第2話 秘密を語る

 私はまだ1歳だ。


 どうすれば父上や母上に秘密をなめらかに打ち明けられるのか。

 考えに考えた私は筆談だと思いついた。名案だ!!


 が…… 1歳児の手がそんなに器用に動く筈もなく…… あえなく断念したのだった……


 そこで私は気がついた。


「パンコンたたる!(パソコンがある!)」


 と、気付いたのは良いがそのすぐ後に文字列が違うから無理かとも気づく。気落ちしながらもダメ元でとパソコンを取り出してみたら……


「ちゅぎょい!(凄い!)、きょっきの文字ら!(こっちの文字だ!)」


 どうやら神さまが気を効かせてくれたようだ。私は意気揚々とプニプニの人差し指を使用して文章を打っていく。

 勿論だがプリンターも既にスタンバっている。


 打ち込んだ文章はこうだ。


【親愛なる父上、母上に申し上げます。私にはこの世界ではない場所で生きた記憶があります。それを証明するのはこの文とこの紙です。この世界にはない印刷機を使っているのは一目瞭然だと思います。そして、私が神様より授かった【収納】には私が生きていた世界の物が多数入っております。父上と母上がつつがなく領地を治める為に、私の収納内の物は出し惜しみする事なく利用しようと思っております。いきなりな話で混乱されるでしょうがどうか私を信じて下さい。  あなた方の愛の結晶リョージより】


 先ほども述べたが父上も母上も脳筋だ。そんな脳筋な2人には余り難しい言葉を並べる必要はない。コレぐらいの文章の方が信じてもらえる。


 父上も母上も夫婦揃って元探索者で、最上位の黒金級だったらしい。

 そんな父上と母上が貴族となったのは、エルグランド将軍家を悩ませていた竜神様の願いを叶えて和解してもらったからだそうだ。


 詳しい話をまだ聞いた事は無いが……

 

 執事長のセバスとメイド長のユリがそう話しているのを小耳に挟んだから間違いないだろう。


 我が領地(厳密に言えば父上の領地)は貧乏ではあるが、体裁を取り繕う為に執事長とメイド長、メイド2名、庭師とその家族3名、料理人2名は屋敷にちゃんと居る。


 とは言ってもセバスとユリ夫妻以外は探索者時代に面倒を見ていた後輩や仲間の連れ合いらしいが。


 私は文章を打ち終え、プリントした紙を再度読み直した。


「こりぇにゃら、らいしょうふ(これなら大丈夫)」


 私はパソコンとプリンターとプリントした紙を収納にしまった。

 今日の昼食時に父上と母上にプリントをお見せしよう。


 さて、それまで何をしようか?


 おお、そういえば技能を授かると自分の能力をることが出来ると教えられたな。

 チートは無いと聞いていたがそれでも期待してしまう。


 私は脳内で唱えた。『ステータス!』


名前∶リョージ·ミクリャ

性別∶男性

年齢∶1歳

種族∶人

称号∶転生流転者·流々の人

位階レベル∶01

体力∶8

魔力∶12

技能∶収納(特殊)

素養∶生活魔法


 えっ!? これだけ? というか体力8って高いのか低いのか? まあ1歳だからな。こんなものだろう。それよりも魔力だ。内心ではもっと3桁ぐらいあるかなぁって期待していたのだが……


 どうやら現実は厳しいらしい。生活魔法を調べてみよう。


【生活魔法】

火∶着火(必要魔力1) 熟練度0/10

水∶飲水(必要魔力1) 熟練度0/10

風∶微風(必要魔力2) 熟練度0/10

土∶土壁(必要魔力3) 熟練度0/10

光∶清潔(必要魔力2) 熟練度0/10

闇∶消気(必要魔力3) 熟練度0/10

無∶回復(必要魔力4) 熟練度0/10

性∶筋増(必要魔力5) 熟練度0/5


 なんと8つもある! これは嬉しいな。


 【着火】はその名の通り火をつける魔法だが、低い熟練度だと一瞬で消えてしまい、役に立つようになるのは熟練度2ぐらいからだと説明が書かれている。


 【飲水】も同じで熟練度2で凡そ100ミリリットルが出せるそうだ。熟練度が10になると2リットル出せるようになるらしい。


 【微風】も熟練度2で3分間だせるようになり、10だとドライヤーレベルの風力で30分間だせるらしい。


 【土壁】は熟練度2で高さ1メートル幅50センチ厚み5センチの壁が出せて、熟練度10では高さ3メートル幅5メートル厚み50センチになるらしい。


 【清潔】は低い熟練度でも効果があるそうだ。ただ、持続時間と効果範囲が変わるらしい。熟練度0だと服の手を当てた範囲だけらしい。効果時間は半日。熟練度がカンストすれば服だけでなく身体も清潔になるらしい。効果時間も丸3日。

