第3話 父と母は偉大
母上は父上に言われてその手にある紙を触り、そして父上とは違いちゃんと文字を読んでくれたようだ。
とてもビックリした顔で私を見ている。
「あの…… リョーちゃん、ここに書いてある事は本当なの?」
脳筋な母上らしくなくとても不安そうだな。ここは私の息子の収納、スゲーッとテンションを上げる所だと思っていたのだが……
私は母上の問いかけに首を縦に振って肯定した。
「ソージ…… ヤッパリ私の産んだ子は神童だったわっ!!」
一転していつものような言葉が母上から出てきたのだった。うん、母上はこうでないと。
そこからは父上と母上から質問攻めにあったが、いかんせん私は1歳児である。言葉が上手く使えないので返答に時間がかかる。
サクラという通訳を介して質問に答えていたが私のお腹も限界を迎えていた。
ググウ〜という大きな音が私のお腹から出て、母上がハッとする。
「ごめんなさい、リョーちゃん。お腹が空いたわよね」
そう言うと母上は質問を止めて先ずは食べましょうと言ってくれた。しかし父上は諦めきれずに私に話しかけようとした。
「ソージ、あなた…… 私のリョーちゃんを餓死させるつもりかしら?」
しかし母上のこの言葉とひと睨みで諦めてくれた。良かった、餓死するところだった。
私は離乳食を美味しく頂く。味付けは薄い塩味だがそれが私の未熟な舌には美味しく感じられる。スプーンで掬う重湯には前世でも食べた米が入っている。
この世界では米は家畜の餌と言われて人が食べる事が少ないそうだが、我が家は貧乏なのでその米を主食としている。小麦は高く売れるので農家からおさめられた小麦は隣の領地に売り、代わりに米を買って残りを領地に還元しているのだ。勿論だが領民たちには小麦全てをおさめて貰うのではなく、各自の家で食べる分は確保して貰っているので、領民でも米を食べている所は少ない。私のように小さな子がいる家は同じように重湯にしている家もあるようだが。
領民への還元としては小麦や素材を売ったお金で、街道整備や農機具の新調、猟具や漁具の新調などをしているらしい。
領主である父上からのこうした還元により数は少ないが領民たちはこの地を見捨てずに生活してくれている。
また母上からの提案により、我が領地では子供も大人も読み書きが出来るようにと前世でいう学習塾を無料で開いていた。
講師はセバス、ユリ、ケンゴ、ノゾミである。領民の数が少ないから出来る事であり、他領では無理だろうとは思う。
領都の人口は358人。港町の方は205人だ。よく他領から攻め込まれないものだと思うのだが、我が領地は山と海に挟まれていて、山頂には父上と母上2人でも手こずる飛竜や竜を500ほど率いた竜王がいる。
また海にも海竜がいて我が領民の漁船以外は沈めてしまうのだ。
何故か我が領地に住む領民たちには手出しをしてこないが…… その辺はまだ理由を教えて貰ってない。1歳児だから……
しかし、今日の手紙により父上も母上も私の事について認識を改めて下さる筈。なのでその理由なども教えてくれるだろうと思う。
食事を終えた私に父上が早速話しかけてきた。
「リョージ、頷くか違う場合は首を横に振ってくれるかい? 先ずはリョージの収納だけど既に前世の物が入っているから新たに収納する事は出来ないのか?」
私はそれについては首を横に振る。何故ならば容量に制限が無いからだ。これは確認済みである。
「フム…… 新たに収納する事は可能と。それで、どれぐらいの物が入るかは分かるか? 例えばこの部屋ぐらいの量とか?」
私は父上に首を振り
「いくちゅれもはいりゅます(いくつでも入ります)」
私の言葉をサクラが通訳してくれる。
「えっ!? いくつでもって? 容量に制限が無いって事か?」
父上の言葉に私は頷いた。母上は感極まったように叫んだ。
「ヤッパリ私の子は神童よーっ!!」
母上、凄いのは私ではなく神さまから授かった収納というスキルです。
それから屋敷の者が全て集められた。そこで父上と母上から私の授かったスキル収納について説明がなされたが、両親ともにこう言ってくれたのだ。
