彼女の好きな人はどうやら俺らしい~彼女は気付いてほしいので今日も恋愛相談という方法でアピールする~

柊なのは

第1話 恋愛相談という方法でアピール

「泉くん、恋愛相談に乗ってほしいの」


 高校1年生の秋。場所はカフェ『hitode』。中学からの付き合いがある女子友達に俺、泉翔太いずみしょうたは、放課後、少し相談に乗ってほしいと頼まれた。


 彼女の名前は今井結月いまいゆづき。セミロングで赤のリボンがトレードマークだ。


 カフェ巡りが大好きで俺はよくそれに付き合ったりしている。


 今まで彼女の相談事と言えば、カフェに関しての相談か勉強関連だ。恋愛相談なんて一度もされたことがない。だからこそ驚いたのだ。急に恋愛相談に乗ってほしいと言ってきたのだから。


 恋愛相談にも2つパターンがある。1つは、今井さんの友人が困っていてそれを俺に相談するのか。もう1つは、今井さんに好きな人ができてそれに関して俺に相談に乗ってほしいか。


 もし、好きな人ができたとしたらそれは驚きだ。俺をよくカフェに行こうと誘うのでてっきり好きな人はいないものだと思っていたが。


(誰が好きなんだろう……まさか!)


 思い付いたのは俺の友人。彼も今井さんとは中学からの付き合いがあるし、話せる仲だ。今井さんが好きになったという可能性は高い。


 色々考えるのはいいが、まずは彼女の話を聞いてみよう。


「恋愛相談? 今井さん、好きな人がいるの?」


 彼女は、少し間を空けてから小さく頷き、ティーカップに入った紅茶を一口飲む。


 2つパターンがあったが、今井さん、好きな人がいるのか……。俺に相談をするということはまず今井さんの好きな人は俺ではないことだけはわかる。


 彼女とは友達で、恋愛感情は抱いて……ないはずだ。それなのに少し悲しい気持ちになってしまった。


(モヤモヤする気がするが多分気のせい)


 しばらく何も話さず紅茶を少しずつ飲む今井さん。一緒に頼んだケーキを半分食べてから彼女は、口を開いた。


「最近気付いたんだけど、その人といるとドキドキするの……」


「そうなんだ。けど、何で俺に恋愛相談を?」


 今井さんは俺以外にも友人はたくさんいる。恋愛相談なら俺よりも適している友人がいるはずだ。わざわざ恋愛未経験な俺に聞く必要はない。


「泉くんが1番仲良しだから……」


 なんて嬉しい言葉なんだろう。好きな人が俺ではないとわかって振られたような気持ちになっていたが、気持ちが明るくなった。


「俺、恋愛未経験だけど?」

「大丈夫……そんなに難しい相談に乗ってほしいわけじゃないから」


 そっか、それなら大丈夫か。あれ、待てよ。この状況はいいのだろうか。好きな人がいるのに放課後、別の男と過ごすのは。


 もし、今井さんが好きな人が今のこの状況を見ていて、彼女が相手に告白したとき、『泉といたのに何で俺に告白を?まさか二股をする気なのか?』と言われてしまう。


(大丈夫なのか……?)


「泉くん、好きな人にしてもらって嬉しいことってある? 彼女ができたらしてほしいことでもいいよ」

「してほしいこと?」


 聞いてみると確かに難しくない相談のようだ。好きな人に何をしてもらったら嬉しいかなら俺でも答えられる。


「そうだな……料理ができる人なら一度でいいから何か作ってほしいかも」

「料理……例えば、何作ってほしいの?」


 何と聞かれて少し考えてみる。好きな人に作ってもらえるならどんなものでも嬉しい。頑張って作ってくれたのだから。1つ作ってほしいものを上げるとしたら……


「オムライス」

「オムライス、いいわね。私も好きよ」

「今井さんはオムライス作れる?」

「作れるよ。私、料理好きなの」


 彼女のことは知っているつもりでいたが、料理ができるとは初耳だ。できるだろうなとは思っていたが。


「泉くん、一人暮らしよね。今夜、私の家に来てオムライスを食べてほしいの」

「俺が?」

「うん……」


 今井さんも一人暮らしで家には何回か行ったことがある。だから家にお呼ばれされたことには驚かないが、なぜオムライスを食べてほしいと頼まれたのかが疑問だ。


 好きな人に何をしたら喜ぶのか相談をしたのなら今井さんはそれを好きな人に実行するべきじゃないだろうか。


 いや、違う。本当に喜んでくれるのか俺を使って試そうとしているんだ。それなら友達としてここは協力してあげよう。


「いいの?」

「いいよ。私のオムライス食べたら泉くんのほっぺ落ちちゃうかもよ」

「へぇ~それは気になるなぁ。食べたいかも」

「ふふっ、じゃあ、食べにおいで」


 こうしてカフェでゆっくりした後、夕食は今井さんの家でオムライスを食べることになった。


 夕食は適当にスーパーで買ったおかずと家で炊いたご飯を食べるつもりだったが、何だか急に豪華になった気がする。


「今井さん、美味しかったよ」


 彼女の言う通り、ほっぺが落ちるほど作ってくれたふわふわのオムライスは美味しかった。


(俺も今度、作ってみようかな)


「それは良かった」

「きっと今井さんの好きな人も喜んでくれると思うよ」

「……ありがとう」


 恐らく、今井さんの作るオムライスを食べるのはこれが最後だろう。今度は、好きな人のために作るのだから。


「今日はありがとう。お邪魔しました」

「うん、こちらこそありがとう。相談に乗ってくれて。また頼むかも……」

「いいよ、いつでも相談に乗る」

「ありがと」


 相談に乗れているかわからないが、彼女の話を聞くことぐらいなら俺にもできる。それでいいのなら……。


「じゃあ、また学校で」

「うん」


 玄関前で別れる際、何だか今井さんの表情が寂しそうに見えたが、気のせいだろうか。





***


 


 彼を見送った後、私は、口元が緩み、ニヤニヤが止まらなくなった。


(オムライス、食べてもらえた……)


 私は、彼が好きだ。その気持ちに気付いたのは少し前。中々、私の気持ちに気付いてくれないので彼を振り向かせるために今日から始めたのが、恋愛相談。この方法で私が好きだとアピールすることにした。


(泉くん、中学の頃から鈍感だから気付いてもらうのは難しそう……)


 玄関から寝室へ入ると私は、ドサッとベッドに寝転がりイルカのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


「今日は失敗したけど今度は気付いてくれるといいな……」


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る