第7話 少し妬いちゃった
「桜さん、俺、相談屋さんとかでもないんですみません」
「おーい、ちょっと」
逃げようとしたが、腕を掴まれて引き止められてしまった。早く家に帰って夕飯の支度をしなければならないのに。別に急がなくてもいいけど。
「シュークリームあるから話聞いてよ」
「わかりました」
「シュークリーム効果すごっ!」
シュークリームを食べられるとわかって即答してしまった。うんと言ったからには彼女、桜さんの話を聞いてあげよう。
立ち話だと寒すぎて凍えるので初対面の彼女と一緒にショッピングモールにあるフードコートへ移動した。
このフードコートでは、何を食べてもいいので、桜さんからもらったシュークリームを食べた。
「ゆーちゃんから聞いてたけど、泉くんは、シュークリーム好きなんだね」
「うん、シュークリームは───」
「別れて後をつけてみたら他の女の子とお茶してる。泉くんの浮気者」
「い、今井さん!?」
シュークリームについて語ろうとすると後ろから気配がして振り返るとそこには先ほど別れたばかりの今井さんが立っていた。
浮気者という発言は、間違っている。俺は今井さんと付き合っていないし、桜さんと一緒にいてもいいはずだ。
いや、待て。もしかして相談に乗るのは私だけだと思ったのにと今井さんは桜さんに嫉妬しているのだろうか。
「あっ、ゆーちゃん、今から泉くんに恋愛相談に乗ってもらおうと思ってね。ゆーちゃんも座る? シュークリームあげるよ」
今井さんも甘いものには目がない。断るわけがないだろう。
彼女は少し悩んでから俺のことをギロッと睨み付けてきて、隣に座った。
(怒ってる……?)
「はい、シュークリーム」
「ありがとう、千聖ちゃん」
ご機嫌斜めだったが、今井さんはシュークリームを一口食べると幸せそうな表情へと変わった。
彼女の食べている時の表情、好きだな。こっちまで幸せになるというか。
「で、聞いて、あっ、ゆーちゃんも食べながら。実は私、恋愛が上手くいかないのよ」
そう言って困っていることを話し出した桜さん。うん、わかってたよ、恋愛相談って。俺、恋愛マスターとかそういう人じゃないんだけど。
けど、シュークリームをもらい、話を聞くと決めたからには相談に乗ろう
「恋愛が、上手くいかないって?」
「それがね、いつも別れよって相手から言われて中々続かないの」
「はぁ……そ、そうなんだね」
悪い癖が出そうになった。いや、もう手遅れだ。俺はつまらないなと思うと「はぁ」と返してしまうことがある。今のは反省だ。
「どうしたら長続きすると思う?」
「は……んー、何だろうね。今井さん、わかる?」
アドバイスは無理な気がして隣にいる今井さんに助けを求めると彼女はそうねと呟く。
「別れようと言われるのだから千聖ちゃんに何か問題があると思うのよ」
「私に問題? 私、好きな人にはすっごい一途だし問題ありの行動なんてしてないけど……」
「自分が気付いていないだけでしてるかもしれない」
はむっとシュークリームを食べて気付けば今井さんは完食していた。
ほんと早いよな、今井さんのスイーツを食べる速度は。
って、彼女の食べっぷりに感動している場合じゃない。
「んー、重すぎるからとか?」
「重すぎるって?」
「泉くん、私にはその自覚がないから聞かれても困るよ」
「あっ、そっか、ごめん」
恋愛の重いって何だろう。好きすぎるってことだろうか。
「けど、そっかぁ、私に原因があるなら自分のダメなところに気付かないといけないね。2人とも相談ありがと」
俺は何もしていない、シュークリームを食べただけだ。今井さんがほとんど話してたし。
困っていることは自分で解決することにしたらしく桜さんは先に帰り、俺と今井さんは残った。
「そう言えばどうして俺をつけてたの?」
「つけてた……そう、そうよ。泉くんにこれを渡し忘れてたの」
彼女は俺が聞くまで忘れたことがあったようで、慌ててカバンの中から何かを取り出した。
「これ手作りクッキー。学校で渡し忘れてた。良かったら食べて」
「あ、ありがとう」
もしかして好きな人に渡すもので、余ったからくれたのかな。
「泉くん、私以外の女の子にも相談に乗るのは構わないけど、私、少し妬いちゃったの」
「焼いた? 何か焼いたの?」
ボケているのかと彼女は俺のことをじっーと見てきた。
「嫉妬したの。千聖ちゃんと話してる泉くんを見てモヤモヤした」
「嫉妬……」
最近、漫画で勉強したからわかる。確か、好きな人が他の誰かと話しているのを見たらモヤモヤすることを嫉妬というと。
けど、おかしいな。今井さんが好きなのは俺じゃないし、嫉妬する理由がわからない。
「ふふっ、泉くん、さっきの言葉は忘れて。けど、これは覚えておいてほしいの。私、泉くんのこと好きよ」
「……俺も今井さんのこと好きだよ」
「! そ、それって、どういう意味で……」
今井さんは顔を真っ赤にして小さな声で聞いてきた。熱でもあるんじゃないかというほど真っ赤で心配だ。
「そりゃもちろん友達として」
「……そ、そうだよね……うん。泉くん、少し買い物をして帰りたいんだけど、一緒にどう?」
買い物に誘われた。この後、夕食に食べるものを買うだけなので、急いで帰る必要はない。
「いいよ。もしかして、いつもの店に寄るの?」
「そう、大正解よ、泉くん」
彼女は嬉しそうな表情で両手を合わせて、チラッとこちらを見た。どうやらその店の話をしたいらしい。ここはその話を聞きたいアピールをしておこう。
「新作?」
「違うよ、この時期になったら売り始めるあまおうぜんざい。これが買えるのはこの辺りでここだけなの。さっ、行きましょう、泉くん」
「う、うん……」
手をぎゅっと握られ、俺は彼女に店へと連れていかれた。
(そんなに握らなくても一緒に行くのになぁ)
「そう言えばこの前言ったのにまた泉くん、はぁって言ってたね。話が面白くなくてもそんな反応はダメだよ?」
「聞かれてた……ごめんなさい」
「ふふっ、わかればよろしい」
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