第九話 モテモテの講師とやられ役

「マイ、先に宿の予約をしておけ。講習の後で予約に来る奴がいるからな。俺達は先に」

「まあ教会が運営しているから、基本は女性優先なんだけどね」


 ジェフさんとアクアさんからとてもありがたいアドバイスを頂いたので、早速私はジェフさんとアクアさんと別れて宿の受付に向かいます。

 食堂の受付と同じく、宿の受付にもシスターさんが対応してくれた。


「すみません、一週間の部屋をお願いします」

「畏まりました。料金は先払いになります。また、風呂はありますが食事は全て食堂での提供になります」


 おお、お風呂があるのはとっても嬉しいな。

 生活魔法の中に体や色々な物を綺麗にする魔法があるけど、やっぱり元日本人としてはお風呂があるのはとても嬉しいな。

 延長の場合は前もって受付に言う必要があるそうなので、そこは上達具合に合わせて決めようっと。

 鍵を貰って、早速部屋に向かいます。


 ガチャ。


「わあ、シンプルだけど清潔な部屋だね」


 部屋はベッドと机があるだけのとてもシンプルな作りで、本当に素泊まりだけって感じです。

 昔は旅行に行ったら畳にお布団だけってのもあったから、この辺りは全然問題ありません。

 グミちゃんも全く問題ないって言っているし、寝るのは大丈夫だね。

 さてさて、冒険者ギルドに戻らないと。

 私は部屋の鍵を閉めて、足早に冒険者ギルドに向かいました。


「えーっと、確かこの部屋だったはず。新人っぽい冒険者が多いから、間違いなさそうだね」


 冒険者ギルドの一階にある大きな部屋に入ると、様々な年代の男女が席に座っていました。

 中には受付で配られた冊子を読んでいる人もいるし、新人冒険者が集まっているのは間違いなさそうだ。

 私は空いている前の方の席に座ります。

 ざっと冊子は読んだけど、もう一回読んでおこうっと。


 ガチャ。


「おっ、また冊子を読んでいるのか。感心だな」

「あっ、ジェフさん、アクアさん」

「まだ講義前だから、冊子を読んでいて良いわよ。ふふ、グミちゃんも冊子を読んでいるのね」


 定刻よりも少し早めにジェフさんとアクアさんが部屋にやってきて、冊子を読んでいた私とグミちゃんに話しかけてきた。

 新人冒険者は全く知らない人ばかりだけど、講師がちょっとだけでも知っていると本当に気持ち的に楽になるなあ。


 ズドドドド。


 と、ここで女性冒険者が集団でジェフさんの所にやってきた。

 な、なんだこれは、全員目がハート状態だよ。


「あ、あの、ジェフ様ですよね!」

「凄い冒険者って、あのとっても有名なジェフさんです!」

「あっ、握手して下さい!」

「俺に何か用事かな? 時間もないし、順番にね」


 うーん、ジェフさんはとても美形だし面倒見も良いから、女性冒険者の憧れの的なんだ。

 握手やサインを求められても、ジェフさんは律儀に答えているぞ。

 でも、うーん、私はそこまで憧れてる訳じゃないんだよね。


「ぶすー」


 そして、アクアさんは分かりやすく不貞腐れています。

 何とか我慢しながらも、ほっぺたがぷっくりと膨らんでいますね。

 乙女心は、中々複雑です。

 そんな時に、部屋の後ろ側からとても不機嫌な男の声が聞こえてきました。


「けっ、キャーキャー言われていて。タダの軟弱な野郎じゃないか」

「「「そーだそーだ!」」」


 後ろを振り向くと、かなり横柄な態度でジェフさんを睨みつけるモヒカン頭の大男がいた。

 何だか弱そうな配下の男を引き連れているけど、如何にもやられ役って感じなのは気の所為かな?

 ジェフさんの所に行った以外の女性からもブーブー言われているし、自分がモテないのを棚に上げている気がするね。

 もちろん、私もあんな男はノーセンキューです。


「ふふ、そう怖い目で見ない方がいい。どっちにしろ、座学の後に実技をやるんだ。その時にまた話せば良いだろう」

「おもしれー。俺は、是非とも講師の先生様とお話したいな」


 あーあ、座学の後の実技がある意味波乱含みになりそうだよ。

 とはいっても、やられ役はやられ役のままの気がするけど。


「さて、そろそろ座学を始めよう。全員、席につくように」

「「「はーい」」」

「「「「けっ」」」」


 ジェフさんが周りに集まった女性に声をかけると、何故かやられ役まで不満そうな声を上げていた。

 でも、やられ役もそろそろ気がついた方が良いと思うよ。

 アクアさんが、やられ役にかなりの殺気を送っているんだけどなあ。

 私とグミちゃんの予想だと、やられ役はジェフさんと対戦できないと思うね。

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