第34話 馬車妖精と街のウワサ
カラン、コロンとお店のドアベルを鳴らしながら満腹のお腹をさする。
さすがビストロ・コロポックル、レベルの高い合格点を越えるお料理をオールウェイズ出してくれるわ。
「ごちそうさまでした。アップルパイとっても美味しかったです」
「また来るね」
「ありがとうございました~!」
この世界に来てまだそんなに経ってないけど、すっかり常連になってしまった。
昔は身体が弱くて外出もあんまり出来なかったから、お店でごはん食べるっていうのが楽しいのかも。
「……ベルベル」
「あ、やっぱりデュラちゃんだ。こんなとこでどうしたの?」
ホップちゃんに『お店の前にお馬の妖精さんがいる』と言われ、お店の横にある馬車の待機所を覗いてみると、そこには白馬のデュラハンこと、妖精のデュラちゃんが他の馬に混じって待機していた。
「……妖精魔法が使える人間、ベルベル。貴殿に興味がある」
「そ、それはどうも?」
貴殿って。わたし騎士とかじゃないんだけど。
「……王都から出る時は、我を呼んでくれ。貴殿の脚になろうぞ」
「あ、ありがとう……デュラちゃんって、そんなに饒舌に話せたのね」
「……さらばだ」
伝えたいことを言い終えたのか、デュラちゃんはフッと消えてしまった。
「ベルベルちゃん、デュラハンはなんて言ってたんだい?」
「えっと、この間の緊急クエストみたいに、王都の外に出ることがあったら馬車代わりになるから呼んでね~って言ってました」
「なるほど、ベルベルちゃん専属の騎馬ってことか……中々にクールな妖精だね」
そう言ってアサツキさんは笑った。
あ、あの子を馬車代わりに乗るにはちょっとまだ度胸が足りないかな。
__ __
「マスターさん、ただいまですー」
「マスター、サンベルクアップルのシードル頂戴~」
「おうベルベルさんおかえり。……アサツキ、お前は帰ったと思ったら酒のことばかり」
「いいじゃないか。今なら緊急クエストの報酬で財布のひもは緩んでるよ? ベルベルちゃんも飲むかい?」
「いやだからわたし未成年……」
あれ、でもこの世界ってお酒とかたばこの年齢制限ってあるのかしら。
まあ身体によくなさそうだし、20才になるまで飲まないでおこう。
「そういやお二人さん、ちょっと聞きたいんじゃが」
「ん、なんだい?」
「“白馬の戦乙女”についてなにか聞いておらんか?」
「白馬の……戦乙女?」
「なんだいそれは」
なんかちょっと、嫌な予感がするような。
「少し前に王国軍時代の知り合いが店に来とっての。そやつが話しておったんじゃが、二人が参加してた緊急クエストに白いケンタウロスのような馬に乗った、見慣れない拘束魔法を使う女性冒険者が活躍していたって城で噂になっておるらしい」
「へ、へえ……」
「は、初めて聞きましたね……」
「その女性冒険者を“白馬の戦乙女”と呼んでおって、王都の貴族連中が勇者候補としてスカウトするために情報を集めているそうじゃ。相変わらず上は魔物討伐に心血を注いでおるようじゃの」
うわあ……多分、おそらく、いや絶対わたしのことだわ。
それに白馬の戦乙女って……は、恥ずかしすぎる。
「白馬の戦乙女ねえ。ベルベルちゃん的にはどう思う?」
「わ、わたしはそうですねえ……色々あって冒険者として頑張っていると思うので、勇者候補とか、そういうのは興味ないんじゃないでしょうか……?」
「まあ、ボクもベルベルちゃんの意見と同じかな」
「そうじゃのう、おそらく旅の者じゃろうし、引き留めることはできなかろうよ」
まあ、実は旅の者じゃないのよね。
貴族の人には悪いけど、追い出されたところに戻るなんてあまりに癪だし、見つからないようにしばらく大人しくしていよう。
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