第10話 チョロい竜種が護衛です
「リョージ! コレ何!?」
「リョージ様、リヴァイ様にスライムをお出しするなんて!?」
いえ、イヨさん、違いますよ。ゼリーです。ちゃんとした食べ物です。仕方が無いので私が毒味として先に一口食べてみせた。
「リョージ!! 直ぐに吐き出しなさい! スライム酸で身体が溶けるわよ!!」
だ〜か〜ら〜、食べ物ですってば、リヴァイ様。
「リヴァイ様、イヨさん。見た目は確かに似てますがスライムではありません。これはゼリーという甘味なんです。騙されたと思って一口でいいので食べてみてください」
私がそう言って差し出すと恐れ知らずだと思ってたリヴァイ様やイヨさんも恐る恐るという感じでゼリーを口に運んだ。今回のゼリーはフルーツゼリーだけど果肉は入ってないタイプだ。リヴァイ様にはイチゴ味、イヨさんにはブドウ味のゼリーを渡してある。
一口パクリと口にしたお2人の反応は……
「あま〜い!! イチゴの香りもしっかりとしてて美味しいーっ!?」
「こっ、コレはっ!? 冷たく冷やしてあるので口の中が心地よくさっぱりとしてっ! ブドウの風味も甘みも程よくて!」
イヨさんには食リポの才能があると見た。けれども私はその後のお2人の言葉に失敗したと悟ったんだ。
「えっ!? イヨのはブドウなのっ!?」
「そういうリヴァイ様のはイチゴですか……」
そうだ、確かリヴァイ様はワイン好きなんだからリヴァイ様にブドウ味をお渡しするべきだった…… イヨさんはイチゴのショートケーキが大好物なんだし…… なんで反対で渡してしまったんだろう。しかし私は慌てない。既に収納から違う味のゼリーを各2種ずつ取り出してある。
勿論だが今回は果肉入りの物も用意してある。その数は30個✕2で60個だ。
「コチラも是非、お試しください。先ほどのゼリーとは違う食味の物をご用意いたしました」
私が恭しく差し出すとリヴァイ様もイヨさんも何も言わずに収納に入れている。
「リョージ、次はどっちの方面に行くの? 南方面は終わったんでしょ? 西に行く?」
「はい、リヴァイ様。この防壁を繋ぎながら西に向かって進んで、西方面が終わると北に向かい、最後に東方面で終わりです。それで、明日は港町クーレの防壁を設置したいので明日もまたお願いできますでしょうか?」
と私がお伺いを立てるとリヴァイ様は、
「う〜ん、それはリョージが残りの西、北、東でどんな甘味を出してくれるかによるわね」
と、各方面で甘味を出せとお
「分かりました。僕がリヴァイ様が満足なされる甘味を必ずお出ししてみせます!!」
内心ではニヤリと笑いながらも顔は大真面目に私はそう言ってのけたのだった……
で、勿論だがその日は領都の防壁を完全に設置し終えて、お2人にはお土産として前世の愛媛県の銘菓【トッチャン団子】一箱30本入りを二箱ずつお渡しした。翌日はリヴァイ様のお住いに転移してから港町クーレの防壁を設置していく事が決まった。
そして翌日、私がリヴァイ様のお住いに転移してお2人と一緒に港町クーレに出てみると……
「あの…… ファーヴニルさん、どうしてここに?」
何故か門の所でファーヴニルさんが立っていた。
「何でここにいるのかしら、ファーヴニル?」
リヴァイ様も警戒されてるようだ。イヨさんはあからさまにファーヴニルさんを無視している。
「はて、これは偶然ですな、リヴァイ様、イヨも。私は今日はリョージ殿の護衛として馳せ参じた次第でございます。何でも肉々しい料理を振る舞って頂けるとか小耳にはさみましたのでね。竜王陛下に進言をして参ったのですよ。ですので奥方様もイヨも今日は帰っていただいても大丈夫です」
どこから漏れたのだろう…… 私は必死に考える。今回の防壁を新たに建てる事を話したのは父上と母上、セバス、ケンゴ、サクラの五人だけだ。
この五人から漏れたとは考えたくない。
と、私がそこまで思考した時にリヴァイ様が答えを教えて下さった。
「また、あの人はっ!! 覗き見してたのねっ!!」
「奥方様、覗き見ではございません。加護を与えている人種を優しく見守っておられたのです」
なるほど、バハムル様の加護を得た私の行動は知ろうと思えばバハムル様に筒抜けになるのだな。私は一瞬でも五人を疑った事を心の中で謝罪した。
「フンッ、何が優しく見守ってるよっ! 私は知ってるのよ! 人種の人妻ばかりニヤニヤしながら覗いてたのをっ!!」
「あれはあの頃のバハムル様の中の流行りだったのでございます。あの頃は何しろ人妻というワードに興奮を覚えておられましたので…… ゴホンッ、子供の前でする話ではございませんでしたな…… まあという訳でございますので、どうぞお引き取りを」
いや、分かる、分かりますよバハムル様! 私も人妻というワードには甘美な官能の響きを前世では感じていたのだから…… しかしそれを今の年齢でリヴァイ様やイヨさんに知られる訳にはいかない。それに……
「いえ、あの、ファーヴニルさん。僕がお願いしてお2人に護衛をしていただいてますから、押しかけ護衛のファーヴニルさんがお引き取りいただくのがスジの通った話だと思うのですが……」
私はこういう時は物怖じせずにハッキリと言う。62回目の転生の時に、ハッキリと言わずに後悔する出来事があったからだ。なので63回目に転生して以降は何事も自分の思った事をハッキリと言うことにしているのだ。
その私の正論を聞いたファーヴニルさんは、
「何とっ!? では肉々しい料理を私は食べられないとっ!!!」
って驚愕している。いや、ひょっとして貴方、
そこに誰かが転移してきた。
「おーい、リョージ。余がついてやるから安心せよ。そのかわりウィスキーを樽で頼むぞ!」
バハムル様まで!!
「ちょっと! 何であんたまでっ!!!」
リヴァイ様がお怒りになっている。
「まあまあ、そう怒るな、我が妻よ。リョージにというよりソージに少し話もあるのでな。ついでにリョージの護衛をしようと思ったまでだ。護衛したら欲しい物を出してくれるんだろう?」
う〜ん…… その認識は間違ってはおられませんが…… しかし、竜種ってチョロいな、なんて内心で思っていることを隠し、私はもう来てしまっているのだからと、リヴァイ様に向けて言った。
「リヴァイ様、イヨさん。既にコチラに来られておりますし、バハムル様やファーヴニルさんも着いてきて下さるのなら父上や母上も更に安心される事となります。どうか、港町クーレの防壁を出す間は喧嘩をせずに着いてきてくださいませんか? (ここでコソッと)『もちろん、特別手当ならぬ特別甘味をお出しします』」
「ふっ、ふん! しょうがないわね、雇い主であるリョージがそう言うなら。ねっ、イヨ」
「さようでございますね、リヴァイ様。ワタクシもバカ親が居るのは不愉快ではありますが、リョージ様がそう言われるのであれば無理に納得いたしましょう」
という訳で結局、最強又は最恐の竜種4人に守られながら港町クーレの防壁を出す事になった。
サクサクと進む防壁出し。それもその筈である。私はファーヴニルさんに抱っこされているのだ。なので進むスピードが昨日の倍、いや3倍は早い。また、クーレは領都カランよりも狭いのもある。
なのであっという間に港町クーレの防壁は完成してしまった。
「よし、出来たな。では、ソージに会いに行くぞ」
と言うとバハムル様は我が家へと転移された。まだリヴァイ様とイヨさんに特別甘味をお渡ししていない!!
「バハムル様! 戻してください! リヴァイ様とイヨさんにお渡しするものが!?」
「ん? 心配するなリョージよ。あの2人なら既に来ているぞ」
というバハムル様の言葉通りにリヴァイ様とイヨさんも転移して来ていた。
ファーヴニルさんに抱っこされたままの私を見つけたセバスが飛んで来た。
「これは竜王様に海竜様、それにファーヴニル殿にイヨ殿! ようこそお越し下さいました。主に知らせて参りますのでどうぞ中に入ってお寛ぎ下さい!」
こんなに慌てているセバスを見たのは初めてだなと思いながら私はファーヴニルさんに下ろして下さいと頼む。
「ダメですぞ、リョージ殿。肉々しい料理をまだ頂いておりませんからな」
と、どうやらお渡しするまで私はこの状態らしい…… いや、ちゃんとお渡ししますよ、ファーヴニルさん。
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