第12話 歓迎の宴の準備
翌日である。私は港町クーレへとやって来ていた。町民たちは新たな防壁を見上げている。
だが、防壁を建てただけで広がった部分にはまだ木々が生い茂っている場所もある。先ずは更地にしなくては迎賓館も出せない。
私は防壁を見上げている町民たちに声をかけた。
「今からこの辺りを更地にするからみんなは下がってくれるかな」
「リョージ坊っちゃん!」
「あー、リョージさまだーっ!!」
大人も子供も私の顔を知っているので素直に下がってくれ、大人たちは今まで使用していた防御柵の撤去を始めた。子供たちは撤去してる場所から危険じゃない場所まで離れて私を見ている。
まあ、見られても困る事は無いので私は仕事を始める事にした。
「収納!」
すると生い茂っていた木々が私の収納内に入った。雑草もついでに入れておいた。私の収納は生物も入れられる。なので木々も私の収納内で生きた状態で入っているのだ。
この木々をどうするかはセバスやケンゴと相談して決める予定だ。
さて、これで取り敢えず縦およそ300メートル、横およそ500メートルの広さを確保出来た。私は考える。迎賓館をどうするか?
昨夜、セバスと話合いエルフ、ドワーフ用、オーガ、ゴブリン用、獣人用と3つあるのが理想だがそれだと領民の負担が大きくなる。それに領主としては父上1人しか居ないので、建物は一つで中をそれぞれ用として分けるのが良いだろうという結論になっていた。
しかし、そのような迎賓館が果たしてあっただろうか……
私は150回に及ぶ転生を思い出す……
で、あっさりと結論が出た。うん、赤坂◯宮で良いな。あれなら広さも十分だし、離れの日本家屋ならばエルフたちにも気に入って貰えると思う。
そして私は赤◯離宮をそのまま更地にした場所に出したのだった。
中を初めて見るが…… 凄いな。
イヨさんにお土産を渡した時に聞いたのだが、今回来るのは、エルフが12人、ドワーフが10人、オーガが6人、ゴブリンが15人、獣人が大人13人、子供5人らしい。
大型船と聞いていたが、この世界の大型船は私が想像していたような豪華客船サイズではなく前世のアメリカで作られていた初期〜中期の蒸気ボートサイズらしい。全長が長くて25メートルほどの物だ。
勿論だがこの世界では蒸気で動いている訳ではなく、魔石や魔岩を利用して動力としているそうだ。
うん、魔道具の一つとなるのだな。
なので人数的には先に述べた人数が乗れる程度との事だった。
うちの領地から南の大陸までの距離はなんと30キロメートル程で、突然見えるようになったうちの領地にそれぞれの種族が新たな資源を求めて旅立ってきたという。
まあ、これまではリヴァイ様の結界によって見えないし、入れなかったからな……
しかし、南の大陸特有の気質を持つ人々は良く言えばおおらか、悪く言えば大雑把らしい。
時間にルーズらしいのだが、そこはうちの領地に来たら改めてくれると良いなと思っている。
そして、エルフはベジタリアンだと思っていた私の思い込みは間違いだとセバスに教えられた。
エルフたちは優秀な森の狩人であり、肉も良く食べるのだそうだ。
ドワーフの酒好きはそのままらしい。オーガ、ゴブリンも肉も野菜も食べる種族らしい。
オーガはその体格にしては珍しく気弱な者が多いんだとか。逆にゴブリンは気が強い者が多いそうだ。また、容姿についても私の前世での読み物の思い込みが間違っていることを教えられた。
オーガは身長2メートル超えが多いが額部分に角がある以外は人と容姿は変わらない。ゴブリンも肌の色はうぐいす色で鼻が高いそうだが、身長が大人でも140センチほどだという以外は人と変わらない容姿をしているそうだ。
また、そんなゴブリンを好んで
獣人については毛深い者も人と変わらない毛の長さの人もいて、毛深い者が元となる獣の血をより濃く引いているらしい。
うーん、本当に楽しみだ。
そんな事を考えながら私は出した赤坂離◯の中を検分して回り、エルフは離れにドワーフは離れから近い部屋に。オーガは部屋の天井の高さが3メートル80センチある部屋に。ゴブリンはその近くの天井の高さが普通の部屋に。獣人たちはオーガやゴブリンたちと少し離れた大部屋に泊まって貰う事に決めた。
中の調度品の数々は魔石で動くようにちゃんとなっていた。
「よーし、これで迎賓館は大丈夫だよね」
誰も聞いてはいないが声を出す時には年相応の喋り方にするよう気をつけている。
「次は職人ギルドだね。ケンゴが話をしてくれてる筈だから行ってみよう」
迎賓館から外に出てみると防御柵の解体をしていた大人たちまで近くまで来てボヘーッという感じで迎賓館を眺めている。
「外から見るのは構わないけど中には入らないでね。ここはお客さんをお迎えする館なんだ」
