第9話 領都の防壁を作ろう!

 私は急ぎで父上と母上の元に向かった。

 

 と言ってもひ弱な(実際にも)5歳児である。そんなに早く走れる訳ではない。それでも懸命に駆け続けて私は父上と母上が談笑している場所にたどり着いた。


「ハアハア、父上、ハアハア、母上、お、お話が、ハアハア、」


「まあ、リョーちゃん、少し深呼吸して呼吸を整えなさい。それじゃ酸欠になっちゃうわよ」


 天使な妹を抱いた母上がそう言ってくれたので私はその場で呼吸を整える為に深呼吸を繰り返した。


「はあ〜、落ち着きました。父上、母上、お話があるのです。領都とクーレの防壁の改善についてなんですが」


 私がそう言ってきりだすと父上が話を聞こうと言ってくれた。


「父上、取り敢えず裏庭に来て頂けますか?」


 私がそう誘うと母上も天使な妹を抱っこしたままついて来ると言う。妹も含めて4人で裏庭に向かう。裏庭に着いた私は父上と母上に少し離れていてくださいと頼み、先ずはどのようなものか理解して貰う為に中世の城とその周辺を作り込んだミニチュアを収納から取り出した。ミニチュアと言っても城下町まで作り込んでいるので、1辺が5メートルもの大きなものだ。


 私が出したミニチュアを父上や母上が興味深そうにジッと見ている。

 そこで私は父上に言う。


「父上、城を囲む壁をみて下さい。こんな感じでうちの領都と港町も同じように囲えば領民たちもより安心して暮らせると思うのです。こちらの防壁自体も直ぐに取り出せます。1部だけですがアチラに出してみますね」

 

 私は城の防壁の1部を実物大で裏庭に出した。


 それを見上げる父上と母上。そして、母上がおもむろに風魔法を唱えた。


「風斬!!」


 しかし防壁には傷一つついてない。それを見て父上が言う。


「これは漆喰とは違うようだが何だ? どれぐらいの強度があるのだ?」


 私は父上の疑問に答える。


「これは鉄筋コンクリートといってとても頑丈なものです。オーガが全力で殴っても壊れる事はないはずです。多分ですが、材料は領地でも取り揃える事が出来ます。今回は急ぎ作りたいので僕の収納から出すつもりですけど、僕が居なくなってもちゃんと作れるようにその作り方なんかも領民たちに伝えたいと思います」


 僕の答えに父上は、


「しかしそれではリョージが忙し過ぎる事になる。大丈夫なのか?」


 と僕の心配をしてくれる。僕は心配ないと父上に言う。


「領民の中から適正者を選び出し、教えてしまうまでの辛抱ですから、大丈夫ですよ」


「しかしだな、リョージはまだ5歳だ。同年代の子と遊ぶ事も大切な事なんだぞ」


 それならば私にも考えがあるのだ。前世の父に聞いた話だが、週に1日が完全な休みの日で、その前日は半ドンと言って昼までが仕事(又は学校)の日があったそうだ。うちの領地でもその習慣を作って領民たちの意識を変えてしまえば私も休みの日に遊べる。

 私は父上と母上にそう進言してみた。


「ほう! つちの日を半日仕事日にして、ようの日を完全な休日にするのか…… いいな、それ。アンナはどう思う?」


「そうねぇ…… でもそれを素材ハンターたちは嫌がるかも知れないわね。素材ハンターたちはその日の体調に合わせて休みを決めたりしてるから」


 その母上の言葉に私は補足説明を入れた。


「勿論です、母上。僕がいう休みの日の設定は職人さんや領都役所、クーレの役所出張所なんかで働く者、又はその設定した休みに賛同する者を対象とした考えなんです。素材ハンターや漁師、又は食堂を営んでいる者たちは自由に休みを決めて構いません。が、せめて周に1日はしっかりと休む事はうちの領地の取り決めにしても良いかと思うのです」


「さすが私のリョーちゃんだわ。そこまで考えていたのね。それならば反発も無いでしょうから良いと思うわ」


 母上からも了承を得られたので父上は早速とばかりに屋敷へと向かう事になった。


 私は私でサクラと共にケンゴの元へと向かう。勿論だが素材ギルドに向かう為とそこで職探しをしている若者たちからセメントを作る事に興味を持ってくれそうな者を探すためだ。


 ケンゴは領都やクーレで読み書きを教えているので顔が広い。きっと適正な人材を選んでくれるだろうと思う。


 素材ギルドについた私は依頼を出す。


「こんにちは。今日は依頼をお願いします。砂それもできるだけ細かい砂と少し粗めのものを各二トンずつと、」


 と言うと受付のおじさんに止められた。


「ちょっ、ちょっと待ってください、坊っちゃん! 二トンもですか? いったい何に使うのですか?」


 まだ途中なんだがな……


 仕方が無いので私は説明をした。そう、コンクリートの材料を素材ギルドを通して入手するつもりなのだ。今回の防壁は私が収納から出すのだが、私が寿命で亡くなった後にもちゃんと補修や新たに作れるように、素材から作り方まで伝えておこうと考えているからだ。まあ、そこは濁しておいたが私は新たな壁素材の材料となるんだとおじさんに説明をした。

 二トンというのは少なくはないが決して多い訳でもない。私の考えはギルドに依頼して集めた素材で作るコンクリートについては領民たちの為の倉庫や家に使用して貰おうと考えているのだ。

 勿論だが作ったコンクリートは売る事になるのでお金は頂く事になるが、初めにギルドに依頼した時点でうちのお金を使う事になるのでお金を領内で回すという事になるだけだ。

 それに、領民たちに払えない額で売る事はない。外部に売るときはたんまりと利益を頂くつもりだが。


 私の説明に納得したおじさんは依頼を受付けてくれた。


「それじゃあ、揃いましたらご連絡しますね」 


 その言葉を聞いてホッとしながら素材ギルドを出た私たち。

 次は学舎に向かう。


「リョージ様、15歳〜35歳ぐらいの男女問わずって事だが集まってくれてるはずだ。で、そのセメントってやつを作る者と、そのセメントを使って壁を作る者を2人ずつ選ぶんだな。でも俺はどっちもどんな作業か分からないから適正者を選ぶのは難しいぞ」


 そ、そう言えばそうだった…… そこで私は学舎に集まってくれた者たちを前にして実際にどのようや作業をするのか実物を使用して説明することにしたのだった。

 勿論だが少量でやったぞ。壁を作るには型枠もいるから少量で型枠ではなく積み木を利用して四角で囲いを作りそこにセメントを流し込む方法をとった。鉄筋は取り敢えずはその囲いの中に並べたが実際にはこの囲いで挟み込むんだとも伝える。


 セメントを作る作業については主な作業は石灰石を細かく砕く作業になる。後はねんどを乾燥させたりなどを説明していく。


 するとケンゴが選ぶことなく、その仕事をやってみたいという4人が都合よく決まった。

 セメント作りには、農家の次男ニサクと農家の次女ニメ。ニサクは18歳でニメは16歳。

 壁作りの型枠大工を目指すのは親が素材ハンターをしているが自分にはなれそうもないと、自分にできる仕事を探していたハルメという女子で15歳。手先が器用だから大丈夫だろうとケンゴも太鼓判を押す。

 セメントを水や砂と混ぜ合わせ、型枠に流し込む作業をするのは領都一の力持ち、だが心根が優しくてハンターをするのは難しいと言われてこれまた職探しをしていたキーチ、17歳だ。

 細かい点にも良く気がつくし丁寧な性格らしいので混ぜ合わせもしっかりと行ってくれるだろうと思う。

 4人は私が雇う事になり取り敢えず屋敷に来てもらう。


「今から見ることは親にも内緒にすると誓えるか?」


 領主である父上にそう言われて誓いますと答える4人。その答えを聞いて私は裏庭に4人が住むアパートを収納から取り出した。


 2階建てで全部で12部屋ある。中はちょっと一人暮らしには贅沢な2DKだ。

 私は一部屋に4人を案内して中の物を説明していく。

 それに着いてきた父上からは4人への説明の後に、屋敷の中にもあの部屋にあった便利グッズが欲しいとお強請りされてしまった……


 ちゃんと出したけどね。


 それから4人には素材ギルドに依頼した材料が揃うまでは、私が収納から出した材料でそれぞれ練習を重ねて貰う事にした。

 出来た習作は私の収納に入れるので失敗しても気にせずに練習して欲しいと伝えた。


 それから…… 恥ずかしいがこんなお願いもした。給金についてだが、実際にはまだ私の収納による収入は無い。なのでこのアパートに無償で住む事と、食事の材料を支給する事で給金の大半を賄うというお願いだ。足りない分を父上とセバスが何とかひねくり出してくれた銀貨2枚を給金として渡すと伝えたのだが、4人ともに軌道に乗ってセメントやセメントを使った建物が建つようになるまではここに住まわせてくれて、食材をくれるだけで良いですと言ってくれた。


 前世では見たことがない良い子たちだ!!


 翌日、私は木で出来た柵の外に立っていた。領都カランは港町クーレに向かう道以外はまだ草原や森に囲まれている。

 しかし私は柵から500メートル進んだ場所に遠慮なく防壁を出した。

 

 あっ、柵の外は危険な魔獣がいっぱいいるから私一人だと無謀だと思うかも知れないが、その点は心配いらない。


 リヴァイ様とイヨさんが隣にいるから。私は防壁を出すにあたって2人の元にいき、私が領都とクーレに防壁を出す間、私を魔獣から守って下さるなら、今月は毎日甘味をお持ちしますと言えば即答で良いわよとお返事を頂いたのだ。


「ついでに美味しい魔獣がいたなら狩って、ソージにあげるわ」


 との言葉通り、兎の魔獣や鹿の魔獣、はたまた牛の魔獣や豚の魔獣までリヴァイ様やイヨさんを恐れて近寄っても来ないのにわざわざ狩って下さったので、これは待って頂く間にも甘味をお出しする必要があると思った私はお2人にプリンやゼリーのおやつ系甘味をお出ししたのだった。

 

  

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