第11話 悪い事と良い事の知らせ

 部屋でバハムル様たちと一緒に待ってたらバタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。

 既にセバスによって開けられていた扉に飛び込んできたのはやっぱり父上だった。

 そして、ファーヴニルさんに抱っこされてる私を見て驚いているが、無理やりその驚きを飲み込んで、バハムル様とリヴァイ様に声をかける父上。


「竜王様に海竜様、本日はどのようなご要件でしょうか?」


「ハッハッハッ、そんなに畏まることは無いぞソージ。なに、少しお前に話しておかなくてはならない事が起こって、いや、まだ起こってはおらぬが、これから起こるのでな。それを知らせておこうと思ったのだ」


 なんだか含みのある言い方をするバハムル様。


「それはいったい…… どのような事が起こるのでしょうか、竜王様?」


「うーむ、良い事と悪い事、両方あるがどちらから知りたいのだソージ?」


 ああ、悪い事もあるんだ。私はそう思ったが口を挟まずに父上の返事を待った。


「そうですね、先に悪い事を教えて頂けますか」


「フフフ、さすがソージだな。アンナも他の者たちもそれで良いか?」


「ええ、バハムル様。私は主人に従います」


 母上がそう返事をした後に気がつけば屋敷の者たちが全員揃っていた。


「フッ、ならば悪い事から話をしよう。ファーヴニルの部下たちからの報告なのだが、ヒーメンの奴が近々この領地の視察に来るそうだぞ。ああ、安心せよ。今はまだリョージの力には気がついておらぬ。視察という名の政略結婚を迫ってくるつもりのようだぞ。産まれて間もないリョージの妹がおるであろう? そのリョージの妹とヒーメンの末子の婚約と将来的にはその者をこの領地の跡継ぎにとか言ってくるつもりのようだぞ。その際にソージに我が元に案内させて余の加護を得るつもりであるようだ」


 そこまで聞いた時に私の中で、48回目の転生で得た暗殺者アサシンの冷たい怒りが沸き起こった。それを感じとったのであろう、竜種の4人の方たちはハッとして私を見てきた。


「何ともはや、凄まじいものよな。余が思わず見てしまう程とはの」(バハムル様)


「落ち着きなさい、リョージ。まだヒーメンは来てないわよ」(リヴァイ様)


「リョージ殿、その怒りは不味いですぞ。私でも肝が冷えましたぞ。そうだ、肝と言えば私は鳥の肝が大好物でございましてな! そちらを今回はご用意頂けると嬉しいですぞ!!」(ファーヴニルさん)


「リョージ様…… ワタクシはイチゴのショートケーキではなく、ホールケーキでヒーメンとやらを抹消して参りますが?」(イヨさん)


 うん…… バハムル様、リヴァイ様、この方たちが側近なのは本当に大丈夫なのでしょうか?

 沸き起こった冷たい怒りも引っ込んでしまうほどの食い意地を目の当たりにした私は竜種の王と王妃を哀れみの目で見てしまっていたようだ。


「ハッハッハッ、心配するなリョージ。ファーヴニルはこれで非常に優秀だぞ」


「何よ、元を糺せばイヨがこうなったのはリョージの所為なんだからね」


 ま、まあそこは否定出来ませんねリヴァイ様……


「とまあそんな訳だソージ。どうするかはお主が決めよ。我らは気に入った者に加護は与えるが人と人の争い事には手出しはせぬと決めておるからな。戦うか、従うかを決めておくが良い。ヒーメンの奴が来るのは2ヶ月後の予定らしいからの」


 とバハムル様が父上にそう仰られると、母上が父上にこう言った。


「あなた、分かってるわよね。この領地は将軍様から【私たち】が頂いた領地よ。子々孫々まで守ってくれとも将軍様は仰ったわ」


「フフフ、アンナ。分かっているとも。それに竜神様との約束もある。ヒーメン殿には何処に手を出そうとしているのか分かって頂こうではないか。幸いにしてリョージが大層な防壁を作ってくれたしな。2ヶ月の間に広がった領地を開拓してしまおう!」


 フフフ、ハハハと今までに私が知らなかった母上と父上の一面が垣間見えた。どうやらヒーメン伯爵は手を出してはいけない者に手を出そうとしているようだ。私を含めてだが。


「ハッハッハッ、どうやら2人とも、いや、他の者たちも鈍ってはないようだな。それで良し! ではソージよ。次は良い事を話そうか。まあそれについては我が妻より話すのが良いかと思うが、どうだ?」


 バハムル様がリヴァイ様を見てそう聞くとリヴァイ様が分かってるわよと言って父上と母上の方を見た。


「えっとね、ソージがリョージを連れて来た時に海に張った結界を変えてくれって頼んできたじゃない。それでその日のうちにイヨと2人で結界を変えたのだけど、その効果がそろそろ出てくる予兆があるの。近日中、恐らくだけど2〜3日後には3艘の大型船が港町の沖合につくと思うわ。3艘はクーレの港にギリギリ入れるサイズね。で、その船に乗っている人種は1艘はエルフとドワーフ。もう1艘はオーガとゴブリン。もう1艘には獣人たちが乗っている筈よ。そう、南の大陸からやって来るのよ。目的は友好貿易よ。エルフとドワーフは木製家具や細工物、鍛冶製品と引き換えにこの地の魔石、魔岩を。オーガ、ゴブリンはこの魔獣の森への永住権と引き換えに魔獣の間引きを行うつもりのようよ。獣人たちも魔獣の間引きを行う事の代償として食料の輸出を願うつもりらしいわ。これはイヨの部下の報告だから正確な情報よ」


 私は年甲斐もなく(いや、年相応と言えるのだろうか?)興奮してしまった。遂に前世では見られなかった種族の人たちと相まみえる事が出来るからだ。


 エルフ、ドワーフ、さらにオーガやゴブリン、獣人にまで一度に会えるとは思ってもみなかった。それも2〜3日後だと!! 


 かっ、歓迎の準備を急がねば! と私が内心でかなり興奮していたら、リヴァイ様とイヨさんにジト目で見られていた。


「リョージ、私たち竜種に会った時よりも興奮してない?」


「リョージ様も森の妖精がお好みなのですね……」


 いやだって、リヴァイ様との初対面はソファに寝そべってバリボリお菓子を食べてアレらしたからですね…… 竜種に会ったというよりはズボラな美人さんに出会ったという感じでしたから……


「海竜様、その3艘の船は本当に友好貿易が目的なのでしょうか? 間違いはありませんか?」


 父上は領主として確認をとる。


「ソージ様、間違いございません。既にワタクシの部下もそれぞれ1艘ずつに分散して乗船しておりますのでご安心くださいませ」

 

 イヨさんがそう言って父上を安心させた。このタイミングだと思った私はここぞとばかりに進言する。


「父上、母上、思えばこの領地に初めて来られる旅人の方たちです! 歓迎の宴を催すべきだと思います! 今回は僕の収納から宴に必要な物を出しますので、どうか許可をお願いします!」


 私は必死である。そう、友好的な彼らと末永くお付き合いしたいのだ。前世の私では知り得なかった知識、技術などもあるだろう。それらを教えて欲しいのもある。また、オーガやゴブリンといった種族の方たちには戦闘方法なども教えて貰いたい。

 そしてあわよくば獣人の方たちはモフらせて貰えればと願っているのだ。


 そんな内心をひた隠し、私は真剣な眼差しで父上と母上を見る。


「そうねぇ…… 初めてなんだし、私も歓迎の宴には賛成だわ、ソージ」


 フッ、勝ったな。母上が父上を名前で呼んだ時は【私がこう思ってるんだから逆らっちゃダメよ】という意図が込められているのだ。なので、


「あ、ああ、そうだな。アンナ。リョージ、それじゃ、2〜3日後と慌ただしいかも知れないが準備を頼む。そうだ、あの4人にも手伝って貰え」


 と、父上はコンクリート作りで雇った4人に手伝って貰えとも言ってきたが、明日は土の日で、明後日は陽の日なので半ドン、休日である。私はブラックな職場を作るつもりは無いので、4人の手伝いは必要ないと父上に伝えた。そもそも、全ては私の収納内にあるのである。

 勿論だが収納内には迎賓館もある。


 防壁を広げておいて良かったと私は思いながら、港から近い場所で迎賓館をどこに出そうかと思案するのだった。


 そして、悪い事と良い事を教えて下さった竜種の4人のお偉い方々がお帰りになるというので、私はバハムル様にスコッチウイスキー五樽、ファーヴニルさんにフォアグラ料理10品、リヴァイ様にアップルパイ2種と特別手当としてロマネ・コンティを十本、イヨさんにはイチゴケーキとフルーツケーキをホールで、特別手当としてウェディングケーキ、高さ1メートル50センチ(上から下まで全部本物のケーキ)をお渡ししてお引取り頂いた。


 それから私はセバスを捕まえてそれぞれの種族の特性を教えて貰う。何が好きなのか、食べられない物があるのかなどだ。


 基本的にどの種族も禁忌となる食べ物は無いという事なので、私は収納内にある料理をじっくりと吟味する事にしたのだった。

 


 


 

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