「リョージのスキルを使えば領地は発展していくだろう。けれどもリョージはまだ1歳だ。そんなリョージの力を目立つように使用すれば隣の領地のヒーメン伯爵やアワトク侯爵に目をつけられてしまう。領民や皆には苦労をかけるがせめてリョージが5歳になるまではリョージの収納の力は使わない事に決めた」
母上が続けて言う。
「ごめんなさいね、みんな。ホントはもっと快適に暮らしていきたいけど…… もう少しリョーちゃんが成長するまで待ってくれるかしら?」
父上と母上の言葉に執事長セバス、メイド長ユリ、メイドのノゾミ、サクラ、庭師のケンゴ、エレーヌ、料理人のテンゼン、ハンニャが笑顔で頷く。
「ソージ、アンナ、俺とお前たちの仲だ。何も言うな。リョージは俺にしてみれば可愛い甥っ子だよ。リョージを守る為にそうする事に反対するやつはここには居ないさ、なっセバスさん」
ケンゴがくだけた口調でそう言うとセバスも頷きながら
「旦那様、ケンゴの言う通りにございます。我ら一同は竜神様の加護をお持ちの旦那様、奥様に死ぬまで忠誠を誓った身でございます。リョージ様の収納については決して明かす事はございません」
そう言って皆を代表してまとめてくれた。
が、ちょっと待て。竜神様の加護って? 私の顔を見てちょっと困った顔をした父上と母上。しかし互いに顔を見合わせて頷く。
「リョージが1歳にしては賢い事は既に分かったからな。何故、この領地では竜王様や海竜様に襲われないか知っても良いだろう。けど、眠そうだから明日の朝にその話をしような」
と父上が言うと確かに私は眠気と戦っていたのだった……
そのままサクラに手を引かれて自室へと戻ると母上が清潔をかけ忘れた事も気づかずにベッドで深く眠ったのだった。
翌朝である。朝食の食卓にて私は父上と母上の探索者として活動していた時の話を教えて貰った。
エルグランド将軍国は代々霊峰であるフジヤーマに鎮座なされている竜神様を信仰している。
しかし、今の将軍様よりも2代前の将軍がやらかしたそうだ。
第6代将軍であるヤノブ·オーエドはあろう事か竜神様の巫女様を人質にとり竜神様にさらなる力を寄越せと迫ったそうなのだ。
勿論だがそんな事を許す竜神様ではない。ヤノブは即座に竜神様の天罰により【地】に召され、それでも怒りのおさまらない竜神様によりオーエド家には呪いがかけられてしまったそうだ。
現在の第8代将軍であるヨーシムネ·オーエド様は聡明な方で、このままではエルグランド将軍国が衰退してしまうと考えられ、呪われたその身をもって父上と母上、それにケンゴ、エレーヌ、テンゼンと共に霊峰フジヤーマへと向かったそうだ。
「まあそこで何とか竜神様のお赦しを得る事が出来てだな。将軍様に着いていった俺とアンナには加護を、ケンゴ、エレーヌ、テンゼンには祝福を頂いたのさ。で、その功績によってヨーシムネ様から子爵位とこの領地を賜ったんだ」
「この領地を選んだのは竜神様なのよ。竜神様の加護によって竜王山脈に住まう竜王様と
「まあ、心根の悪くない者でもこの地に住もうとする者は中々居ないから領民は増えないけどな。何しろ竜王山脈を越えるか海竜様の結界を越えるかしないと来れないからな、ハハハ」
凄い。父上も母上もケンゴやエレーヌ、テンゼンもまるで英雄ではないか。勿論だがヨーシムネ様もだ。
どのように話をして竜神様の赦しを得たのかは教えてくれなかったが、今世の私の両親がとても偉大な人たちだという事は分かった。まあいつか教えてくれるだろうし今は詳しく聞くのは止めておこうと思う。
「しゅぎょいです、とーたま、かーたま、みんな!(凄いです、父様、母様、みんな!)」
私の言葉にみんながニッコリと笑うが少しだけ照れている。
「いや、まあ昔の話だからな。それよりもリョージも5歳になったら竜王様と海竜様にご挨拶に行くぞ」
「そうね、お顔を見せてちゃんと覚えていただきましょうね。竜王様も海竜様もとてもお優しい方たちよ」
私はそれに頷いて答えながら、なぜ領民たちが攻撃されずに漁が出来たり山脈を無事に通行出来るのかを知ったのだった。
ウム、私も非力ながら頑張ってこの領地の発展に尽くそうと思う。その前に1歳児から早く脱しなければならないが……
こればっかりは時が過ぎるのを待つしかないな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます