第4話 最弱でした

 私は非力ながらもこの領地の発展に尽くそうと決意したので、先ずは自分の体力や魔力がどの程度の強さなのかを知る事にした。

 

 私はサクラに聞いた。私の幼児言葉を難なく理解してくれるのはサクラだけだからだ。


「えっ、リョージ様。私の能力値をお知りになりたいんですか? えっとですね私は体力が1,500で魔力が1,000です。まだまだ弱いです……」


 ちょっ、ちょっと待ってくれ! 私なんて体力8で魔力12だぞ…… なぜ6歳児とそんなに差があるのだ……


「あれ? リョージ様、どうしました? あっ、私があまりに貧弱なんでお付きとして相応しくないとか……」


「ちにゃう、ちにゃう!!(違う、違う!!)」


 私はサクラの言葉を慌てて否定した。そしてサクラに私の体力と魔力を告げた。


「えっ!? そ、そうなんですね…… リョージ様は神様から破格のスキルを授けられたのでご自身は弱くなってしまわれたのでしょうか…… いえ、ここは私の母様に聞いてみましょう。母様なら答えを知っている筈です!」


 そう言うとサクラは私の部屋を出ていった。10分後、エレーヌを連れて戻ってきたサクラ。


「リョージ様、体力が8に魔力が12って本当ですか?」


 エレーヌに聞かれて私は素直に頷く。するとエレーヌは考え込み始めた。


「ソージの体力は50,000近くで魔力も20,000を超えていた筈…… アンナは体力が35,000を超えてて魔力は65,000ぐらいはあった筈よ…… その2人の子供なんだからリョージ様も1歳とはいえ体力も魔力もせめて2,000は超えてないとおかしいんだけど……」


 エレーヌの独り言は容赦なく私の耳に届き心を穿った。もしかしたら私はあの父上と母上の本当の子供ではないのか?


「ふう〜…… でもスキルは破格すぎるし。リョージ様、2歳になって自由に動けるようになったら、うちの主人に体力を増やす訓練をさせますわ。よろしいですか?」


 それは願ってもない事だ。いくらなんでも私は弱すぎるだろうから、このまま成長に任せての増量では不味いだろうと思う。私はエレーヌにコクコクと頷いた。


「それと、今からでも出来るのは魔力の増量ですね。リョージ様、よろしかったら教えて下さい。魔法は何かを授かっておりますか?」


「しぇーかちゅ(生活)」


「生活魔法ですか…… でも何も無いよりかは良いでしょう。リョージ様、風の生活魔法や水の生活魔法は使えますか?」


 勿論だが使えるので私は頷く。


「サクラ、これからリョージ様が寝る前に風の生活魔法と水の生活魔法を魔力が無くなるまで使用して頂きます。風の生活魔法には特別な用意はいりませんが、水の生活魔法の場合は水を受ける物が必要です。確かうちに余ったバケツがあった筈です。それでリョージ様の水の生活魔法で出される水を受けなさい」


「はい、母様」


 こうしてこの日から私の魔力を増量する為に私は魔力が尽きるまで飲水と微風を交互に部屋で使う事になった。

 しかし…… エレーヌは私を様付けで呼ぶが父上と母上は呼び捨てって大丈夫なのか? 父上と母上が許しているならそれでも良いのだろうけど。


 半年後……


 私の魔力は増えた。確かに増えた。


 魔力12から魔力24になったのだ。半年で倍増したのだ。しかし……


可怪おかしいわ…… 今の時期ならばこの方法であれば半年もすれば魔力が200を超えても良い筈なのに……」


 エレーヌ曰くそうらしい……


 どうやら私はとことん弱いらしい。成長すらもままならないようだが、それでも少しでも高みを目指すべきだと思う。私はしっかりと自分の足で立って歩けるようになったので、午前中は庭で木刀を振る。ケンゴから木刀の振り方や体力増量のための運動を教わり、午後からはこれまで室内で出来なかった生活魔法を使用して体力と魔力が尽きるまで動く事にした。


 そうして更に半年が過ぎた。私は成長した。2歳になり、体力は65、魔力は102となった。聞けば平民の生まれたての赤ちゃんと同等の数値らしい。


 父上も母上も私の体力や魔力が低いことについては何も言わない。それよりも私が日々がんばって動いている事を褒めながら心配してくれている。


「リョージ、低いからってあまり気にしなくて良いんだぞ。この地ならばリョージを傷つける者なんて居ないんだからな、まあ魔獣は別だが……」


「そうよ、リョーちゃん。ちゃんと私たちがリョーちゃんを守るからね。魔獣に襲われても大丈夫よ。でもリョーちゃんが頑張りたいなら何も言わないわ」


 父上も母上もそう言って私の好きにさせてくれるのだ。なので少ししか上がらないからと腐ってしまう訳にはいかない。私は努力を重ねた。


 気がつけば私は5歳になっていた。因みに生活魔法については8つ全ての熟練度をカンストしている。

 体力は585となり、魔力は1,020まで成長してくれた。


 平民の3歳児並みらしいが…… それでもここまで上げる事が出来たのだ。これからも鍛錬は続けようと思う。今は魔力を常に使用する為に【筋増】を常時発動している。筋肉痛は【回復】で誤魔化しているのだ。 