私は眺めている大人たちにそう注意をした。
「はい、リョージ坊っちゃん。勿論入ったりしません。ただ、外回りは歩いてみても構いませんか?」
「うん、建物の中に入らなければ外は歩いて見て回っても大丈夫だよ」
私はそう伝えて港町の方へと向かった。父上の親しみやすさからか領民たちは領主一家として敬いながらも気軽に声をかけてきてくれる。そして、私が幼いからといって侮ったりはせずにダメだと言った事はちゃんと守ってくれるのだ。そんな領民たちにももっと豊かな暮らしをさせて上げたいとは思うが、近隣の貴族にはヒーメン伯爵を筆頭に碌な者が居ない……
しかも爵位は父上よりも上なので厄介なのだ。また、いざという時には将軍様から頂いたとある物があるらしいのだが。
職人ギルドに着くと担当のおじさんが私を見つけて歩み寄ってきた。
「リョージ様、ケンゴさんに言われて給仕する者たちを十二人、こちらに呼んであります。が、本当に彼女たちでよろしいのでしょうか?」
「うん、どんな人たちが集まったのか確認してから返事をするね。取り敢えず会わせてくれるかな?」
「はあ、こちらです。どうぞ」
おじさんの案内で着いたのは職人ギルドの中会議室だった。私はおじさんの後に続いて部屋に入る。
するとそれまでお喋りしていたのがピタッと止み私を注視している30代〜60代の女性たちがいた。
「リョージ様、ケンゴの兄さんに言われてここで待ってましたけど、初めての外国からのお客様の給仕を私たちなんかで勤まりますかね?」
女性たちを代表して私にそう問いかけてきたのは漁師組合の組合長の奥さんで、御年62才のイスレナさんだ。集まってくれた中では最高齢だと思う。
「イスレナさん、皆さん、取り敢えず集まって下さって有難うございます。僕から簡単に説明をさせて貰います」
私の言葉にイスレナさんも他の女性たちも頷く。
「皆さんにお願いしたいのはお客様たちへの給仕ですが、今回の歓迎の宴では初めに立食形式で行うつもりなんです。なので、皆さんはお客様から頼まれた際に飲み物や料理を取りに行っていただくようになります。2日目以降の朝、昼、夜はテーブルについての食事となります。その時は調理室にある料理を運んでいただくようになります。ここで重要なのはそれぞれの種族の地位の高い方たちから料理をお出しして欲しいのです。父上の席に近い場所に座る方々ですので見れば直ぐに分かると思います。言葉については普段、父上や母上、僕に話しかけるような口調で話して頂ければ構いませんので。ここまでで何か質問はありますか?」
一度に全てを言うと混乱する人もいるだろうと思いここで一旦質問を受け付ける事にした。
「はい、リョージ様! どんな人たちが来られるのか教えて下さい」
と手を上げて私に質問してきたのは港町クーレの商人ギルドの副ギルド長の奥さんでセールさんだ。30才の若手だな。
「そうでした。お伝えするのを忘れてました、すみません。そこは大事ですよね。今回はエルフ、ドワーフ、オーガ、ゴブリン、獣人の人たちが3艘の船に分かれて乗ってやって来られます。エルフの方が12人、ドワーフの方が10人、オーガの方が6人、ゴブリンの方が15人、獣人の方が大人13人、子供5人となってます」
私の言葉を皆さんがメモを取っている。うん、うちの領民たちは読み書き出来る者ばかりだからな。
それからも私からの話と質問を受け付け、最後に皆さんを連れて迎賓館へとやって来た。
「凄い!!」
「エッ!? こんな建物あったかしら?」
「これもリョージ様が?」
と口々に質問をして来るのを答えながら中に入って貰い、皆さんが夕食はまだだと言うので、ご主人やお子さんを連れて来て下さいと伝えて一旦帰ってもらった。
「リョージ様ーっ!! こりゃーいったい何ですかいっ!?」
うん、組合長のトードさんは相変わらず声が大きいね。しかもイスレナさんに頭を
「あんた! また私の話を聞いてなかったねっ!! ここはお客様をお迎えする館だよ!! ここに来るまでに何度も言ったじゃないか!」
「まあまあ、イスレナさん。その辺で。取り敢えず皆さん座って下さい。当日にどんな料理をお出しするのか知ってもらおうと思います。なので今から料理を出しますから食べてみてくださいね」
そう、お出しする料理も未知の物だと運ぶのに躊躇してしまうかも知れない。が、知っているならば運べるだろう。その味も知っているならばなおのこと良しだと私は考えたのだ。
その日以降、迎賓館において一部の領民たちが魂をリョージにより抜かれたという噂が流れたのだが私の所為では無いと思う……
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