第6話 ベイクドチーズケーキ論争
バレンタインデー、今井さんからガトーショコラをもらった次の日の放課後。俺と彼女はあることで揉めていた。
「わかってないわね、泉くん。私は絶対にあれだと思うのよ」
「いや、それよりもあっちの方だよ」
廊下でそう言い合っていると遅れて晃成がやって来た。
「お二人さん、何か揉め事でも?」
俺と今井さんが言い合ったりしていることは珍しく、心配した表情をして聞いてきた。
「ほんと、わかってないの。宮本くんは、苺のベイクドチーズケーキがいいと思うよね?」
「いや、晃成、チョコのベイクドチーズケーキだよな?」
「いや、ちょっと待て、ちょっと待て。何で揉めているのか教えてくれ」
何の話か全くわからないので晃成は、俺と今井さんの言葉を一度ストップさせた。
「ベイクドチーズケーキと言えばという話をしてたの。宮本くんは、もちろん苺のベイクドチーズケーキよね?」
「えっと……俺、ベイクドチーズケーキあんまり食べないからなぁ……」
「それは勿体ないわ。宮本くん、今から『yozora』というカフェに行きましょ」
「えっ、うん、いいけど、翔太は?」
今井さんに誘われた晃成は、彼女と俺のことを見る。
彼女は多分、今日は俺とは行きたくはないだろう。今日は晃成と行きたいのなら俺は帰ろう。
「俺は帰るよ。また明日な」
「行かなくていいのか?」
「うん、お腹空いてないし」
俺は今どんな顔をしているのだろう。彼女は、今、どんな顔をしているだろう。
喧嘩をしているわけではないが、今は彼女と話せる感じはしないし、一緒にいても気まずい気がする。
一緒に帰るつもりだったが、俺は1人で学校を出た。
あの言い方は悪かった。謝ればいい話だが、俺は逃げてしまった。
「最低だ……」
***
悪いことをしたのに謝らない私は最低だ。すぐにごめんねって言えばいいだけなのに。
ベイクドチーズケーキは、苺が一番好きだけど、チョコも好き。嫌いというわけではないのにあの言い方は悪かった。
これからどうしよう。明日、すぐに謝って……いや、明日ではなく今日言うべきだろう。
泉くんとまた話したいし、カフェ巡りに行きたい。このままなのは絶対に嫌。
(泉くんとも行きたかったな……)
「今井さん、翔太と行きたかったよな?」
「……行きたかったけど、泉くん、お腹空いてなかったって言ってたし……」
あの状況では誘うことが難しかった。謝って一緒に行こうと言えば良かった話なんだけど。
友達とこういうことになったのが初めてでどうしたらいいかわからなかったら私は宮本くんだけを誘って彼から逃げた。
「俺は2人の会話を最初から聞いてないからわからないけどさ、翔太が悪いなら怒ってくるよ」
「それはダメ……今、食べてる苺のベイクドチーズケーキ、味がしないの」
どちらが悪いかと言われたら多分私が悪い。人の好みは違うのに私は押し付けようとしてた。
「宮本くん、今から泉くんも呼んでもいいかな?」
「うん、もちろん。今井さんには味がする苺のベイクドチーズケーキ食べてもらいたいし」
「ありがとう」
呼ぶと決めて私はすぐに泉くんへどこにいるかとメッセージを送った。
既読がつかないかもしれないと思ったが、すぐに『駅前』と返信が来た。
早く会って謝りたいと思い、走って店を出て、駅へ向かった。
スイーツは、甘くないとダメ。味がしないなんて作ってもらった人に失礼。
「泉くん!」
「今井さん?」
怖い。怒っているかもしれないと思うと彼の顔を見るのが怖い。けど、そんなこと思っていたらここに来た意味がない。
「苺のベイクドチーズケーキを食べに宮本くんとカフェに行ったわ。けど、味がしなかったの」
「?」
「泉くん、チョコのベイクドチーズケーキも私は好きよ。わかってないとか言ってごめんなさい」
「……俺もごめん。俺も苺のベイクドチーズケーキ好きだよ」
よく考えると私と泉くんはおかしなことで言い争っていた気がする。
泉くんと目が合い、笑うと彼も笑った。うん、いつもの感じだ。仲直り?できて良かった……。
「泉くん、お腹一杯というのは嘘よね?」
「うん、ごめん嘘ついて。ほんとは、甘いものが欲しいと思ってた」
「ふふっ、やっぱりね。店に戻るけど、泉くんも来る?」
「うん、行くよ」
***
カフェ『yozora』に着くと晃成は、一人で苺のベイクドチーズケーキを食べていた。
「ただいま、宮本くん」
「お帰り、今井さん」
今井さんが座った隣が空いていたので、座っていいかと聞いてからそこへ座ることに。
何を頼もうか悩むことなく俺は苺のベイクドチーズケーキを頼んだ。
「美味しい」
「ふふっ、でしょ? チョコのベイクドチーズケーキも美味しい」
「2つ目……」
いつの間にか苺のベイクドチーズケーキを完食した今井さんは次にチョコのベイクドチーズケーキを頼んで食べていた。
「スイーツは幸せになれるものね」
「そうだね」
今井さんと晃成の3人でカフェで楽しくお喋りし、解散後、1人になると誰かが俺の肩をトントンと叩いてきた。
今井さんか晃成が戻ってきたのかなと後ろを振り返るとそこにはふわふわの髪で同じ学校の制服を着た人がいた。
「あっ、やっぱり泉くんだ。ねっ、相談してくれる人って君のこと?」
相談してくれる人とは一体何だろうか。今井さんの相談に乗ることは多くなったが、みんなの相談役になった覚えはない。
「いえ、人違いです」
「いやいやいやいやいや、絶対君だって」
「……人違いです」
「んー、おかしいな。ゆーちゃんが言ってたんだけど……あっ、自己紹介忘れてた。
ゆーちゃんとは誰なのか、考えてすぐにわかった。ゆーちゃんは、今井さんのことか。自己紹介はありがたいんだけど、彼氏いるかどうかの情報は必要なかった気がする。
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