第4話 妖精の履き心地



「てくてくてくてく」



「靴が、しゃべってる……」



 いきなり現れた喋る靴は、わたしの前を通り過ぎ……あ、戻ってきた。



「きゅーけいちゅ?」



「きゅーけいちゅ……休憩中かしら? ええ、そうよ」



 あ、もしかしてこれもうスキル発動してる?

これがわたしのスキル『フェアリー・テレパス』、妖精さんとお話しできる能力なのかしら。



「あなたは、妖精さんなの? 靴の妖精?」



「おさんぽのよーせい」



「そう、おさんぽの妖精……おさんぽの妖精ってなに?」



 なんだかトトロに出てきそうな子ね。



「れっつトコトコ?」



「えーと、なんだろ……『一緒におさんぽしない?』かしら。じゃあ、ちょっとだけね」



 もう少し休んでいたいけど、妖精さんのお願いなら叶えてあげましょう。

それにしても、妖精さんの喋り方はなんというか、言葉を覚えたての子供っぽいというか……聞き取れても理解するのが難しいわね。



「わたし、謁見の間ってところに向かってるんだけど、そっち方面でも良いかしら?」



「おっけートコトコ」



 __ __



「うわぁ~とっても軽やか! すごいすごい!」



 てくてくてくてく。わたしは妖精さんと一緒に軽やかな足取りで通路を進んでいく。そう、文字通り妖精さんと一緒に。



「どんなかんじ?」



「もうね、不思議なくらい足にフィットして良い感じ! それに軽くて歩きやすいわ! 履き心地バツグンね!」



 妖精さんの言う『一緒におさんぽ』というのは、自分自身をわたしに履いてもらって歩く、というものだった。良いのかしらこれで。

妖精さんの見た目は可愛らしい茶褐色の革靴だ。何故かわたしの足にピッタリのサイズで、靴擦れにもならない。

まるで雲の上を歩いているかのようなふわっとした歩き心地だ。



「さっきまで疲れて足が棒のようだったのに、今ならどこまでも歩いていけそうだわ」



 まあ謁見の間まで行くだけなんだけど。



「あ、突き当りだわ。ここを右に行って……あった! 謁見の間!」



 勇者召喚の間からここまで長かったわね。わたしの体力が無いだけかもしれないけど。



「妖精さん、わたしはこれから謁見の間に行かないと行けないんだけど……」



「れっつトコトコ」



「え、一緒に行ってくれるの? わたしは嬉しいけど……」



 今病院スリッパしか持ってないし。



「それじゃあいきましょうか。ちょっと緊張するわね」



 突き当りの先、謁見の間まで近づくと、扉の前に立っていた兵士らしき人に声をかけられる。



「ちょっと君、この先は……いや、その不思議な恰好は……もしかして召喚された勇者候補様ですか?」



「あ、はいそうです。これ、召喚の間の管理者さんに貰った証明バッジです」



「お待ちしておりました。その服装ではなんですから……おい、そこの者。この方は勇者候補様だ。衣装の準備をお願いする」



「承知いたしました。ささ、こちらへどうぞ」



「あ、はい……」



 近くにいたメイドさんっぽい人に連れられて、謁見の間とは違う部屋へ。どうやら服を着替えさせてくれるらしい。

さすがに病院の患者衣はちょっと恥ずかしかったのでありがたい。



 …………。



「はい、これで完成です! いかがですか?」



「わあ……すっごくかわいい」



 鏡の向こうのわたしは、フワッとした甘ロリチックなワンピースに、魔法使いみたいなローブを羽織っている。

前の世界でこんな格好をしてたら絶対浮いちゃってただろうけど、今はなんというか、ゲームの主人公にでもなった気分だ。

ちょっと恥ずかしいけど、気分は高揚している。



「靴の方は……あら、その子って妖精さんですか?」



「ええ、そうです。知ってるんですか?」



「たまにお城の通路で見かけます。でもまさか妖精さんを履いてるなんて。そんな人はじめて見ました」



「ばつぐんトコトコ」



 周りの人にはこの子がなんて言ってるのか分からないのよね。どういう風に聞こえてるんだろう。



「履き心地バツグンです!」



「そ、そうなんですね……あ、それじゃあ準備も出来ましたので、謁見の間へ参りましょうか。あ、お名前は……」



「ベルベルって言います!」



「なんか独特なお名前ですね」



 まあ、それはそうね。

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