 筋肉痛は【回復】では治らない事を知った時は絶望したが、熟練度が最高位に上がった事による恩恵なのか痛みが和らぐようになったのは助かった。


 そしてスキルが生えた。


 後天こうてんスキルと言うらしく、毎日木刀を振り、ケンゴからは他にも棒と槍を教わっていたのだが、【刀術】と【槍·棒術】というスキルが芽生えたのだ。


 熟練度はまだ2つとも2/10だがケンゴ曰く初級探索者ぐらいには扱えているとの事。

 これからも日々努力して熟練度のカンストを目指そうと思っている。


 恐らくは人類最弱である私だが、熟練度がカンストした【筋増】のお陰で5歳にして100キロの物を片手で持つ事が出来る。まあ、同じく【筋増】を使えるサクラは10歳にして片手で500キロを振り回せるのだが……


 私が8つ全ての生活魔法を使えると知った両親を含めた屋敷の者たちは、これぞまさしく神さまの恩恵だと唸っていた。


 体力や魔力が低くとも生きていく為の最低限の事を保証してくれる生活魔法を全て修得しているのは世界広しといえども私だけだろうとの事だった。

 そしてその事も世間には隠すようにと屋敷の者たちの共有の秘密とされた。


 うん、それはそれで何か嬉しい。まあそんなこんなで5歳となった私はいよいよ父上とサクラと共に海竜様と竜王様に会いに行く事となった。


 母上はお留守番である。なぜなら私に妹が産まれたからだ。妹は生後半年である。母上は普通の貴族ではない。元は庶民である。なので私もそうだったのだが妹も母上の母乳ですくすくと育っている。なので妹の世話をする為に母上には家に残っていただく事になったのだ。


 そしてこの妹が天使なのだ。生後半年になりそろそろ目も見えているだろう妹は父上と母上を見たら嬉しそうにニッコリとする。

 そして、私を見たら満面の笑みで声を上げて笑いその小さな手で私の差し出した指を握って遊ぶのだ。これには父上からの嫉妬が凄かったのだが、私にとっては妹は絶対に護るべき存在となったのは言うまでもない。


 これまで地球で150回も転生しその中では兄弟も居たのだが、今世の妹ほど私が護りたいと強く思った兄弟は初めての事である。


 なので私は最弱だからと嘆いている暇はないのだ。妹を護れる強さを必ず手に入れて見せると心に誓っていた。


 サクラが着いてきてくれるのはメイド長であるユリとメイドの先輩であるノゾミの推薦だった。


 サクラはメイド長のユリからメイド式戦闘術を学び、ノゾミから忍びの技を学んでいた。その実践経験を積む為に今回の同行が決まったそうだ。


 因みに10歳になったサクラは体力が3,800に魔力が5,200となったそうだ。順調に成長しているとケンゴが言ってたな…… それに比べて私は……


 いや、人と比べても意味が無い。私は私だ。これこらも努力を怠ることなく鍛えていくのだ。


 そんな事を考えていたら馬車が港町クーレに着いたようだ。父上が乗っている事をクーレの住民たちも知っているのか気さくに馬車に手を振ってくれている。


 港町とは言っても他所から船が来るわけでもないので前世でいう漁港の近くに漁師たちの家があるような感じだが。

 それでも住民たちの顔が笑顔なのが救いでもある。父上が善政を行っている証拠でもあるだろうと思う。


 馬車の馭者はカラムで雇った者だがここまでとても上手く馬車を操ってくれた。


「領主様、まもなく海竜様の祠に着きますぜ」


「有難う、エイク。これで酒場で飲みながら宿屋で待機してくれるか? 私たちが海竜様への挨拶が終われば今度は竜王様の祠まで乗せていって欲しいんだ」


「へい。分かりやした。御三方が出てくるまで宿屋で待機しておきやす」


 こうして私たちは海竜様の祠までやって来たのだった。


「さあリョージよ、祠に入り海竜様の元へと向かうぞ」


 父上が言うには祠の中にミクリャ家の者に反応する転移陣がありそれにより海竜様の元へと行けるそうだ。


 私は緊張しつつも父上に頷いてサクラと共に祠の中に入った。


 そして気がつけば豪奢な部屋の中に立っていたのだった。


 目の前には絶世の美女が優雅にソファーで寛いでいたのだが…… 寛ぎすぎじゃないだろうか?


 いやソファーに寝そべりお菓子をバリバリと音を立てて食べていらっしゃるから……


 


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