第2話 妖精王の承諾
「妖精との意思疎通スキル、ですか……」
異世界ネオテイルへの召喚に応じた勇者候補に、女神ミミエリが授けてくれる特別なスキルとして『妖精さんとおはなしできる能力』をお願いしたわたし。
何度かミミエリ様に『え、本当にそれで良いのですか……?』と念を押されたけど、異世界に妖精さんがいると知ったらもうこれしか考えられなかった。
「ベル、あなたが望んだスキル……仮に『フェアリー・テレパス』としますが」
「そういう技名っぽい感じで言われるとなんだかちょっと恥ずかしいわね」
「『妖精さんとおはなしできる能力』だとふわっとしすぎでしょう……とにかく、そのスキルをあなたに授けること自体は可能です。それが勇者候補として役立つかどうかは分かりませんが」
「本当ですか!? やった~!」
わたしはおとぎ話やファンタジー小説をよく読むのだけれど、その中でも妖精さんが出てくる物語が大好きなの。
俗に言うメルヘンとかフェアリーテイルってやつね。
ティンカーベルみたいなザ・妖精さんって感じの子から、ケルトのデュラハンみたいなちょっと怖い子、日本の昔ばなしに出てくる妖怪系まで、なんでも大好き。
何考えてるのかよく分からないところとか、人とは違う価値観で生きてそうなところとか、ちょっと憧れちゃう。
「ただし、このスキルを授ける前にひとつやらなければならない事があります」
「やらなければならないこと?」
「これからベルが行く世界『ネオテイル』に暮らす妖精たちの長、『妖精王』から許可をいただく事です」
__ __
「へ~ここが異世界なのね! まるでテーマパークに来たみたい! テンション上がりますね~!」
「いえ、ここはネオテイルじゃないですよ」
「あっ違うんですね。思い切りはしゃいでしまったわ……は、はずかしい」
ミミエリ様に『少し目を閉じていてください』と言われて目を瞑り、次に目を開けたときにはさっきまでいた真っ白な異空間ではなく、なんだか遊園地のような雰囲気の不思議な場所だった。
「ここは妖精王に会う場合に使用する、応接の間みたいなものです」
「なんだかとってもファンシーな応接室なんですね」
「妖精王はこういった雰囲気の場所を好みますので。他の方を招くときはそれぞれに合った応接の間があります」
女神様が招く『他の方』って誰だろう? 他の世界の神様とかかしら。
「ここはとってもメルヘンな雰囲気でかわいい所で良いですね。わたしも気にいっちゃった」
病気がちで遊園地とかも中々行けなかったから、こういう場所には結構憧れる。
なんなら異世界じゃなくてここで暮らしたいくらい。
「いいよね~ここ。きみは見る目があるね~」
「あ、分かります~? ……って、うわっ! びっくりした!」
近くにあったコーヒーカップの乗り物みたいなのを眺めてたら、中から急に声が聞こえた。
「あら、ここにいたんですね。マカマカさん」
「マカマカさん?」
「はじめましてお嬢さん、ボクはマカマカ。職業は妖精王だよ~」
「あ、あなたが妖精王の……マカマカ様?」
コーヒーカップから出てきたのは、手のひらに乗るくらいの小さなウサギのぬいぐるみだった。
タキシードとシルクハットを身に着けていて、まるでマジシャンみたい。
しかも手に持っている風船で宙に浮いている。
「か、かわいい……!!」
「マカマカさん、実はこの子がネオテイルに召喚される際に求めたスキルが『妖精さんとおはなしできる能力』だったので、スキルを生成する前に妖精王であるあなたの許可を……」
「いいよー」
「大丈夫みたいです。良かったですね」
「あ、そんな軽い感じなんですね」
なにはともあれ、これで妖精さんとお話しできるようになるのね。
というか、今も妖精王様とお話ししているのだけれど。
「ボクらと話せる能力を欲しがるなんて、随分と面白い子だねー。お嬢さん、お名前はー?」
「わたしはベル。夜道鈴です」
「なるほど、ベルっていうのかー。質素な名前だねえー」
「えっ?」
「よーし、今から君の名前は『ベルベル』にしよう。いいかい、ベルベルだかんねー」
「ベ、ベルベル……?」
急に何故か名前を倍にされてしまった。
逆ジ○リね……やっぱ妖精さんって何考えてるのかわからない。
「マカマカさん、さすがにそれはちょっと」
「えー、良いと思うけどなーベルベル。ネオテイルの妖精さんにも懐かれるよ」
「そうなんですか?」
「まあたしかに、妖精の皆さんは繰り返しの言葉が好きですから。でも人の名前としては……」
「分かりました! わたし、今日からベルベルでいきます!」
「ええ……本当に良いんですか?」
「はい!」
妖精さんに好かれるなら願ったり叶ったりだ。
それにベルベルってなんだか可愛い響きでちょっと気に入っちゃった。
漢字にすると鈴鈴……いや鈴々? なんだかパンダみたいね。
「それでは夜道鈴あらため、ベルベル。あなたにスキルを授け、ネオテイルに召喚します。あのー、本当の本当に良いんですね? スキルとか名前とか諸々」
「大丈夫です!」
お父さんお母さんごめんなさい。
せっかく付けてくれた名前が今日から倍になります。
「ベルベル、ネオテイルに行ったら妖精さん達と仲良くしてあげてねー」
「こちらこそです!」
こうして、病弱で死にかけだったわたしは、異世界『ネオテイル』で勇者候補として第二の人生を歩むことになるのであった。
たくさんの妖精さんと出会えると良いな。
魔王討伐は……まあやれる範囲でがんばりましょう。
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