第2話 デートのお誘いのつもり

『好きだと気付かせるためのアピール方法か』


 時は遡り、昨夜。私は、泉くんと仲のいい友達であり、中学からの付き合いがある宮本晃成みやもとこうせいくんと電話で相談に乗ってもらっていた。


「泉くん、鈍感だから普通にアピールしても多分気付かない」

『だろうな。翔太は、超がつくほど鈍感だからな』


 宮本くんの言う通り、泉くんは鈍感だ。気付いてくれると思っていても何か違う解釈をしたりする。そっちじゃないと何度心の中で突っ込んだことか。


『あっ、恋愛相談なんてどうだ?』

「恋愛相談?」


 話を詳しく聞くとまずは泉くんに恋愛相談にのってもらう。その内容は全て泉くんに関係があって、「あれ、俺のことじゃ……」と気付いてもらう作戦。


 本当にその作戦でいけるのかなと思ったが、少しワクワクする楽しそうな作戦だと思った私はすぐに実行することを決めた。

 

「ありがとう、宮本くん」

『どういたしまして。いい結果になるよう願ってる』


 宮本くんとの電話を切り、さっそくどんな相談内容にしようか考えることにした。


 私の友達の話みたいに話して実は私のことみたいな感じにしよう。


 昨夜はこんな感じだったのだが、いざやってみると難しすぎた。


「相談内容が悪かったのかな……」





***





 翌日のお昼休み。いつもなら今井さんと友達の晃成と3人で食べているが、今日は晃成が部活の集まりがあるらしく今井さんと2人きりだ。


 昨日の放課後、今井さんから恋愛相談を受け、彼女に好きな人がいると知ったからこそ俺と2人きりの昼食はいいものかと悩む。

 

「泉くんと2人でお昼久しぶりだね……」

「そうだね。俺と2人で大丈夫?」

「? 変なこと聞くのね、泉くん。友達と食べるのに嫌とかそんなことは思わない」


 今井さんがいいというならいいか。もし、好きな人がこの状況を見て付き合ってるのかと聞かれた場合、俺も誤解を解くのに協力しよう。俺と彼女はそういう関係ではないと。


 今いる場所はあまり人のいない落ち着いた校舎裏にある場所。いつもの場所でといったら俺も今井さんもここに来る。


 隣同士にベンチに座るとさっそく家から持ってきたお弁当を食べ始める。


 一人暮らしを始めてから自炊をするようになった。最初は大変だったが、小さい頃からお母さんに教えてもらっていたおかげで何とかなった。


「泉くんのお弁当っていつも美味しそう。卵焼きとか」

「……食べる?」


 欲しそうにキラキラした目でこちらを見ていたのでいるかどうか尋ねた。すると彼女はコクりと小さく頷く。


 取れるようにお弁当を彼女の方へ持っていくと今井さんは自分のお箸で食べると思ったが、口を開けて待っていた。


(んん?)


「自分で食べないの?」

「……食べさせてくれるんじゃないの?」


 食べさせるつもりは全くなかった。俺の箸でなんか食べたくないと思うし、友達にあ~んはないなと思ってたし。


「食べさせてほしいの?」

「うん、食べさせてほしい」


 今井さんに食べさせてほしいと頼まれては断れない。誰も見てないし、大丈夫か。


 いい感じに焼けている卵焼きを箸で掴み、彼女の口元へ持っていき、あ~んした。


「美味しい……是非お嫁さんに」

「逆だよ」

「ふふっ、ナイスツッコミ……。ところで、来週行くカフェについて話しておきたいの」

「来週?」


 今まで今井さんと2人でカフェに行ったことは何度かあるが、好きな人がいるのになぜ俺を誘うのだろう。その人を誘ったらいい気がするのだが。


「俺じゃなくて好きな人、誘ってみたら?」

「……それは無理。食べに行くのに緊張して美味しく食べられない」

「そ、そう……」

 

 メインはカフェに行くことだと思うが、彼女はカフェに行ったら頼んだものを美味しく食べないと嫌らしい。


「俺となら大丈夫なの?」

「泉くんは特別だから……」

「そっか……で、来週のカフェだっけ?」


 話が少しそれたので戻すと彼女は元気良く頷いた。彼女はカフェのことになるといつもキラキラした目をする。 


「学校近くにプチフールが食べられる店ができたみたいなの。どうかな?」

「いいと思う」

 

 プチフールはフランス発祥のスイーツで一口サイズのケーキだ。種類は様々。


「じゃあ、決まりね。今週の土曜日とかどうかな?」


 休日、学校のない日を指定するとは珍しい。いつもなら放課後に行こうと言うのだが、平日は忙しいのかな。


「いいよ、特に予定ないし」

「じゃあ、決まり。話変わるけど、今日もまた相談してもいいかな?」

「うん、いいよ」


 相談というのはおそらく昨日と同じで恋愛相談だろう。


「そう言えば、今井さんの好きな人って同級生?」

「うん、同級生だよ。同じクラスになったことある」

「そうなんだ」


 誰だろう。同じクラスになったことがあるということは今ではなく過去にクラスが一緒だった人だ。だとすると中学が同じ人。


 この高校には同じ中学出身の人が10人いる。男子は俺含め4人だ。1人ずつ名前を言っていき、彼女にその人かと聞くこともできるが、やめておこう。


「あっ、ごめん、相談って?」

「……実は私の好きな人、ちょっと鈍感なの」

「うん」

「だから多分、私がストレートに好きって告白してもダメだと思うの」

「それ、ちょっとなの?」


 好きと言われたらそれが恋愛なのか人としてなのかと疑問になるが、さすがに好きと言われて気付かない奴はいないだろう。


「そこで、相談です。どうしたら好きってアピールできると思う?」

「それは告白以外の方法?」

「うん」

「ん~、遊びに誘ったりするのはどう?」

「へー」


 あれ、あんまり良くないアドバイスだったのだろうか。今井さんが何言ってるのみたいな表情でこちらを見ている。


 そして彼女はリスのようにぷく~と頬を膨らますと口を開いた。


「泉くんのバカ」

「なぜ罵倒!?」





***





「ふふっ、誘えた……」


 いつもは放課後に誘っているのだが、思いきって休日にカフェに行こうと誘ってみた。


 学校がある日しか会わないが、今週の土曜日は泉くんに会える。


「頑張れ、私」








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