第8話 食の改善はお米の炊き方から

 バハムル様へのご挨拶も終えて屋敷に戻った私たち。そこで私もは自分の能力を確認してみた。


 すると……


 体力が585から685に増え、魔力も1,020から1,120に増えていた。どちらも100ずつアップしている。バハムル様の加護のお陰だろう。たかが100と言うなかれ! 100も上がるのは凄い事なのだ。


 しかも、嬉しい事にバハムル様の加護はレベルが1上がる事にまた体力、魔力が100増えるという事!?

 つまり、次にレベルアップしたら私の体力と魔力がまた100増えるのだ!!


 バハムル様! 有難うございます!! お酒は欠かさず納品致します!!


 さて、私も5歳になった事だし、バハムル様とリヴァイ様から加護も頂いた。なのでこれからは自重なく領地の発展を目指したいと思う。


 その決意だったのだが、父上と母上からはあまりにも目立ち過ぎるのは良くないと言われて、先ずは食の改善から少しずつやっていく事となった。


 そこで我が家の料理人であるテンゼンとハンニャに米を美味しく炊き上げるコツを伝える。今までは鍋で水をたっぷりはって煮ていただけなので、炊くという料理法を伝える事にしたのだ。

 幸いな事に我が国で栽培されている米は短粒種で直近の前世で食べていた米と似ていた。炊いた時の味も同じように美味しければ良いのだが。


 しかし、そこで私は炊飯器を使うか迷った。いきなりこれを世に出すのは父上と母上が危惧するように目立ち過ぎるかも知れない。なので私は羽釜を出す事にした。

 それとかまどもだ。これならばこの異世界に普及してもそれほど目立つ事は無いだろうと他の皆からもお墨付きをもらった。


 目立って私一人に何かあるのは構わないが、もしも目立つ事によって私の天使な妹に何かあってはいけないと考える事が出来たのは良かったと思う。

 私は妹を護るためならば自重しよう。それでも領民の人たちにも快適な生活を送ってもらいたいので、なるべく目立たないように領地発展に使用できそうな物を出していく事に決めた。


 私は前世ではその全ての記憶を持ったまま150回も輪廻転生をり返したのだ。危機回避の判断はこの世界でも有効だろうと思う。


 家の厨房にいきなり竈を出すのは勿論だが止めておいた。裏庭の外から見えない場所に竈屋を作り屋敷の厨房と繋げたのだ。厨房が裏庭側にあって良かった。


「テンゼン、ハンニャも良く見ててね」


 私はそう言って精米済みの米を研ぐ。この米研ぎは御厨陵司みくりやりょうじだった時にご飯炊きの名人と言われていた祖母に教えられたものだ。 


 私が米を研ぐのを真剣な表情で見守るテンゼンとハンニャ。1回目はさっと研ぎ、2回目は少し念入りに研ぐ。

 そして水を切り羽釜に入れてテンゼンに入れた米の上に手を置いて貰う。


「リョージ様、これは何を?」


 テンゼンがそう聞くので私は素直に教える。


「今からお米を煮るんじゃなくて炊いて貰うんだけど、その為に必要な水分量を計る為なんだ」


 そして続けて、


「僕の手じゃ小さくて正しく計れないから、テンゼンやハンニャのように大人の人の手で計る必要があるんだよ」


 と教えた。すると、ハンニャが私に言う。

 

「私と兄では手の大きさが違いますけどそれでも大丈夫なんですか?」


 フッフッフッ、大丈夫なんだよハンニャ。人の手の厚みは大人になれば女性も男性もそんなに大きな差は無いんだ。勿論、性別による厚みの違いはあるけれどもそこは誤差範囲なんだよ。

 だから気にしなくてもいいんだ。


「ハンニャ、テンゼンと手を合わせてみて?」


 私がそう言うとテンゼンは羽釜に入れてない左手をハンニャに向けて出す。ハンニャは少し嫌そうにしながらもその手に合わせた。


 そして、その手の厚みを私がこの世界の物差しで計ると……


「うそ? 兄と私で手の厚みが3ミリしか違わないなんて……」


 とハンニャがショックを受けていた。その3ミリは立派に誤差範囲内だ。私が祖母から聞いたのは5ミリまでなら大丈夫だという。ただ、明らかに細い場合は注意が必要だとも聞いた。  


