第7話 酒池肉林になった

「グッ、グヌゥ〜…… ホントに少しだけですよリョージ殿」


 言質はとった。私は内心ではニヤリと笑い、顔は子供らしい満面の笑みで返事をする。


「勿論です、ファーヴニルさん!」


 バハムル様も満面の笑みだ。私は出したお酒にケチをつけられぬ様に先ずはファーヴニルさんの前に焼き肉5種盛りを取り出して置いた。

 豚トロ、フランクフルト、ハラミ、カルビ、サーロインだ。各5つずつである。既に完璧に焼き上がり、タレを3種用意した。


「コチラのお肉はお好きなタレにつけてお召し上がり下さい」


 それから素早く他のみんなの前にも同じ物を取り出して置き、バハムル様の前にはキンキンに冷えた生ビール、赤ワイン、日本酒、ウィスキーの4つを置く。


「バハムル様、先ずはコチラのビールというお酒をお飲みになってみて下さい。エールとはまた違う喉越しだと思います」


「おう! リョージよ、コレは良く冷えてて美味しそうだな!」


 そう言うとバハムル様は一息に飲み干された。私はジョッキを回収し新たにもう1杯取り出して置く。


「プッハアーッ!? 美味い!! コレは初めてだーっ!!」


 勿論だがそっとさり気なく肉に夢中になっているファーヴニルさんの横にも置いて、リヴァイ様、イヨさん、父上の所にも生ビールを置いた。 


 サクラと私はまだ成人ではないので飲まない。今世の成人年齢は17才だ。

 

 父上はジョッキを手に飲み、飲み、飲み、そのまま勢いを殺さずに一気飲みをしていたので、ジョッキを回収して新しいのを出してあげた。

 イヨさんは一口飲んでから、お肉をパクリ、ビールをグビリと楽しんでいるようだ。

 リヴァイ様を見ると生ビールを一口飲まれた後はジョッキに手をつけておられない。


「リヴァイ様、こちらのお酒はお気に召しませんでしたか?」


 私は気になったので聞いてみた。


「うん。私はどっちかというとワインが好きなのよね」


 それを聞いた私は赤ワインを取り出す。8度ぐらいに冷やしてある赤ワインはフランスはボルドー産のちょっとお高いモノだ。前世ではボーナス日に自分へのご褒美として買っていた。


「それではリヴァイ様、コチラをお試し下さい」


 私がワイングラスに赤ワインを注ぐとリヴァイ様は香りを確認され、一口含まれてから


「美味しいわ! 有難うリョージ!」


 と満面の笑みで言ってくださった。


 その言葉にホッとした私はサクラと私用にオニギリを何個か取り出した。


「サクラ、オニギリをお肉と一緒に食べたら美味しいよ」


 大皿2枚に30個のオニギリを出すと父上やイヨさんも手を伸ばす。

 某おにぎり専門店の握りたてだから美味しい筈である。

 みんなの顔が綻んでいる。 


 そこからはそれぞれの酒癖が垣間見える事になった。


 バハムル様は豪快な笑い上戸。


 リヴァイ様は頬を赤く染めながらも上品に何時までも飲み続ける蟒蛇うわばみ


 イヨさんは無言になりアテと酒を交互に。


 父上は早々に酔いつぶれて寝てしまい……


 そして……


 ファーヴニルさんは泣き上戸だった……


「ぐすっ、聞いて下さいよ〜、リョージどの〜、バハムル様はこの前も攻めてきた魔族の奴らを生かして帰しちゃったんですよ〜…… ぐすっ、わ、私は後腐れないように縊り殺して魔王に死体を送るべきだって進言したのに、ち〜〜〜〜っとも私のいう事は聞いてくれないんですよ〜、ぐすっ」


 いやあの随分と物騒なお話ですね……


「ワーッハッハッハ、ま〜た始まったか! おいリョージ、心配するな! ファーヴニルが話してるのは300年前の話しだからな! 全く、人族と我ら竜族では時間の概念が違うという事を酒を飲むと忘れるんだからな」


 ああ、ファーヴニルさんの言う【この前】って300年も前の話しだったのか……

 それなら父上の治める領地は今は大丈夫なんだ。


「ワーッハッハッハ、まあ魔族どもも懲りずにまた何かを企んでるみたいだがなっ! まあ余に任せておけ。次はあ奴らの顔に絶対に消せないインクで大きくバカと書いてやるわ! ワーッハッハッハ!!」


 ぜ、絶対に消せないインクって、それにバカって書くって…… 何だか知らないけど来るだろう魔族の人に憐れみを覚えてしまったよ。


「何よ〜、あんたにだけおもちゃを渡したりしないからね。私だってあんたに負けずにこの地にやって来た魔族の背中に服を着ても浮かび上がるようにバカって書いてやるわよ!」


 リヴァイ様も横からそんな事を言っている。本当にご愁傷さまです、魔族の人。

 私は心の中で魔族の人の心情を思いやり思わず祈りを捧げた。この世界でバカっていうのは前世でいうバカと同じような意味なんだけど、前世よりもその言葉の意味は少しキツいみたいなんだ。


 曰く、今世でのバカは魔獣の【アルバカ】と同等の知性しかないって意味合いらしくて、【アルバカ】という魔獣は草食なんだけど自分が食べすぎて吐いて、体はもう草を食べるのを拒否するようになってもまだ草を食べてしまいまた吐いてを繰り返してやがて死に至るという魔獣らしいんだ。

 何のために生きてるのかって? 人種にとっては貴重な魔獣なんだよ。前世の羊毛よりも柔らかく、暖かい毛は布団やコートに使用されるんだ。

 で、食べてる時は何をやっても食べ続けるからそのまま麻痺状態にして連れ帰り家畜として飼育してるんだよ。食べ続けが始まったら麻痺状態にして飼育小屋に放り込むっていう荒業で死なないように飼育してるらしいけどね。余談が長すぎたね……


 魔族って言うけど見た目は普通の人種と変わらないらしいんだ。その魔力量の多さが半端ないのと寿命が人種の数倍はあるから魔族って呼ばれ出したらしいんだよね。今世の人種の平均寿命は男性が120年、女性が150年なんだけど、魔族は男性が350〜400年、女性が450〜500年齢はらしいよ。魔力量が多いと寿命が長いんだって。

 

 って事は今のままだと僕の寿命は…… うん、頑張って魔力量を増やそう。


 で、魔族の王はやっぱり魔王って言うけど人種や他の種族と仲が悪いわけじゃないんだって。ただ人種と同じで辺境に住む貴族階級の魔族がチョッカイをかけてくるって事らしいんだ。


 うちの領地にくる魔族の人はどうやら竜族にチョッカイをかけに来てるそうだよ。ただ、竜族からしてみたらただの魔力量が多いだけの人なんて脅威にはならないって事らしい。


 まあ、魔力量の多さから転移魔法を駆使して竜王であるバハムル様が居るこの山に300年前までは良く来てたらしい。何でもその魔族の貴族は飛竜を倒して今の魔王の王権を奪おうとしてるんだって。

 でもその貴族もそろそろ寿命が来てる筈だってバハムル様は笑って仰っている。だけどファーヴニルさんは、


「甘い! 甘いですぞ! 竜王様! あのバカの事ですから自分の子供たちに己の悲願という名のバカな願いを託している筈です! そのうちにバカ親に洗脳されたバカ息子たちがこの山に転移でやって来ますぞ!! 今度こそは素っ首を切り落として魔王に差し出してやりましょうぞ!!」


 って酔ってるからかかなり過激な言葉を泣きながら言ってるよ……

 そしてそのまま僕に向かって言う。


「リョージどの〜、もっと肉肉しい物はないのですか? 私はこの程度では満足いたしません! このままではバハムル様に酒を飲ます訳にはいきませんぞっ!!」


 いや、既にバハムル様はバカスカ呑んでらっしゃいますよ、ファーヴニルさん……

 絶対に酔って気づいてないですよね。まあその方が都合が良いので僕としては有難いですけど。そして僕は僕の考える究極の肉肉しい料理を出す。


 そう! ケバブだ!!

 

 それを切らずにドドーンとファーヴニルさんの目の前に特大銀皿に乗せて出してあげると……


「フオオーッ!! こ、これは!!! 肉肉しい!! 私が知るどんな肉料理よりも肉肉しい!!!」


 そりゃそうでしょ。肉の塊ですからね。本来はケバブって串焼き肉の総称らしいんだけど、僕の知るケバブは肉の塊を大きなナイフで削いで提供していた。だから、この肉塊なんだ。


 で、その大きな肉塊は僕としては皆で食べて貰おうと思って出したのに、そのままファーヴニルさんがかぶりついちゃったから……

 慌ててもう2本、肉塊を出したんだよ。


 言葉的には違うと思うけど、お酒も沢山あるし肉料理も沢山あるからこれが本当の【酒池肉林】だよね。


 ファーヴニルさんに至っては酔って肉塊にかぶりついて、で…… そのまま寝ちゃってるけど口は動いてケバブを食べ続けてるよ……


「ワーハッハッハッハッ!! ファーヴニルのこんな姿を見るのは実に1800年ぶりだ! リョージよ、よくやったぞ!! それにしてもリョージの出してくれる酒は美味いのばかりだな! 余はこのウィスキーとやらを気に入ったぞ!!」


 バハムル様は寝ながら肉塊にかぶりついてるファーヴニルさんを見て大笑いされながらもウィスキーが気に入ったって言って下さるから、僕は樽で3つだして差し上げたんだ。


「おおう! これは酒精が強いな! そのままでも美味いが少し薄める方が香りが引き立つな!」


 樽から直接注ぎ入れて飲んだバハムル様はそう仰って水で少し薄めて香りを楽しまれる。


「これは良い。実にいいぞ! ソージ、お前の息子は大したもんだ!」


 バハムル様は父上にもそう声をかけられ、僕にはひと月に一度、樽酒を二つ欲しいとお強請りしてきたので素直に頷いた。


 バハムル様もチョロいと思ったのはココだけの話にしておいてください……



 

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