第3話 異世界召喚



 パアアアアアアア……



「あれ、ここは……?」



 勇者候補となり、スキルも無事に貰えることになったわたしは、女神ミミエリ様と妖精王のマカマカ様に送り出され、どこで〇ドアみたいな扉の奥に進んで……それからどうなったのかしら?

ふと気が付いて周りを見渡すと、そこは白を基調とした、まるで大理石で造られたかのような模様が入った美しい建物だった。

建物というか、まるで古代ローマの遺跡みたい。



「おお、最後の候補者様が召喚なされた……!」



「候補者様って、わたしのこと?」



「おっと失礼、私はこの『勇者召喚の間』を管理する者。あなた様は女神ミミエリ様に導かれ召喚された、異界の勇者候補様でいらっしゃいますよね?」



「ええ、多分そうです。ミミエリ様にお願いされて、ここに来ました」



「それは良かった。いやあ稀にですね、召喚の儀の際に、女神様が関与していない、全然関係のない者が運悪く召喚されてしまうことがありまして」



 それは儀式としてどうなのかしら……もうちょっと改良したほうが良い気がするけど。



「えーそれでは勇者候補様、召喚の際に女神様から軽く説明があったとは思いますが、改めて今回の召喚につきまして説明を……あ、その前にお名前を聞いてもよろしいですか?」



「ベルベルと申します」



「ベルベル様ですね。異界の召喚者にしては随分と面白いお名前……ああ冗談です冗談です!! 殺さないで!!」



「そんなことしませんよ」



 失礼しちゃうわ。過去にそんな怒りっぽい方でもいたのかしら。



「こほん。それではちゃちゃっと説明しちゃいますね。まずベルベル様が召喚されたこの世界は『ネオテイル』と言います。そしてここは、ネオテイルにある『サンベルク王国』という国になります」



「サンベルク王国……」



 なんかちょっとだけ地元にあったスーパーに名前が似てるわね。



「ベルベル様には、このサンベルク王国で勇者候補としてのご活躍を期待しております。勇者候補のお役目は、王国に出没する魔物を討伐し、国民を脅威から守ること、そして元凶である『魔王アヴェス』を倒すこと」



「魔王、アヴェス……」



「細かく言うと他にもありますが、まあ主なお役目は魔物退治ですね。まずは国が運営する『勇者育成学園』に入って、この世界や国の事、戦いの基礎や、魔法の知識なんかを学んでいただきます」



「魔法の知識!」



 魔物退治はあまり自信が無いけど、魔法は色々学んでみたいわ。

それにしても、妖精さんは一体どこにいるのかしら? スキルを試してみたいのだけれど。



「今回の『召喚の儀』により、こちらに来ていただいた勇者候補様はベルベル様を入れて3名。他の2名は既に召喚されており、謁見の間で待機しております。ベルベル様、まずは謁見の間に向かってください。あ、これ勇者候補証明バッジです」



「あ、どうも」



 太陽の下に剣が交差したマークのギラギラしたバッジを受け取る。うーん、あんまり可愛くない。



「あの、場所って……」



「謁見の間はここを出て、突き当りを右に行った奥です。一応簡単な案内図渡しときますね。それではベルベル様、本日より新たな人生の始まりです! いってらっしゃいませ!」



「は、はい。行ってきます」



 なんかこの人、勇者候補を送り出すのに手馴れてる気がする……アルバイトの教育係みたい。やったことないけど。



「それにしても、なんだか身体が軽いわ! 本当に健康的になって生まれ変わった気分!」



 これだけでも召喚されてきて良かったかも。今ならなんでもできそうな気分。



「よーし、魔物でも魔王でもかかってきなさい! 謁見の間まで、全速前進~!!」



 __ __



「ぜえ……ぜえ……あ、無理……しにそう……」



 病気が治り、健康的な身体を手に入れたからといっても、今まで運動してなかった事実は変わらず。



「ぜえ……ぜえ……つ、突き当り、まだかしら……? ちょっと、廊下が長すぎるんじゃないの……? 」



 筋力も体力もほぼゼロのインドア女なわたしには、いきなり異世界ではしゃぐのは荷が重すぎたようだ。

しかも今の恰好、病院で手術するときの患者衣にスリッパのままだし。

これで走るのは肉体的にも精神的にもしんどすぎる。



「ちょ、ちょっと休憩……ふう」



 もしかしてこの長い廊下も勇者候補の試練なのかしら。そうならわたしはもう不合格間違いなしね。



「はあ。いくら歩いても疲れない魔法の靴でもないかしら……あら?」



 てくてくてく。てくてくてく。



「な、なに? 人もいないのに足音が……足音?」



 今この通路にいるのはわたしだけだ。誰かこちらに向かって歩いてきているのかしら?

それにしても、てくてくてくって、まるで擬音そのまんまのような足音ね。



 てくてくてく。てくてくてく。



「んん? 奥からなにか……あれって、く、靴?」



 通路の奥から一足の革靴がこちらに近づいてくる。そう……靴だけ。ま、まさか、幽霊……!?



「てくてくてく」



「口で言ってるんかい」

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