第33話 白馬の戦乙女



 ここは異世界ネオテイルにある、人間族が治める太陽の国、サンベルク王国。

この世界に蔓延る悪しき魔物、そして魔王アヴェスを倒すための勇者候補を育成する教育機関を有し、それは国王及び、国の領地を治める貴族たちの出資により運営されているという。

そんなサンベルク王国の王都ヘイリオスにある王城では、とある冒険者の少女についての噂が囁かれていた。



「……なに? 白馬の戦乙女?」



「ああ。先日、ヘイリオスの西門付近で発生したレッサードラゴンによるスタンピード討伐に参加していた女の冒険者の話でな。なんでも、白い馬のようなものに乗って戦い、見慣れない拘束魔法で次々に仕留めていったらしい」



「白い馬のようなもの? それはただの白馬ではないのか?」



「馬の上半身は鎧騎士になっていて、馬というよりはケンタウロスに近いと……それに、使っていた魔法も見慣れないもので、上位種のクリムゾン・レッサードラゴンにも効果を発揮していたそうだ」



「レッサードラゴン程度なら拘束魔法も通用すると思うが、上位種ともなるとかなり強力な拘束じゃないと解かれてしまうだろう。そんな魔法を使えるなら勇者候補として誰か見知っていてもおかしくはないのだが……魔女アサツキのように他国から来た者ではないのか?」



「入国記録を調べさせましたが、そのような魔法の使える上位ランクの冒険者はヒットしませんでした」



「うむ、そうか……この間、使えないスキルを持った女の召喚者を勇者候補から外したばかりで学園の空きもある。是非とも育成学園に迎え入れたいところだ」



「引き続き、情報収集に勤しんでくれたまえ」



「はっ!」



 ……。



 …………。



「やっぱりコロポックルのオムライス、最高~!」



「ふふ、それにかわいい妖精さんもいるしね」



「ウマイウマイ?」



 漁業ギルドからの依頼達成に加え、緊急クエスト参加の報酬も入ったわたしとアサツキさんは、クエスト達成祝いも兼ねてビストロ・コロポックルにごはんを食べに来ていた。



「お待たせしました~! こちらサンベルクアップルを使ったコロポックル特製のアップルパイになりま~す!」



「ホップちゃんありがとう! わあ、すっごい美味しそう!」



「サンベルクアップルはこの国の名産品なの! 少し強めの酸味と上品な甘みが特徴で、そのまま食べるとちょっと酸っぱいけど、ジャムやパイにすると最高なのよ!」



 ホップちゃんの説明を聞きながらひとくち頬張ると、サクサクのパイ生地に甘酸っぱくてトロトロのリンゴ、そして爽やかなシナモンの香りが絶妙なコラボレーションで……って、わたしあんまり食レポとか出来ないのよね。とにかくすっごく美味しかった。



「ボクはサンベルクアップルのシードルも好きだよ」



「シードルってなんですか?」



「リンゴで作ったお酒のことさ」



「アサツキさん、お酒好きですもんね」



「そんなことを言ってたらシードルが飲みたくなってきた。よし、今夜はマスターの酒場で飲み明かそう」



 アサツキさんが宿屋の酒場で飲み明かしてるのはいつもな気がするけど……



「そういえばベルベルさん、アサツキさん、知ってたらでいいんですけど……」



「ん、なあに?」



「お店の横にいるお馬の妖精さんってお二人のお友達ですか?」



「ウマウマ?」



「「え゛っ!?」」



 二人してバッと店の窓から通りを覗くと、そこにはいかにも『食事中の主を待ってまーす』という感じのデュラちゃんが他の馬車の馬に交じって佇んでいた。

ああ、ものすごく道行く人にチラチラ見られてる……



「デュラちゃん!? な、なんで? クエストの後、西門の前で分かれたはずですけど……」



「こっそりベルベルちゃんに付いてきたんじゃない?」



「ウチ、あんな妖精さん初めて見ました。かっこいいな~!」



「どうしましょう? 多分あの子、わたしを待ってるんですよね……」



「なあに、ベルベルちゃんなら大丈夫さ。妖精と仲良くなるのは君の得意技だろう?」



「そ、そうですね。ごはんを食べたら、ちょっとお話ししてみます」



 こうしてわたしは異世界で少しずつ妖精さん達と仲良くなり、わたしを見限った貴族達から探されている事にも気づかず、マイペースに冒険者ライフを楽しむのであった。



「おや? ベルベルちゃん、アップルパイほとんど一人で食べちゃったんだね」



「い、いま太ってるって言いましたか!?」



「言ってないよ」

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