第8話 パンケーキと告白

「やっぱり相談という方法はあまり意味がないと思うの。気付いてもらうためにやったけど、泉くんは多分……」


 ある日の放課後、私は、泉くんと仲の良い宮本くんに話を聞いてもらっていた。話す内容はもちろん泉くんとのこと。


「多分?」

「多分、泉くん、私が好きな人は自分じゃないって思ってるの」

「まぁ、相談されたら自分だなんて思わないしな」


 このまま恋愛相談という形で好きとアピールしても気付かれずに終わってしまう。それならもう実は好きな人は泉くんだということを言おうと思った。


 この前、告白したけど友達としてと思われてしまったが、あの時は、異性として好きだという言葉が足りなかった。


「私、明日の放課後、泉くんに好きって言う」

「おぉ、頑張れ。やっぱ翔太にはストレートに言わないとな」

「うん」


 告白してダメかもしれないと思うと怖い。けど、このままじゃ進展しない。


 バレンタインでの告白は失敗したが、明日こそちゃんと告白する。





***





 学校のない休日。昨夜、今井さんに誘われて遊園地に行くことになった。


 遊園地なんて付き合うカップルが行きそうな場所だが、本当に俺でいいのだろうか。


 電話で好きな人とは行かないのかと聞いてみたが、彼女は俺と行きたいと言った。


(カフェじゃないのになぜ俺なんだろう……)


 不思議に思いつつ駅前で彼女のことを待っていると今井さんが駆け寄ってきた。


「泉くん、お待たせ。待った?」


 お決まりの台詞を口にしたので、俺も待ってないよとお決まりの台詞で返す。


「じゃあ、行こっか遊園地」

「うん、ちょうど電車来るよ」


 声のトーンからしてわかる。今井さん、遊園地が楽しみなんだ。


 俺も昨日は久しぶりに遊園地に行けることが楽しみで中々眠れなかったから一緒だ。


 電車は休日だが空いており、4人座れるところに俺と今井さんは、向かい合わせに2人で座る。


「まだ着いていないのにもうワクワクしてる。泉くん、今日の目的は遊園地の乗り物に乗って楽しむことじゃないの」


「何かあるの?」


 乗り物に乗って楽しむのではないというのはどういうことだろうか。遊園地に行ったら乗り物に乗って楽しむものだと思うが他にあるのだろうか。


「今から行く遊園地に美味しいパンケーキがあるの。それを食べに行くのが本当の目的」


 やはり今井さんは今井さんだ。彼女は人が多いところが苦手なのに遊園地へ行こうと言うので不思議に思っていたが、本当の目的がパンケーキを食べることなら納得だ。


 楽しみなのは乗り物じゃない。パンケーキを食べることだ。


 小さく笑うと彼女は首をかしげてどうしたのと聞いてきた。


「いや、今井さんは、甘いもの大好きなんだなって思って」

「……甘いものは好きよ、嫌なこと全部忘れることができるもの」


 彼女はそう言って窓から外の景色にうっとりしていた。


 遊園地まではまだ時間がある。読書でもしようとしたが、今井さんとスイーツの話をすることにした。


 電車から降りたのは1時間後。お昼の時間にしてはまだ早いが、遊園地に着くなり、彼女はパンケーキ屋さんがあるという場所へ向かう。


 歩くの速いなぁと思いながら彼女へついていき、すぐに店内へ入る。


 遊園地に着いてすぐ食べるとは思わなかった。少し乗り物に乗ってからと思っていたが。


 パンケーキはたくさん種類があってどれがいいのかわからないので、取り敢えず今井さんと同じ苺パンケーキを頼んだ。


「泉くん、パンケーキの食べ方わかる?」

「食べ方? ナイフとフォークを使って食べるんじゃないの?」


 パンケーキはあまり食べないが、食べ方ぐらいわかる。けど、彼女はそういうことを聞いているわけではなかったらしい。


「何を使うかじゃないの。何から食べるか」

「何から……パンケーキから?」

「そう、それがいいの。トッピングだけ先に食べたり、最初に全部切り分けたりはしたらダメよ。トッピングはパンケーキと一緒に食べるの」

「へぇ」


 パンケーキの食べ方なんて気にしたことなかったな。今まで普通に食べてたし。


 パンケーキの食べ方を教えた今井さんだが、まだあるのか口を開く。


「けどね、パンケーキは美味しく食べることが1番だと私は思うの。正しい食べ方なんてない、気にしたら美味しく食べられない」 


 そう言って今井さんが、メニュー表をパタリと閉じて元の場所へと戻すと頼んだものがやってきた。


「お待たせしました。苺パンケーキです」 


 テーブルに並ぶと今井さんは、キラキラした目でパンケーキを見ていた。


「幸せ……」

 

 まだ食べていないのに早いよ、今井さん。けど、わかる。甘い匂いからしてこれは絶対に美味しい。


「「いただきます」」


 フォークとナイフと手に取り、食べる分だけナイフで切り、その上に少しトッピングを乗せる。そしてそれをフォークで刺してパクっと食べた。


(!!)


 ふわふわの生地に少し酸っぱいイチゴジャム。そして、冷たいアイス。この3つがこんなにも合うとは。一口食べるだけで幸せな気持ちになる。


 顔を上げて目の前に座る今井さんを見ると彼女は、美味しそうに食べていた。


 食べるスピード速いなと思っていると彼女と目が合った。それからじっーと彼女に見られており、すぐにあることに気付いた。


(パンケーキが狙われてる……)


 彼女の目の前にあったはずのパンケーキはいつの間にかなくなっておりお皿には何もない。


「泉くん、私、不思議なのよ。苦手なものは中々食べれないのに美味しいものはすぐになくなるの……」


 そんな、大事件みたいな言い方されても困る。それは今井さんだけではなくみんなそうだと思うけど。


「1枚いる?」

「いいの?」

「いいよ」

「ありがとう、泉くん」


 この後、まだ何かに付き合わないと行けない気がするのでお腹一杯に食べるのは危険だ。


 パンケーキは2枚あったので、1枚、彼女に食べてもらうことに。


 まだ何かという予想は当たっており、何個かアトラクションを楽しんだ後の昼食は、またまたスイーツだった。


(胃がやられる……)


 もう遊園地に何をしに来たのかわからない。けど、まぁ、今日の目的はパンケーキを食べに来たことなんだもんな。


「何でこんなに美味しいものが園内でしか食べられないのかな……いつでも行けるカフェにあればいいのに」

「確かに。ここは園内に入るためのチケットがないと入れない店だしね」


 チーズケーキを食べ終えるとまたアトラクションを楽しみ、最後は今井さんの希望で観覧車に乗ることに。


「泉くん、恋愛相談のことなんだけど……」

「何かあった?」


 表情からして何かあったのかなと心配になった。上手く行かないことでもあったのだろうか。


「ううん、もう恋愛相談は必要なくなったってことを今日は泉くんに言いたかったの」

「……そ、そっか」


 恋愛相談がいらなくなったということはもしかしたら好きな人と上手くいったのかもしれない。それなら良かった。


 良かったと思いたいのに何だろうこのモヤモヤは……。


 この不思議な気持ちが何か考えていると彼女は、俺のことを真っ直ぐ見る。


「私、泉くんといる時間が好き。一緒に甘いもの食べて、美味しいねって言い合う時間が好き。一緒にいると落ち着くの」

「……俺も今井さんといる時間は好きだよ」

「ふふっ、一緒。これからも私は、泉くんとこうしてどこかに出掛けたり、カフェ巡りをしたい。泉くんは、どう思ってる?」


 彼女の言葉にすぐ俺も思ってるよとは言えない。だって、彼女には好きな人がいるから。隣に俺がいたら上手くいかない。


(けど、ここで嘘をつくのは嫌だ)


「俺も……そう思ってる」

「! じゃあ、これからもカフェ巡りに付き合ってもらおうかな。私が異性として好きな泉くんと一緒に食べるスイーツはとっても美味しいから」

「……ん?」


 今、告白のような言葉を今井さんは言った気がする。異性として好きな泉くん?


「えっと……ん? もしかして好きな人に恋愛相談してた?」

「ふふっ、気付くの遅いよ、泉くん。バレンタインの時に好きって言ったのに」

「えっ、あっ、ごめん! あれは友達って意味だと思ってたから」 

「いいよ、泉くんのそういうところが好きだから」


 彼女はそう言って小さく笑い、外の景色を眺める。気付けば、観覧車は1番上に来ていた。


 今井さんは手を差し出し、微笑む。そして俺はその手を優しく握った。


「これからもよろしくね、泉くん」

「うん、よろしく今井さん」


 



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ここまで『彼女の好きな人はどうやら俺らしい~彼女は気付いてほしいので今日も恋愛相談という方法でアピールする~』(高校一年生編)の応援ありがとうございます。今後の展開もよろしくお願いします。

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