第3話 カフェデート

 土曜日、今日は今井さんとプチフールを食べに行く約束をしている日だ。


 今日行くカフェについて昨夜調べてみたところ、数日前にオープンしたばかりの店らしく、今井さんから送られてきたメッセージに書かれていた集合時間が早いのに納得した。


 今井さんと休みの日に会うのはこれが初めて。デートではないが、ちゃんとした服でいこうと決意し、制服で行こうかなと考えていると服の相談に乗ってくれた姉から「そりゃないわ」と返されてしまった。


 そして結果、制服はやめて、普段外に出掛けている少しオシャレな服装に決まった。


 お出掛けの基本として集合時間にはギリギリで行くのではなく余裕を持って少し早めに着いた方がいいと思い、早すぎず遅すぎない30分前に行くことにした。


 今井さんより早く着くだろうと予想していたが、集合場所である学校の門前に到着すると既に彼女は到着していた。


「今井さん? おはよう、早いね」

「おはよう、泉くん。楽しみで早く来ちゃった」


 ニコリと微笑む彼女の笑顔は今日も眩しい。見ているだけ癒される。


 俺も昨夜は、明日、中々食べないプチフールを食べることが楽しみで眠れなかった。


「俺も楽しみだったよ。今井さんの私服、初めて見たかも。とっても可愛い」

「! あ、ありがとう……泉くんは、カッコいいね。初めて見たからとっても新鮮」


 私服のこと誉め合っていると何だか気恥ずかしくなり、シーンと沈黙になった。


 彼女とこうして話していてこうなったのは初めてな気がする。休日に会うというだけなのにいつもと何かが違う気がする。


「泉くん……行こっか?」

「うん、そうだね」


 いつまでもここにいるわけには行かないので学校から離れてカフェへ向かう。


 歩くこと3分。開店してからすぐに来たので待つことなく入店することができた。


 店員さんに案内され、今井さんと向かい合わせに座ると一緒にメニュー表を見た。


 他にもスイーツがあるが、プチフールが食べられる店なので、種類が多い。抹茶クリーム、オレンジクリーム、チョコクリームとできれば全て食べたいほどどれも美味しそうだ。

 

「泉くん、提案してもいい?」

「別々のものを頼んでシェア?」


 彼女が何を提案するのか言う前からわかり、口にすると今井さんは驚いた顔をして小さく手を叩いた。


「泉くん、凄い。私の考えてることがわかるなんて」

「いや、いつもそうだから……」


 珍しいことでもない。今井さんは、いろんなスイーツがあるといつもシェアするのはどうかと提案してくる。


「私、2つ頼むけど、泉くんは1つ?」

「うん、1つ」


 本当に凄い。俺は甘いものは1つしか食べれない。どんなにそれが美味しくても2つ目からは飽きてしまう。


「俺はチョコにするけど、今井さんはどうする?」

「私は抹茶と苺にする。決まったことだし頼もっか」

「うん、俺が呼ぶよ」


 呼び出しのボタンがなかったので、手を挙げて近くにいた店員さんを呼んで注文した。


 注文を終えると今井さんが店内を見渡し、小さなノートに何やら書き始めた。


 このノートはカフェ巡りノートだ。見せてもらったことがあるが、行ったことのあるカフェについて書かれているノートだ。


「今井さん、カフェ巡りの他に趣味ある?」

「趣味……食べること? そう言えば、泉くんは、何が好きなの?」


 食べることが趣味なのは彼女を見ていてよくわかる。いつも凄い幸せそうに食べてるし。


「読書かな……」

「本、私も読むよ。漫画より小説派」

「俺も小説」


 共通点を見つけて嬉しかったのか今井さんは、ニコッと微笑んだ。


 頼んだものが来るまでは彼女とスイーツのことを語り、数分後、プチフールが来た。


「もうわかる……これは美味しい」


 目の前に置かれた抹茶と苺のプチフールを今井さんは、じーと見つめる。


「写真撮る?」

「うん、撮る」


 プチフール3つを並べてあげ、彼女が撮りやすいようした。


 自分が頼んだものは基本自分が食べ、一口は相手が食べることになった。


「泉くん、あ~ん」

「自分で食べれるよ?」


 食べさせてくれるのは嬉しいがそういうことをするのは付き合っている男女とか、かなり親しい仲の人達がやることな気がする。


 今井さんは俺が食べてくれないからか残念そうな顔をしてこちらをチラチラ見ている。


「……食べようかな」

「うん!」


 口を開けて今井さんに食べさせてもらうと口の中に苺の甘い香りが広がった。


「美味しい……」

「ほんとっ? 私も食べる」


 彼女は気にすることなく俺が先ほど使ったものを使い、苺のプチフールをパクっと食べた。


「うん、美味しい!」

「……可愛い」

「!」

「いや、その……」


 食べてる今井さんが可愛らしくてつい口にしてしまった。聞こえてたみたいだし何も言ってないよと言うのはさすがに無理があるだろう。


「食べてる今井さんが可愛いって思って……」 「……泉くんも可愛い。いつも美味しそうに食べてる」

「それは今井さんも。あっ、チョコ食べる?」

「食べたい! 食べさせてくれるの?」

「えっーと、うん……」


 一瞬だし、大丈夫だ。自分のスプーンでチョコのプチフールを一口すくい、彼女の口元へ持っていき、食べさせる。


「甘い。チョコも好きかも」

「今井さん、口についてる……」

「!!」


 口元についていたチョコを手で取ってあげると彼女は椅子ごと後ろに下がった。


「ご、ごめん!」

「大丈夫、ビックリしただけ。取ってくれてありがと……」


 今井さんに嫌われるようなことをしてしまったと思ったが、大丈夫そうだ。良かった。


「泉くん、またこうして休日にも私とカフェ巡りしてくれる?」

「……俺で良ければ」


 この前のように好きな人と行ったらどうかと言うこともできた。けれど、彼女とのカフェ巡りも彼女が美味しそうに食べる姿を他の人が見るのは何だかモヤッとして嫌だった。


「なら決まりね。次はどこにしようかな……」

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