 私はショックを受けてるハンニャに良く見ててねと言いながら羽釜に水を入れていく。テンゼンの手の甲が完全に隠れる前に水を入れるのを止めた。


「お米を煮るんじゃなくて炊く時はこの水分量が目安になるんだ。2人とも覚えてね」


 私が2人にそう言うと、テンゼンは自分の手の甲に水の上限部分を爪で線を引いた。血が出ないギリギリの強さで。そして、その部分の厚みを計る。


「うん、分かりました。リョージ様。米の上にこれだけの水分を入れると良いのですね」


 テンゼンの言葉に私は素直に頷いてから、注意をする。


「新しいお米、古いお米、その日の温度とか細かい事を言うとキリが無いけど、それらによって水分量が変わるから、それも教えておくね」


 私は祖母から教わった秘技を惜しみなく2人に伝えた。その説明に凡そ一時間。そして、説明を終えてから羽釜に火を入れていく。


「はじめちょろちょろなかぱっぱっー」


 私が祖母から学んだ呪文を唱えながら火入れするとテンゼンとハンニャも私に合わせて呪文を唱えだす。


 羽釜炊きの良いところは時短だ。何合だろうと凡そ四十分もあれば炊きあがる。さすがに二升にしょうだともう少し時間が必要だが。火力があれば二升でも時短可能だけど。


 竈だと火力の調整に経験がいるがそれも出来るだけ分かりやすくテンゼンとハンニャに伝える。 


「なるほど、このように火加減をすれば良いのですね」


 テンゼンが僕の言葉に頷き、ハンニャもしっかりとメモを取っていた。


 そして遂にご飯が炊きあがる。今回は港町で仕入れたブルービッグマウスフィッシュの塩焼きがオカズとなる。

 既にハンニャの手によって美味しく焼き上げられている。


 私は収納からおひつを取り出す。テンゼンがすかさず聞いてきた。


「リョージ様、それは?」


「これはね、炊きあがったお米、ご飯って呼ぶんだけど、そのご飯を更に美味しくする魔法の入れ物なんだ」


「リョージ様、その入れ物からは魔力は何も感じませんよ?」


 ハンニャが不思議そうにそう言う。百聞は一見に如かずだよ、ハンニャ。私は二人に先ずは炊きたて(蒸らし済み)ご飯をスプーンに乗せて食べてもらう。勿論だが私も味見する。

 うん、前世の米ほどではないがちゃんと甘みも旨味もある。これは品種改良すればいけるな。

 そしてテンゼンとハンニャは。


「こっ、これがホントに米ですか!? ただ煮ていた時よりも格段に美味くなっている!」


「こんなに、こんなに甘いんですねっ!? それにこの香り!!」


 どうやら普段から煮た米を食べていた二人には好評価を得られたようだ。

 それを聞きながら私はお櫃に炊きあがったご飯を移す。待つこと8分。

 再び二人に食べさすと。


「味がより美味く!?」

「弾力が〜っ!!!」


 フッフッフッ、これで二人には米の真の価値を分かって貰えただろうと思う。

 私は慣れている前世のお茶碗を収納から取り出してご飯を盛り、その上に箸で解した塩焼きの身を乗せて一緒にパクリ。


「う〜ん、幸せだーっ!!」


 私の食べ方を見てテンゼンとハンニャも更にご飯を盛り塩焼きの身を置いてスプーンで一緒にパクリとする。

 

「っ!!!!!」

「ふわわわーっ!!!!!」


「これは神の食事に違いない!!」

「いいえ兄さん! これは悪魔の食事よっ! もうこの炊くという技法を使ったお米しか食べたくないんだもの。煮たお米なんて食べられないわっ!!」


 フフフ、ハンニャ、そんな事を言っても良いのかな? 米は煮ても美味しく頂けるんだよ。


 その日から凡そ二ヶ月間、私は二人に米料理を叩き込んだ。時には現物を取り出して味見をさせて(例えば牛丼、焼き飯など)この世界の素材で再現出来るかを判断してもらったり、またご飯炊きの練習もさせたりしてもう私がついてなくても大丈夫だと判断したので、今度は二人に領都と港町クーレに2軒ずつある食堂の店主を我が家に来させて二人に伝えたものを教えるようにさせたのだった。

 羽釜と竈、及び必要ならば竈屋も用意するからとも忘れずに伝えるように言っておいた。


 やがては領都で炊いた米が話題となる筈である。そして、そのご飯を食べに海路を使ってくる人たちが…… それはまだ気が早いか……


 さて、次なる改善はどうしよう? 

 そうだ! 領都の防壁を作ろう! 作る際に今よりも外に作れば領都が広がる筈だ!


 よし、そうと決まれば父上と母上に相談しよう!


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