第35話 今後の目的地
「白馬の戦乙女、かあ……」
「まるで国の英雄みたいな呼ばれ方じゃないか」
「やめてくださいアサツキさん。普通に恥ずかしいんですから。それに……」
「勇者候補にスカウト、どうするんだい?」
「絶対嫌です」
マスターさんに聞いた話によると、この間発生した緊急クエストで、デュラちゃんに乗って妖精魔法を使うわたしが冒険者の間でちょっとした噂になっていて、その活躍を耳にした王国の貴族の人たちが、なんとか勇者候補としてスカウトできないかと情報を集めているらしい。
今のところは謎の女性冒険者って扱いらしいけど。いやあ、写真とか撮られてなくて良かった……
「そもそも、白馬の戦乙女の正体がわたしだと判明したらどうするんでしょう。一回勇者候補から外して追い出してるのに」
「お貴族様の考えだと、勇者候補になるのは誇らしいことだから喜んで戻って来るって思ってるんじゃない?」
「う……そういう考え方もちょっと、嫌」
まあ、本来ならこの世界に勇者候補として召喚されたわたしがそのまま勇者候補に戻るだけなんだから、自然ではある。
でもね、わたしはもう自由な冒険者の楽しさを知ってしまったの。
ごめん、勇者候補には戻れません。わたしは今、シンガポール……じゃなくて、金の糸車にいます。
「しかし、それなら尚更これからどうするかよく考えなくちゃだね」
「これから、ですか?」
「このままヘイリオスで冒険者を続けていたら、いずれベルベルちゃんが白馬の戦乙女だってことがバレると思うよ」
「た、確かに……」
この間みたいな討伐系のクエストを受けるなら、妖精魔法を使う場面が多くなる。
それに、デュラちゃんも神出鬼没だから一緒にいる所を見られてしまうかもしれない。
なんなら今日とかもちょっとお話ししちゃったし。
「ど、どうしましょう。この国から脱出したほうがいいかしら」
「おそらく、王都であるヘイリオスでしかまだ噂は広まってないはずだから、今すぐにサンベルク王国を出る必要まではないと思うけどね」
わたしが今いるのはサンベルク王国の王都ヘイリオス。王国の中には、他にも小さい町や村も点在している。
王都から出てしまえば、わたしのことを知っている人もいなくなるし、貴族の人もそこまで探しには来ないだろう……来ないよね?
「ふむ、ねえベルベルちゃん、この間のクエスト報酬で貰ったお金はまだ残ってる?」
「そうですねえ……結構残ってますね」
ダックフロッグ討伐は低ランククエストなのでそんなにだったけど、緊急クエストのレッサードラゴン討伐で貰ったお金がかなり多くて、あまり使う機会も無いのでしばらくは遊んで暮らせるくらいのお金が残っている。
「それじゃあベルベルちゃん、ボクと一緒に“魔女の街”にいこっか」
「あ、はい。魔女の……魔女の街?」
……魔女の街? パン屋さんに居候して宅急便やってる女の子でも住んでるのかしら。
「サンベルク王国の西に“ビャクヤ”という、魔法使いが多く住んでいる街があってね。『サンベルクに来たなら少し顔を出せ』と知り合いにせっつかれてて」
「でもわたし、魔法使いじゃないんですけど……」
「何言ってるんだいベルベルちゃん。君はこの国唯一、いやこの世界唯一の妖精魔法の使い手かもしれないんだよ。魔法使いじゃなくてなんなんだい」
「ま、まあ……そういわれると、そうなのかな?」
なんかちょっとうまく乗せられてるような気もするけど……魔女の街かあ。いかにもファンタジーっぽくてちょっと興味あるかも。
「ビャクヤの街からさらに西へ行くと隣国の『レイキュリー中立国』だ。あそこは中立国らしく、複数の信仰を受け入れている。妖精王の教会もあるよ」
「ビャクヤの街いいですね~! 是非行きましょう! いや~魔女の街、楽しみだな~!」
「ベルベルちゃんって、妖精が絡むと……」
「なんですか?」
「いやなんでもないよ」
そんな感じで、魔女の街ビャクヤに行くことになりました。
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