物も程よく出てくるので、相当腕に自信がない限りは一人で行かない方が良い。しかし、薬草採取も案外稼げるぞ」


 薬草採取が稼げるって聞いて、周りの人がちょっとざわざわしている。

 まあ、薬草も数を沢山採ってこそ稼げるだろうね。


「冊子にも簡単に書いてあるが、代表的な薬草は葉の裏に細かい毛があって独特な匂いもする。沢山葉を採っても、半月もすれば葉が生えてくるぞ」


 うーん、よもぎみたいな物が薬草なんだ。

 でも、他にも薬草はありそうだし、どれを採れば良いか迷うなあ。

 ちらっとグミちゃんを見ると任せろって表情をしているから、グミちゃん先生に色々と教えて貰おう。


「では、座学はここまでとしよう。この後、ギルドの敷地横にある訓練場で実技を行う。武器を使うのが初めての物もいるだろうし、そういう人には別の者が指導につく」


 これで座学は終了だ。

 ジェフさんの話し方が良かったから、あっという間に時間が過ぎたよ。

 ちょっと気になったのが、あのモヒカン頭の大男だ。

 やけに静かだった気がするけど……


「「「「ぐー、ぐー」」」」


 うん、机に突っ伏して寝ているよ。

 モヒカン頭にとって、座学は睡眠魔法みたいなものなんだなあ。

 そんな事を思いながら、私とグミちゃんは部屋を出ていきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る