 我が家には風呂が無いから急いでカンストを目指そうと思う。まあ、いつも母上が就寝前にかけてくれているが。


 【消気】は自分の気配を消す事が出来るそうだが、カンストしても上位魔法の隠密レベルにはとうてい及ばないとの事。それでも無いよりはあった方が良いのでこちらもカンストを目指して頑張ろう。


 【回復】は主に怪我からの回復らしいがカンストすれば簡単な病からも回復可能との事。そして、そこらにある毒性の低い毒からの回復も可能らしい。これも早めにカンストを目指そう。


 【筋増】は一時的に望んだ場所の筋肉を増量出来るらしい。カンストすれば身体全体の筋肉を増量可能。しかし見た目は変わらないそうだ。そして、翌日にはその反動により【必ず】筋肉痛になるという諸刃の剣でもあるらしい。けれどもイザという時の為にこれもカンストを目指そうと思う。


 これらの説明は神さまのサービスであるようだ。最後にこう書いてあったから分かったのだが。


『リョージくんへ 普通の現地人は8つの属性全ての生活魔法を取得出来ないけど、チート能力は授けられない代わりに君には全属性の生活魔法をプレゼントしておいた。有効活用してくれると嬉しい。

 リョージくんを天より見守る神さまより』


 うん。天から見守っていてくれ、名も知らぬ神さまよ。名前ぐらい聞いておけば良かったと反省しているが……


 調べていたら昼食の時間になったようだ。私付きとなったメイドのサクラが部屋にやって来たのだ。1歳児の私を1人だけで部屋に置き去りにしているのは基本的には様子を見に来た時に私は寝たフリを決めているからだ。

 良く寝ていると勘違いされ、また手のかからない子供だとも思われているフシがある。

 その方が私にとっても都合が良いのも事実である。


「さあ、リョージ様。ご当主様と奥様がお待ちです。食堂に参りましょうねぇ」


 サクラの年齢はメイド長のユリが言うには6歳らしい。何でそんなに幼いのにこの屋敷のメイドをしているのか。それはサクラの父母が庭師として我が家に雇われているからだ。サクラは自分も仕事がしたいと父上に頼み込み、私が産まれたのを見て私付きのメイドとして雇ったそうだ。勿論、メイド長のユリの厳しい教育にも耐えた。そんな根性があるとは思えない優しい顔つきのサクラだが、ユリ曰く天性のメイドだとお墨付きを与えたとの事。

 

 いつも私に優しく接してくれているので私はサクラが大好きである。

(当然であるが異性としてではなく、年齢に引っ張られるのか姉としてだ)


 サクラの父はケンゴと言い32歳。母は異国の出身でエレーヌという。年齢は知らない。

 ケンゴは植物魔法を使い庭師として働き、エレーヌはケンゴを手伝いながら錬金術師として薬草栽培や簡単な農園も我が家の庭で行っている。2人とも父上や母上と共に探索者だったそうだ。もっともサクラを身籠ったエレーヌは直ぐに引退したそうだが。


 もう1人のメイドであるノゾミは母上付きである。年齢は30歳ちょうど。未亡人らしく亡くなった旦那が父上と母上の探索者仲間だったとか。

 ノゾミ自身も忍びの術に精通しており、母上の護衛も兼ねているそうだ。私が知る限りでは母上に護衛は必要ないと思うのだが……


 厨房で働くテンゼンとハンニャは兄妹きょうだいで、父上や母上が組んでいた探索者チームの料理人兼雑用係をしていたとか。テンゼンは25歳でハンニャは19歳だ。


 さてそんな事をツラツラと考えながらサクラに手を引かれていたら食堂にたどり着いたようだ。


「おう、リョージ。やっと来たか。俺はもう腹が減って我慢の限界を迎えるところだったぞ」


「まあ、ソージ! なんて事を言うの! リョーちゃん、気にしなくて良いからね」


 ああ、そういえば父上の名前はソージである。ソージ·ミクリャ子爵だ。

 家では父上の言葉は崩れる。さすがに他の貴族が居る場ではそれなりの言葉遣いをしているが。


 私は黙って両親に遅れた謝罪として頭を下げ、サクラの手に私の打った文章がプリントされた紙を手渡した。


「リョージ様、コレは?」


 サクラがそう聞いてきたので


「チチうえとハハうえにおてまみ(父上と母上に渡してくれ)」


 そう伝えるとサクラの顔がパアッと明るくなり、父上の元に行き手紙を手渡してくれた。


「ご当主様、リョージ様からお手紙だそうです〜」


 サクラが嬉しそうにそう手渡すとさすがは父上である。


「うん? この紙は? こんな上等な紙が我が家にあったか? それにこの文字…… 全てが揃っていて…… アンナ、君も見てくれ」


 その前に読んで欲しいなぁと私は思っていた。何故ならば私もお腹が空いているからだ。


 早く食べたいなぁ……

 

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