第5話 チョロい海竜様
私たちを認識した絶世の美女が固まった……
そして……
「ソージ!! 来るなら来ると事前に連絡しろって言っておいた筈よ!」
とキれてしまった美女だが父上は慌てずに言葉を返した。
「海竜様、1週間前に手紙でご連絡した筈ですよ。また読まずにその辺に置いておられるんでしょう?」
父上がそう言った時に部屋の扉が開きメイド服を着た女性が入ってきた。こちらも美女だ。
「リヴァイ様、失礼ながら申し上げます。今週初めにワタクシが手ずからお渡しした1通のお手紙を後で読むと仰られてその文机の上に置かれましたのは覚えておいででしょうか? ワタクシはソージ様からのお手紙だとお伝えした筈でございますが?」
メイド服の美女からそう言われた絶世の美女はコメカミから冷や汗を垂らしている。実際に垂らす人を初めて見たよ。
「ギクッ!? そ、そういえばそんな事もあったかしらね…… ってイヨ! 私が読んでないのに気づいてたんならちゃんと読むように教えなさいよっ!?」
ギクッって口で言う人も初めて見たよ。
しかしリヴァイ様のその言葉に動じる事なくイヨと呼ばれたメイドさんは言葉を返した。
「僭越ながら申し上げます、リヴァイ様。ワタクシ、3日前に朝夕の2度それから2日前に就寝される前に1度、更に昨日は朝昼夕の3度、お読みにならないのですかとお声がけさせて頂きました。それでもお教えする回数が少ないのでしたらワタクシの落ち度でございます。罰は如何ようにもお受け致します」
いや、イヨさんに悪い所は何もないよね。思わず父上とサクラと共にジト目でリヴァイ様を見つめてしまう。
「なっ、何よ3人ともその目は? わ、私が悪いって言うのかしら?」
開き直りましたよリヴァイ様。父上とサクラはリヴァイ様から目を逸らしたけど私は遠慮なくコクコクと頷いておいた。
「ちょっ! 何よ! 失礼な子ね! どこの子よ? ってソージの子供なの?」
問われたので父上が返事をする前に私は言葉を発した。
「ソージ·ミクリャの嫡男でリョージと申します。以後、お見知りおきをよろしくお願いします、リヴァイ様」
私の挨拶にリヴァイ様の目が細まる。
「ふ〜ん…… そっか、創造神様のツバ付きなのねリョージ。それなら私の加護は必要ないでしょ、ソージ」
意地悪そうにそう言うとリヴァイ様は父上の方を見た。
「えっ!? リョージに創造神様の加護が!? 本当ですか? 本当なんですね。しかしそれで海竜様の加護を息子には頂けないのですか!? そ、それじゃ息子はこの海域を安全に通れない……」
父上が物凄く落ち込んでそう呟くとリヴァイ様が言った。
「あのねソージ、私の言う事を聞いてなかったの? あなたの息子は創造神様の加護を得ているのよ。そんな存在に敵対する私の眷族は居ないわよ」
その言葉にホッとする様子の父上。しかし次のイヨさんの言葉にまた落ち込んでしまった。
「ですがリヴァイ様、リヴァイ様の眷族でも低級の者たちはリョージ様の加護を見抜けないと思いますが? リヴァイ様から直接の加護を得ているソージ様たちやこの地に住む領民たちはその限りでは無いですが……」
ほう、なるほど。私には創造神様からの加護があるらしいが上位種の者ならばそれを分かってくれるが下位種の者では分からないのか…… 私は弱いから出来るだけ避けられる戦闘は避けたい。
なのでここはリヴァイ様の加護をなんとしても得たいと考えた。
「リヴァイ様、僕は父上や母上と違って非力なので避けられる戦闘は避けたいのです。何とかリヴァイ様の加護を授けて頂けないでしょうか? あ、それとこれは今回のお近づきの印としてお持ち致しました。よろしければご賞味ください」
言いながら私は収納から前世の世界的パティシエの作ったショートケーキ8種が入った箱をイヨさんに手渡した。
イヨさんは
因みに思考時は私という1人称だが言葉にする時は年齢相応に僕を使用している。
「何よ、イヨ? 中身は何なの? まあどうせつまらない物でしょうけど、せっかく持って来たのなら食べてみてあげるわ。お茶の用意をしてちょうだい」
「かしこまりましたリヴァイ様。1つは毒見の為にワタクシが食べさせて頂きます」
この場にはイヨさんを含めると5人。ケーキは8つある。3つはイヨさんの胃袋に消えるなと私は予見した。
箱を持って下がったイヨさんがワゴンにお茶の用意と私が持って来たケーキを乗せてやって来たのは20分後だった。ケーキの数は4つだ。
「何よイヨ、貴女にしては遅かったじゃない」
リヴァイ様はそう言いながらも目がケーキを捕らえている。
「はい。ワタクシにも未知の物でしたので慎重に毒見をして参りました。結果ですが大変美味でございました。天上の神々のお食べになるお菓子もかくやという程に……」
イヨさん、唇の左端にはチョコクリームが、右端には生クリームが【こんにちわ】してますよ……
イヨさんはそのままテーブルにケーキを並べ、お茶をセットしてリヴァイ様の後ろに控えた。
「ふ〜ん、イヨがそこまで言うなんて珍しいわね…… いいわ、このお菓子が美味しかったらリョージに加護を上げるわよ」
言うなりリヴァイ様はケーキをフォークで一口分とりパクリ。
固まること5秒……
「美味しいーっ!? 何これ、ナニコレーッ!!」
と叫ぶや残りを手が残像になるぐらい早く動かして食べきってしまった。そして空になったお皿を見て泣きそうになっている。
「も、もう無くなった……」
ここだと確信した私はリヴァイ様に言う。
「如何だったでしょうかリヴァイ様。僕のお土産はお気に召して頂けましたか?」
因みに父上とサクラも既にケーキを食べ終えている。私はまだ手を付けていない。
「ふっ、ふんっ! ま、まあまあね……」
強がっているな。ここで私はもう一押しする事に。
「実は僕は甘いものが苦手なので、加護を授けて頂けるなら僕の分として用意していただいたこちらのケーキをリヴァイ様に食べていただこうかと思うのですが……」
私が言い終わるやいなやリヴァイ様から一筋の光が私に向かって伸びて身体の中に入って消えた。
「私の最上級の加護を上げたわ。これでクラーケンでも、最下級のヒワシフィッシュでもあなたを攻撃する事は無いわよ」
勝った! 私はそう思いリヴァイ様に私に用意されていたザッハ·トルテを恭しく差し出したのだった。
そして、ダメ押しのお願いをする。
「リヴァイ様にお願いがございます。現在、我が領地の海域には他国の船が入ってこれなくなっておりますが、リヴァイ様のお力で我が領地に敵意を持たず純粋に商談や移住目的で来る船は通行を許可していただけないでしょうか?」
「えーっ、イヤよ。結界の術式を変えるのって結構メンドーなのよ、リョージ。この2つだけじゃ割に合わないわよ」
かかった! 私は勝利を確信した。
「リヴァイ様、もしも僕のお願いを聞いて下さるならば、月に3回は先ほどのようは珍しい甘味をイヨさんの分も含めてお渡し出来るのですが…… 勿論ですが聞いていただけるなら早速、本日1回目の甘味を置いて帰る所存です」
「イヨ! 直ぐに取り掛かるわよ! リョージ、それで今日の甘味は?」
フッ、勝ったな。私の作戦は完璧だったようだ。私は黙って2箱のケーキを取り出した。今回はタルト・タタンだ。ちゃんと約束通りイヨさんの分も手渡す。
リヴァイ様は黙って受取り中を確認され、ご自分の収納に入れられたようだ。どうやら海竜様クラスになると私のような収納を使用されるみたいだ。だが、地球産の物は入ってないだろうが……
イヨさんは何も言わずに中を確認する事なく収納に入れたようだ。イヨさんも収納持ちなのだな。
「リョージ様、リヴァイ様と2人で明後日までにはリョージ様の仰ったように結界を変更致します。それで、今月は残り25日ございます。次はいつ頃になりますでしょうか?」
今日がちょうど5日なので私は
「次は15日で3回目は25日にご用意致します。毎月、その日付(5日、15日、25日)でよろしいでしょうか?」
と聞いてみたらイヨさんがリヴァイ様を見ている。
「勿論、それで良いわリョージ。コレをあなたに渡しておくわ。何処に居てもこの腕輪に触れて魔力を10流せばこの部屋に直接これるから。決まった日にちに必ずあなたが持って来てちょうだい」
リヴァイ様がそう仰って私に腕輪を差し出されたので素直に受け取った。
「ソージ、あなたの息子は強くはないんでしょうけど
「はい、海竜様。有難うございます」
父上のその言葉によって私たちは気づくと祠に戻っていた。
「いや〜リョージ。まさか甘味で海竜様に要求を通すとはな…… お前は私やアンナと違って頭が良いのだなぁ。それに領地が発展していく事を考えてくれたのだろう? 陸路では中々来れないだろうが海路ならば来るかも知れないしな。で、あの甘味は例のアレなのか?」
祠内部ならば誰にも聞かれないから父上がそう確認してきたので
「そうです、父上。僕の収納内にある前世のお菓子です」
と正直に伝えた。そして、それらのレシピもあるので領内で人を探してそのレシピを伝えるつもりだとも言った。
「そうか。楽しみにしてるぞ。さて、それじゃ今度は竜王様に会いにいこうか」
祠を出てクーレの宿屋兼食事処で休んでいた馭者と共に竜王山脈へと向かう事になった私たち。
竜王様もリヴァイ様ぐらいチョロいと良いなあと私が思っていたのは内緒にしておいて欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます